少し前
「侯爵夫妻は明日には到着予定です。邸宅で働いていた者達は休みを切り上げさせ侯爵邸にて話しを聞いている最中です。あの使用人二人については王宮内で話しを聞いて留め置いております。グリメルダ嬢においては、少々精神的に不安定でしてまだあまり聞き出せてはいません」
「そうか」
「後の事は、殿下が寝て起きた後でと言うことで」
「あぁ、そうだな。イムレ」
立ち止ると、後ろを歩いていたイムレの方に顔を向ける。
「なんですか?」
「私の顔は、そんなにヒドイか?」
「さくら様のおっしゃった通り、やつれた感じですね」
「そんなにか?」
「そうですね」
”けれど、さくら様の部屋の外で待っていた時よりもマシですよ”
イムレは、さくらが部屋で治療されている時、外の廊下で待つアールヴの姿を思い出しながら思う。
「そんなにはっきりと言わなくてもいいだろう・・・」
苦笑いをしながら、自分の部屋へ行き、ベットに倒れ込むとすぐ、ぐっすり眠ってしまったアールヴ。
アールヴが部屋を出て行った後のさくらの部屋。
わたしは悪くない、か・・・ありがたい言葉。だけど、軽率だったわたしも悪いんだよ。沢山の人に迷惑かけちゃったし・・・。
「さくら様、王妃様が持ってきてくださったスープを召し上がりますか?」
「えぇ、お願いします」
さくらはベットから出られないので、ベットの上に小さなテーブルが置かれその上にスープが置かれた。スープは野菜を小さく切り煮込んでいるものだ。
「あっさりしていて美味しい」
「野菜の栄養がスープに溶け出して丸ごと栄養が取れるので、病気の時や食欲のない時によく作られるのですよ。」
「そうなんだ」
「さくら様が無事で本当によかったです」
さくらがこちらの世界に来た時から世話をし、いなくなった時も一番初めに気が付き王宮内を探した侍女が目を潤ませながら言う。
「心配かけてごめんなさい」
「そんな、とんでもない!さくら様が謝る事ではありません」
「そうです。殿下もおっしゃってましたが、悪いのは侯爵令嬢ですよ!」
部屋にいたもう一人の侍女が怒りながら言った。この侍女もさくらが来た時からの世話係で、いなくなった時にさくらを探した一人だ。
「・・・ありがとう」
二人に笑顔で感謝を言うさくら。
「けれど、王太子殿下がさくら様を連れて戻ってらっしゃった時はほっとしました。それに、あの姿はまるで小説そのもの!」
「小説そのもの?」
「不謹慎ですよ」
「そうですが・・・でも、そう思いませんか?あの森から帰って来たときの殿下とさくら様。それに、殿下は、さくら様が目覚めるまでずっと廊下で待ってらっしゃったんですよ」
「全く覚えてないのだけれど、王太子様は廊下で待ってたの?」
寝てないのはなんとなくわかったけど、部屋とかじゃなくそこで待ってたの?自分の方が疲れてるのに??
「はい」
それから侍女はさくらが眠っている間の事を話しだした。
アールヴが森に入り、一緒に森まで来た騎士が指示通り王宮に戻る。
王宮に戻ると、グリメルダ達を連れて戻ってきていたイムレがいたので状況を説明するためイムレを呼び止める。
「イムレ殿」
「戻ったのか、殿下は?」
「森に入られたままです。我々は王宮に戻るようにと言われまして今戻りました」
「そうか」
「殿下が森を出て来られるときはこちら側から出て来られるはずです」
「では、もう暗いし松明を焚いて待つことにしよう。後は森の所に何ヶ所か人を配置、戻ったばかりで悪いが、私は陛下に報告に行くので手配をお願いできるか?」
「わかりました」
「では、頼む」
国王陛下の執務室の前に来たイムレがドアをノックし部屋に入る。
「失礼します」
部屋には、ベーラ、イロナ、ラヨシュ、ファリチの四人がいた。
「報告します。さくら様をさらった犯人は侯爵令嬢グリメルダ嬢でした。その手伝いをしていたのは侯爵家で働く二人。その三人は王宮に移送してまいりました。王都の侯爵邸の使用人は休暇を取らされており邸内にはいませんでした。侯爵夫妻領地に帰っており、夫妻、休暇中の使用人は戻るように手配しております。
そして、王太子殿下はさくら様を探して迷霧の森に入られました」
「殿下が森に入ったと!?」
「はい、ファリチ様」
「兄上とさくらさんが、そんな!」
「アールヴだけなら戻って来られるだろうが、さくら殿は迷ったら・・・」
「あの子は一人では戻ってきませんわよ。さくらさんを連れてでないと」
「そうだな」
イムレの報告に、全員が険しい表情を崩さない。
「ファリチ、侯爵はこの事を知っていたと思うか?」
「そうですね、侯爵は堅実で真面目ですし、婦人に頭が上がらない感じはありますがさすがに考えにくいでしょう」
「イロナ、婦人の方はどう思う?」
「そうですね。派手で権力に執着はありそうですけれど、そこまですればどうなるかを考えられないほどの人物ではないと・・・あっ、そういえばこの間のお茶会の時リグザが令嬢がアールヴにご執心だと言っていましたわ!」
「そうか。とりあえず、関わりのある者から事情聴取とアールヴとさくら殿の帰りを待とう」
その後、イムレは教会に行きカーロイ達にも事情を説明した。
皆驚いてはいたが、さくらが無事の可能性が高いと聞くとほっとし笑顔になった。
夜も更けて午前零時を回っても二人は戻らない。
騎士達は交代で警備についている。
「イムレ殿も休憩されてはどうですか?」
「まだ休憩はいい」
一人の騎士がイムレに飲み物を差し出すとそれを受け取り一口飲む。
「迷霧の森はどうなっているんだろうな?」
「さぁ、想像も付きませんね。イムレ殿は殿下に聞いたことないんですか?」
「昔あるが、殿下には普通の森だと言われた」
「普通の森、ですか。動物でさえ戻らないのに迷わない人間にはそう見えるんでしょうかね」
「かもな」
午前三時を回る。
「殿下・・・殿下が戻られました!」
警備をしていた一人が、森から出てくる人影に気付き目を凝らしてよく見ると、それがアールヴだとわかり大きな声で叫ぶ。
その叫び声に皆が反応し声の出された方へと走り出した。
「殿下!」
「今戻った」
立ち止ったアールヴは、全体が泥や土などで汚れ、洋服も破れたりほつれたりしており、両腕にはさくらを抱き抱えていた。
「お二人ともご無事で」
「さくら殿も無事だ」
「さくら様を」
「いやいい。このまま部屋まで運ぶ」
急いで駆け付けたイムレがさくらを預かろうと手を伸ばすとするがそれを断り自分で運ぶと言うと、そのままさくらの部屋に自ら運び、ベットの上に寝かせる。
「さくら様よかったです」
「怖かったでしょう。体もこんなに傷ついて」
連絡を受けた医師が部屋へやって来るとさくらの傷の診察を始める。
「どうだ?」
「衰弱はしておりますが、命に別状はなさそうですし、傷も治るでしょう」
「傷跡は消えるのか?」
「時間はかかるとは思いますが消えるでしょう」
「そうか、よかった。後は頼む」
アールヴに一番気になっていた頬の傷跡が消えるとわかり安心したのかさくらを見て微笑み部屋を出て行った。
部屋を出ると壁に寄りかかる。
”傷が残らないのは良かった・・・だが、こんな事があってはこの世界に居たいわけないよな・・・”
「アールヴ!」
「アールヴ無事だったか」
「兄上!」
アールヴが顔を上げると、連絡を受けたイロナ、ベーラ、ラヨシュが駆け付けてきた。
「今戻りました。さくら殿は無事で今医師が治療をしています」
「そう、よかったわ。それで、あなたは大丈夫なの?」
「私は大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」
「そんなことはいいから、治療をしてきなさい」
「大丈夫です父上」
「アールヴ、さくらさんの事が気になるのはわかるけれど、あなたは怪我の治療をしてお風呂に入って着替えなさい」
「母上、私はこのまま・・・」
「さくらさんの目が覚めたらそんな格好で女性の部屋に入るの?そんな事許しませんよ。早く部屋に戻って、その後は好きにしていいわ。返事は?」
「は、はい!」
いつもは穏やかなイロナが強い口調で言ったのでアールヴはもちろん周りにいた人達も皆驚き、アールヴは素直にイロナの言う事に従い部屋に戻り、汚れた体を綺麗にし、怪我の治療、着替えを済ませるとまたさくらの部屋の前でさくらが目が覚めるのを待った。
「あの時の殿下は素敵でした」
「さくら様の事本当に心配されていたんですよ」




