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改造計画


 松原先生が職員室に戻った後、三人は椅子に座りながら今日の部活動について話し合っていた。


「この部室は何もないの。つまらないの」


 部屋を見渡し、不満気な表情のよもぎにぎんは答える。


「普通そんなもんだろ」


 よもぎは机を叩くと力説する。


「そんなのだめなの。ここは遊部の本拠地。言わば心臓なの。ここが落とされたら終わりなのん」


 その力説を聞き黒田がうんうんと力強く頷く。


「流石だミカエル。それではこの部屋を本拠地らしくしようではないか」


 この二人が何かをやるという事は、俺が被害に遭う可能性が上がる。嫌な予感しかしない。


「そうするの。まずは、パソコンとテレビと冷蔵庫。それからーー」


 よもぎの言葉を遮りぎんは声を上げる。


「それからじゃねーわ。まずは、のレベル高すぎるだろ。そんなのどこから持って来るつもりだよ」


 嫌な予感が一瞬で当たったよ。やっぱりあの二人が欠席なのは痛手だ。止める奴が俺しかいない。


 当然とでも言いた気な表情でよもぎは言う。


「ーーお兄ちゃんの部屋からに決まってるの」


「勝手に決めんな。そもそもあんな重たい物を持って来れるわけないだろ」


 車も運転出来ない俺達高校生が、そんな簡単に電化製品を持って来れるはずがない。なのによもぎは自信満々に答える。


「その辺は心配ないの。ねぇ、カルッチ」


「当たり前だ。我にできないことなどないわ」


「出来ないことがないなら、今すぐテレビとか用意してみろよ」


 自信満々の黒田にぎんは無茶振りをするが、表情を一切変えずに頷く。


「よかろう」


 黒田はスマートフォンを取り出し誰かと通話を始めた。


「ーー我だ。至急テレビとパソコン、それに冷蔵庫。後は司令室に必要な物を持って来てくれ。以上だ」


 要件だけを伝え通話を切る黒田にぎんは問い掛ける。


「おい。今のって冗談だよな?」


 会話の一部始終を聞いていたのでそう言わずにはいられなかった。しかも、「司令室に必要な物」で要件が伝わる人物がこの世にどれだけいるのだろうか。そう考えると単なる猿芝居だと言わざるを得ない。


「シルバ。お前ほどの男がそんな世迷言を」


「すまん。俺が悪かった」


 ぎんは素直に謝った。


「わかればいいのだ」


 やはり冗談だったか、俺としたことが少し本気にしちまった。そもそもあんな電話一本で物が届いたらそれこそ通販だよな。それに、もし届くとしても流石に今日は届かないだろ。そんな通販この世にあったら使ってみたいわ。


 ぎんが一人納得しているとよもぎがおかしな事を言う。


「まだかな、まだかな。カルッチどのくらいで着くの?」


「そうだな。後十分もすれば着く」


「そっかあ。楽しみなの」


「……」


 二人の話が進む中ぎんは無言で考え始めた。


 一旦冷静になって整理しよう。さっきの黒田の世迷言の意味が俺の理解した意味と逆だった。つまりは、頼んだ物はすぐにここに届く。二人の会話を聞けば一目瞭然だ。でも、おかしいのはそれが後十分もしないうちにここに届くと言う事。他にもおかしな事は探せばいくらでもあるが、今は置いておこう。十分って言ったら、俺が家から学校までを歩く時間よりも短い。その間にさっき言ってた物を積んでここまで運んでくるなんて無理に決まってる。空を飛んで来る訳でもあるまいし。


 黒田のスマートフォンが鳴り始める。曲はシューベルト作曲、魔王。

 魔王に聴き入っている黒田は中々電話に出ようとしない。なら、その着信変えろや。と心中では思うもののぎんも聴き入っていた。よもぎはノリノリである。


 黒田はやっと電話に出る。


「ーー我だ。ああそうか、ーーわかった」


 通話を切り、黒田は言う。


「屋上に届いたようだ。これからこちらに向かうと言っていた」


「わーい。どんなのが来るのか楽しみなのん」


「マジで来たのかよ」


「当たり前だ。我に不可能はない」


 来たと言う言葉に意識が持っていかれたせいで、ある単語を聞き流していた。ーー屋上って? あの屋上だよね。高校生活とは切っても切れない関係の場所。青春の一ページが生まれる場所。そう学校の最上階。ーーそうか空から来たのか、通りで早いわけだ。ふむふむ。


 ぎんが冷静に分析している頃、よもぎは黒田を持ち上げていた。


「よっ。堕天使」


「褒めても何も出んぞ」


「よっ。神をも超える存在」


「そ、そこまででもあるがな。わっははははははは!」


 上機嫌の黒田が馬鹿笑いしているとノックの音が聞こえる。そして一人の女性が部室へと入って来た。


 女性は凛とした姿勢だった。その姿にピチッとした黒いスーツが良く似合う。男子高校生には刺激が強いほどの色っぽい体付きがぴったりとしたスーツのせいで更に際立つ。歳は二十代前半、黒髮ポニーテール目付きは鋭いが顔は整っており、美人とはこの人の事を言うのだろう。


 彼女は白い手袋を着用している。左手を後ろに回し、指先まで鋭く伸ばした右手を胸の下に添えると口を開いた。


「ーー失礼します。黒田様、ただいまお持ちしました」


 執事を思わせる完璧な振る舞いにぎんは見惚れていた。よもぎは輝く瞳を向けている。その二人とは対照的に黒田は顔を顰めると声を上げた。


「シャラップ。誰が黒田だ。我はカルストファーだっ」


「すいませんでした。カルストファー様」


 彼女は頭を下げる姿まで美しい。


「許そう。それでは早速配置に移れ」


「はっ。承知致しました」


 彼女がお手本のような返事をした後、後ろからぞろぞろと黒いサングラスにスーツの男達が入ってきた。色々な家具と作業道具を持っている。


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