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「ね? 帝国のひとと連絡とりたいんだけど?」
側近にして護衛のハーゲンは、いきなり言われたことに「え?」と、彼らしくなく反応が遅れた。護衛として臨機応変に直ぐに対処できるよう、鍛えていたのに。
まぁ、暗殺者などと対峙するような場合とは、意味が違うから仕方もなく。
「いやぁ、ロベリアのところの……えーと、ベラ夫人だっけ? 彼女経由だと大変そうだし」
たぶんあの人、身分そんなに高くないから、連絡とか頼んだらかわいそうだよね?
なんてことも、あっさり。
ハーゲンはいきなりの命令に驚きながら――気がついた。
「……いつから、ですか?」
「あ、君のことはだいぶ前から」
ハーゲンはその質問をロベリアもしたとは知らなかった。
そしてヨアヒムはハーゲンを幼馴染みとしては、信頼していた。こうした質問に、偽りで答えたり、はぐらかしたりはしない男である、と。
ハーゲンに、ヨアヒムは気がついていた。
それはロベリアとは違う意味で。
「君ん家、帝国側でしょ?」
ハーゲンのランケット侯爵家。
ハーゲンの曽祖母は帝国から嫁入りしてきていた。
帝国が玉座をかけてごたごたが起きる、少し前に。
帝国はこうした縁組で属国と関わりをもったり――監視したり、策略を巡らしていると。
なによりも。
国力が、人財の量が、違い過ぎる。
長い長い時間をかけて、こうして国に入り込んで。属国に目を光らせて。
王としては見習うところもありはする。
ハーゲンのことはロベリアのことより前から気がついていた。
けれども今まで、黙って知らない振り、気がついていない――愚者の振りをしていた。
帝国側とつながりがあるなら、あちらに何かあったときに情報をこちらももらえるかな、と……思っていたので。
そして藪蛇をつつく気はなかったので。
何かしらつついたら、属国として面倒くさいことを押し付けられるかしら、なんて危惧を。
ヨアヒムは――やはり敏く。
そうした「何も知らない姿勢」だったから、この歳まで生かされたのかな、と。
この国は属国とはいえ、先の戦火も無視されたほど、小さく――帝国に、何かしら影響を与えられることもなく。
――だからこそ、王弟の恋人のエリーゼの避難先になり。
「なぁんだ、とっくの昔に面倒くさいことおしつけられていたんじゃないかぁ」
ヨアヒムが調べて驚いたことは。
国に古くからあり、忠誠高い家こそ、帝国との繋がりもある。もとは帝国から興た国だからというのも強すぎて。
よってヨアヒムのこうした情報はまだ若い家や、ヨアヒムが独自で手に入れた伝手からだ。まぁ、平民あがりと古くからある者たちが下に見るような。
母やバルグレラ公爵家が、かつて下にみたエリーゼ――のような身分低くも、有能な者たち。
もっとも、エリーゼの男爵家のように家格低くも歴史あり、帝国と繋がりのある家もあるから、見極めは厄介でもある。
それでも、新しい家は増えてきている。
新しい価値観も。
むしろ時代は変わってきていると、母たちは何故に気が付かないのか。
上級貴族ばかりに、青い血ばかりに――血筋ばかりにこだわる愚かさを。
「まぁ、血筋気にしたら……王族な僕が何言ってんの、になっちゃうけどね……」
今現在、この国で一番尊い血筋のてっぺんにいたりするわけで。
だから。
彼はまず一番近くにいた側近に尋ねてみた。
「ねえ、ハーゲン。僕の首の価値てどれくらい? 帝国にとっておいくらかな?」
――血筋のてっぺんの価格は。
側近の顔色は真っ青だった。
ロベリアから気になって、伯爵家…ベラドンナを調べてるうちに「あ、この人も大変…」と気がついちゃったヨアヒムくん。察し良き。だからベラドンナは大役押し付けられなくて良かったね。(先にベラドンナ載せたワケ
…その分、胃が痛くなってきたハーゲンくん…頑張れ。