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改造計画②


 この状況を理解しきれないぎんはよもぎに尋ねた。


「どうなってんだよこれ」


「お兄ちゃん知らないの? カルッチはお金持ちなの。それもただのお金持ちじゃないの。この国を動かせるほどのお金持ち」


「ま、まじか! て事は今までの発言は本気だったってことか」


 あの全てをチリにするみたいなやつ。よもぎも言ってたけど。


「そこまではわからないの。でも、なんでも出来ると思うの」


「なんてこった。あいつそんなにすごい奴だったのかよ」


 リアル堕天使レベルじゃねーか。国を揺るがすってどのくらいすごいのかよくわからないんだけど、ただの厨二病じゃない事はわかった。でも、一番厨二病になってはいけないやつがなってしまったんじゃないのか? 今後のこの国が心配である。


 仲間外れが嫌なのか黒田が話しかけてきた。


「何をコソコソと話している。こっちに来い。出来上がったぞ。我らの司令室が」


 早すぎんだろ。見てない間にもう終わってたよ。それよりガチの司令室になってんじゃねーか。ケンドウが肘ついてそうだよ。


 もうそこは部室ではなかった。部屋の大きさは変わらないが、大きなテレビというかモニター、真ん中に穴が空いた円卓の机、もうここは連合軍の司令室だ。端にはパソコン、ソファに冷蔵庫まである。よもぎの要望通り。さっきまで居たはずの黒いサングラスにスーツの男達は既にいなかった。


 辺りを見回しぎんとよもぎは各々の感想を口にする。


「力入れすぎだろ」


「かっこいいの。しびれるの」


「気に入ってもらえて何よりだ。なぁ、前原」


「はっ。ありがたき幸せ」


 彼女は前原さんと言うらしい。さっきから気になっていたのでぎんは黒田に尋ねる。


「ちょっといいかな? その人は誰なんだ?」


「こいつは我の部下の前原だ。前原自己紹介を頼む」


 黒田に言われ、「はっ」と言う声と共に前に一歩踏み出し口を開く。


「ーー私の名前は前原加奈と申します。二十三歳独身。身長165。体重46。上から84、56、88。趣味はジョキングと映画鑑賞。性癖はノーマルでございます。お二人ともどうぞよろしくお願い致します」


 前原さんは表情を一切変えず噛む事もなくハキハキと最後まで言い切る。


 途中で滅茶苦茶突っ込みそうになったが、初めて会った年上のお姉さんに突っ込む勇気はまだなかった。

 だけど一言言わせてくれ。こいつはやべぇ。


 ぎんは戸惑いのあまり何も返事を返せないでいたが、よもぎはそうではなかった。


「前原さんよろしくなの。私は浅井よもぎ、十六歳独身。身長145。体重わたあめくらい。上から86、58、80。趣味はアニメ、マンガ、ラノベ、ゲーム。それとお兄ちゃんで遊ぶこと。性癖はノーマルもアブノーマルもどちらも大丈夫なの」


 途中で完全に止めに入ろうと思ったが、一応最後まで聞いてやろうと思った俺の優しさを今すぐ返せ。


 ぎんが文句を言う前に前原さんが答える。


「よもぎ様。ご丁寧な自己紹介ありがとうございます」


 前原さんはにこっと微笑む。今日初めての笑顔は咲き誇るユリのように美しい。


「いいの。同じ匂いがしたの。前原さんとは仲良くなれそうな気がするのん」


「失礼ながら、私も同じ気持ちです」


 確かに同じ匂いがするわ。ーーってことはダメじゃん。


 よもぎと意気投合しつつある前原さんに黒田が一言。


「前原。よかったな」


「はっ。嬉しい限りです」


 よもぎがもじもじとしながら前原さんに声を掛けた。


「前原さん。もしよければーーかなちゃん、て呼びたいの」


「ええ。構いません」


 前原さんは即答した。その返事に満足したよもぎが椅子に座って手招きをする。


「じゃあかなちゃん。こっちでお話ししようなの」


「是非、喜んでと言いたいところですがーー」


 前原さんはよもぎに微笑んだ後に黒田の方に目をやる。


「気にするな。行ってこい」


「はっ。ありがとうございます」


 黒田の許しが出たので前原さんはよもぎの横へと座った。よもぎは艶笑しつつ楽しそうに話しをする。


 あれが女子トークってやつか。なら、こちらもあちらに対抗して男子トークでもするか。


 ぎんは椅子に座ってから黒田を呼ぶ。


「黒田。ちょっといいか」


「いいが、黒田じゃないーー」


 めんどくさくなる前に黒田の言葉を遮る。


「わかったから、いいから来い」


「仕方あるまい」


 渋々といった感じで黒田もぎんの隣へと座った。ゲンドウのポーズを取るとぎんは、真剣な表情でゲンドウ風に話し始めた。


「あの前原と言う人間。普通の人間なのかね?」


「普通とは、どこを基準としているのだ」


「すまない。言い方が悪かった。あの人間は頭が可笑しい、そうではないのかね?」


 黒田は鼻で笑う。


「ーー何を言い出すかと思えば、見ればわかる筈だが」


「そうだな、すまない。見れば、一目瞭然だ」


 笑われても、無理はない。あの様な人間。誰が見たとしても、答えは一つしかないのだよ。誰もが同じ言葉を口にする筈だ。


 ーーあの人間は、使徒だと。


「だろうな。前原は我から見ても、天才だ」


 予想の斜め上をいく答えにぎんは慌てて冷静さを失う。


「いや待て、待ってくれ。置いて行かないでくれ」


「どうした? お前の頼みならいくらでも待つが」


 そう言う意味じゃないんだけど。俺だけ蚊帳の外だからゲンドウの真似をして、仲間に入ろうとしたのにその答えはあまりだろ。しかも天才ってどう見てもあの人は変人だろ。全くこいつはどこに目をつけてるんだ。ーーまぁいい、仕方ないから天才の理由を聞くとするか。


「ーーいやもう大丈夫だ。それで、天才ってあそこにいるお前の部下がか?」


「そうだ。松原は運動神経抜群、I.Q180の秀才。家事、掃除も完璧。特に料理は三つ星レベルだ。あの歳で他にも数え切れない程の資格を持っている。そして極め付けにあの容姿だ。才色兼備とは前原のためにある言葉だ」


「べた褒めだな」


「ああ。だが今の話は人間の中ではと言う話だ。人間など、我の足元にも及ばない」


 今頃そのノリで来ても遅いんだよ。


「わかった。よくわかった。お前が馬鹿だってことが」


「そんな褒めるでない。我が友シルバよ」


「褒めてないんだよ。なんで通じないんだよ。なんなんだよ」


「しっかりと胸の奥まで通じてるとも、我らの仲ではないか」


 こいつはもう手遅れだと薄々勘付いてはいたが、今日で確信に変わった。なので、もう付き合いきれない。


「そうか、なら今俺が考えてることを当ててくれ」


「そうだな。ーーこの世界を滅ぼそうとしている。どうだ?」


「一ミクロン足りとも当たってねーよ。答えは、お前のアドレスを削除しようとしてる、だ」


「早まるな。もし消されたら悲しみの余り、我、この世界滅ぼすぞ」


 黒田は慌てて手を前に出し止めようとするが、ぎんはスマートフォンを手に取る。


「そうか、なら消すよ」


「待て待て、わかったから。ふざけるのやめるから」


 完全に素に戻った黒田の必死な言動に、ぎんは削除ボタンを押す前に指を止める。


「本当だな?」


「本当だから、その指をどけてくれ。頼む」


「わかった。今回は特別に消さないでやる」


「それでこそ我が友」


 すぐに調子に乗るのからやっぱり消そうと思ったら、よもぎと話していたはずの前原さんの声が聞こえた。そちらに目をやると、すぐ側に前原さんが凛とした姿勢で立っていた。


「ーーカルストファー様。少し宜しいですか」


「ああ、前原か。どうした?」


 さっきまでの黒田とは別人だ。腹がたつ。


「失礼ながら、もう戻らなければなりません」


「そうか、ご苦労」


「はっ。ありがたき幸せ。では失礼致します」


 黒田に挨拶を終え。少し柔らかい表情で、


「ーーよもぎ様。ぎん様。また機会がありましたら、その時はよろしくお願い致します」


「またお話ししようなの。かなちゃんまたねなの」


「はい。お疲れ様でした」


 だいぶ打ち解けたのかよもぎはフレンドリーに返事をする。まだ慣れてないぎんはぎこちなく返事をした。


「はっ。それでは失礼致します」


 二人の返事を聞き部屋を後にする前原さん。また個性の強い人が加わったと、ぎんはため息を漏らしたのだった。


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