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悪役令嬢に転生すること88回のベテラン悪役令嬢が語る 悪役令嬢たるもの  作者: 南蛇井


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11/23

私一人の物語ではなくなった

学院寮の一室。

豪奢なカーテンに縁取られた窓辺は、夜風に揺れて柔らかな波を描いていた。隙間から差し込むのは、どこか冷たくも神秘的な蒼白い月光。

時刻はすでに深夜。

学院全体が眠りの帳に沈むなか、その部屋だけはひっそりと醒めた空気をまとっていた。

窓辺に立つのはエレオノーラ。

彼女の周囲だけが舞台のように照らされ、夜の静寂すらも演出の一部に思える――。

窓辺に立つエレオノーラは、ゆるやかに扇子を手にしていた。

広げもせず、ただ指先で軽やかに弄ぶ仕草が、彼女の余裕を物語る。

その横顔は落ち着き払っているものの、月光を映す瞳の奥には、かすかな緊張と好奇心が交錯していた。

まるで舞台の幕が開く瞬間を待ちわびる役者のように――。

エレオノーラの手元で、扇子が音もなく閉じられる。

そのわずかな「ぱちり」という響きが、静まり返った部屋に吸い込まれ、まるで舞台の幕を切る合図のように広がった。

月明かりは大きな窓から流れ込み、彼女の横顔を柔らかく照らす。

光と影が織りなすその輪郭は、悪役令嬢という枠を超え、舞台の中心に立つ演者そのもの。

窓の外では、夜風にあおられた薔薇の花びらがひらひらと舞い散り、淡い月光を受けて銀色に瞬く。

幻想めいた光景の中、彼女の佇まいはひときわ鮮やかに浮かび上がっていた。

エレオノーラは月を見上げながら、ふと唇に笑みを浮かべた。

(ヒロインが“悪役令嬢化”だなんて……道場を開いた覚えはありませんのに)

思わず小さく苦笑が零れる。紅茶会仲間に知られたら、確実に茶化されるに違いない。

しかし、瞳の奥に揺れるものは冗談だけではなかった。

(けれど……女神の加護が乱れるなど、物語そのものが軋んでいる証。

レオナの弟子入りだけでは説明がつかない。……世界が――改変されつつある?)

胸の奥に冷たい緊張が走る。だが外面はいつも通りの優雅さを崩さず、扇子を指先で弄ぶ。

エレオノーラは静かに扇子を閉じ、月に向けて一歩踏み出すように顔を上げた。

その横顔は、悪役令嬢というより舞台を操る演者のように神秘的。

やわらかく夜風が吹き抜け、カーテンの隙間から舞い込んだ薔薇の花びらが、月光を受けて銀色に煌めく。

彼女はその光景を見つめながら、ほんの小さく息を吐いた。

「百回目の舞台は……どうやら私一人の物語ではなくなったようね」

小声での独白は、まるで観客にだけ聞かせる台詞のよう。

学院の静寂を破ることなく、ただ月だけがその言葉を見届けていた。

エレオノーラは扇子を静かに閉じ、月に向けて一礼する。

その姿は「悪役令嬢」ではなく――舞台を操る演者のように、神秘的で超然として見えた。

やがて視点はゆっくりと引いていく。

窓辺の彼女を残しつつ、学院全体を俯瞰するように。

月光に照らされた荘厳な校舎は、沈黙の中で不気味な存在感を放っていた。

夜風に揺れるカーテンの影が床に長く伸び、薔薇の花びらが闇に吸い込まれるように散っていく。

その光景はまさしく――嵐の前の静けさ。

幻想的でありながら、不安を呼び覚ます余韻を残し、物語は次の章へと向かっていくのだった。

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