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第四十八話 解答

 雫の問いに対してやや慎重に言葉を選ぶ。

「さあ。推測でしかありませんが、日本では異種族を人間が完全な支配下に置いているのでしょう。ですから異種族に人権などあるはずもありません。ですが日本人様の支配下ならば案外幸せかもしれませんね」

 どうやら推測や嘘なら知識の持ち込み禁止に引っかからないようだ。

「そんな……。なら、なら、いったい人権を持たない私たちは何なのでしょうか?」

 随分と青臭い悩みだ。この年でそんな悩みを持つ……あれ? いや、これはそんな話か?

 アイデンティティとか青春の悩みとか、そんな形而上学的なものか?

 これはもっと論理的な、確固とした定義の——

「あ」

 素っ頓狂な声が喉から飛び出る。雫が心配そうに声をかけてくるが聞こえない。私の意識は別の空間に旅立っていた。

 つまり簡単なことだ。私たちは法的に何なのか。それを突き詰めればよかったのだ。馬鹿馬鹿しくなってしまうほど当然の答えだった。

「あ、はははは! こんな! こんなことでいいんですか⁉ いえ、これでいいですね!」

 突然笑い出した私をどうしていいのかわからずおろおろする雫。

「お姉さま? あの、私何か粗相を?」

「いえ、いえ! 逆ですよ! 雫! 貴女のおかげです!」

 手を握ってぶんぶんと振り回し、その後できつくハグする。

「え? え? え?」

「何でこんなことに気付かなかったんでしょう! 全くもって私は間抜けです!」

「そんな! お姉さまはとても聡明でいらっしゃいます!」

「ありがとう。でも今回は本当にあなたのお手柄ですよ」

 まあ正直私は頭がいい方ではない。ただ、頭を良く見せかけるのは結構得意だ。詐欺師ってだいたいそうですが。

「お役に立ててうれしいです」

 雫ははにかんで微笑む。

 いやあ妹って可愛い。見た目もよくて役にも立つなんて最高じゃないですか。

 さて、では明日に備えるとしよう。明日私がしくじれば計画はかなり狂う。それに何より……この子たちを完全に救うには何としてもあれが必要なはずだ。

 私は、誰かを救わなければならないのだ。




 前世の私は、義父母がストーカー女に殺害された後、親類連中からの激しい攻撃に辟易していたが一人だけ味方がいた。母方の祖母だ。義父母の両親は彼女以外他界していた。

 祖母は私を実の孫のように扱い、親類連中を黙らせた。彼女が私の最後の身内だった。

 しばらく私は祖母と暮らした。祖母は自分に残された最後の仕事とばかりに私に様々なことを教えた。私は前世で最も尊敬する人は誰かと聞かれれば真っ先に祖母だと答える。それほど立派な人だった。

 だからこそ、義母は自らの性癖を告白できなかったのではないかとも疑っている。案外カミングアウトはほどほどにいい加減な人の方がやりやすいのではないだろうか。あるいは優秀な祖母に反感のようなものを感じたのではないか。

 義母の心情はわからないが、私も頭が上がらなかったのは事実だ。

 だが祖母も寄る年波には勝てず、私の大学卒業目前に他界してしまった。

 遺産問題はすでに解決していた。私は想像よりもはるかに莫大な遺産を相続した。これも祖母の尽力のたまものだろう。あれだけ欲していた金銭が手に入り……私は自分が本当は何をしたいのかよくわかっていなかったことに気付いた。

 よくある目的と過程の入れ替わりだ。人生をかけて手に入れようとしていたものを思いがけず手に入れた私は目標を失った。だから、祖母の事実上の遺言に従うことにした。

『できればあなたには人を救ってほしいと思っているわ』

 何気なく交わした会話。しかしそれが祖母の死の前日なのだから、自らの死期を悟っていたように思えてならない。

 誰かを救うにはどうすればいいか。私なりに悩んだ結果、宗教団体の実質的なトップになった。

 人々は物質的な欲望よりも精神的に満たされるべきだと思ったのだ。そうして私は人を救い続けた。それでもどれだけ努力しても、誰かを救う度に誰かが傷つけられる場面を見ることになった。

 そんなことを続けていたある日。私は、義父母を殺めたストーカー女と再会した。そして。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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