初めての土曜は過ぎ去り日曜へ
土曜日は一瞬だった。俺に掛かればこんなもんだ。
何をしていたかと言うとひたすらにだらだらと過ごしていた。
勉強も少しはやったが、なんせよもぎの部屋がうるさくて集中出来なかった。どうせラノベか漫画読みながらアニメでも見ていたのだろう。
それでも昨日は最高だった。あいつは部屋から一歩も出て来なかったのでゆっくりと疲れを癒すことができた。
あいつが来てから色々あってかなりくたくただっから、丸一日休めたのは正直デカイ。いい土曜日だったと言っていいだろう。
ただ皆さんお分かりのように人生は甘くない。俺は今、秋葉にいる。
何故かと言うと今日の朝よもぎが「アキバに行くからついて来てほしいのん。断ったら(殺)」と言ったからだ。
ただそれだけのことである。
今は着いてすぐなのだが、もうよもぎを見失ってしまった。一緒に来た意味を一人突っ立ったまま考えている最中。眉を顰めて呟く。
「ったく。こんな人込みを走るんじゃねーよ」
地面を蹴る。俺は怒りを地面にぶつけた。何度かぶつけてスッキリしたところで、探しに行くかと思ったがどうやったらいい。
この人込みの中、一人を探すなんて無理なんじゃ……。
そんな絶望的な状況の俺は謎の人集りが目に入った。
よもぎかもしれないと近づいてみるが何も見えない。
「ダメだ」
奥の方の人がやたらと騒いでいる。よもぎっぽさが増した気がしたので必死に人をかき分け中へと進むと、太鼓のゲームを二個同時に叩く人がいた。
残念ながらよもぎではなかったその人は男だった。高身長ですらっとしていて、顔は見えない。全身黒づくめで黒いコート、叩いてる棒は白と黒の剣みたいに見える。
何かのコスプレなのかなとも思ったがあまり詳しくはないのでわからない。
黒いコートを靡かせながら叩く姿は見るからに上手い。俺も何度かやったことはあるが、画面にずらっと並ぶアイコンを目にも止まらぬ棒捌きで叩きまくる。正に太鼓の達人がそこにはいた。
それに見入ってしまい、終わると同時に拍手をしてしまった。周りも皆拍手喝采。それに答えるように黒コートの男は振り返り手を上げ言う。
「我が演奏に囚われた愚かな魂よ。我が解き放つ。魂解放」
振り向いた男は色白で鋭い目つき。イケメンではないにしても不細工ではない。
現場は大盛り上がりで、俺はキョトンとしていた。
「よし。行くか」
そう呟き、踵を返すと大声が聞こえた。
「そこーっ! 堕天使シルバではないか。奇遇だな」
思い出せないが聞いた事ある言葉だった。恐る恐る振り返ると、さっきの黒コートの男が俺に指を差している。
周りの目は俺に釘付け。よくわからないが逃げれそうにないので返事をする事に。
「あの。誰ですか?」
皆がズッコーとコントみたいにコケると、黒コートの男は左手を天に伸ばし叫んだ。
「我は堕天使ルシファーの生まれ変わり。堕天使カルストファーだーーーーーッ!」
なんか聞いた事があるような……いや、思い出した。そうあれは中学一年の時だった。
行きつけの本屋で立ち読みしていた時。
「我の名を聞きたいか?」
「いや、全然」
いきなり声をかけられたがびっくりはしなかった。昨日もかけられたからだ。どうも俺が読んでいた漫画がかなり好きらしく、運命を感じたとかなんとか昨日は言っていた。
「そうか聞きたいか」
この眼鏡は話を全く聞かないのは昨日でわかった。
「ほんと聞きたくない」
「そこをなんとか」
「仕方ないな」
「うむそれでは、我は堕天使ルシファーの生まれ変わり。堕天使カルストファーだーーーーッ!」
眼鏡は左手を天に伸ばし叫んだ。
「ふーん。だから?」
「少しばかり冷たすぎるのではないか」
「ごめんごめん。それで今日は何?」
可哀想だから少しは話してやるよ。
「なにとはなんだ、二人して世界を滅ぼそうと誓った仲ではないか」
「昨日会ったばかりだし、一方的にそっちが言ってきたんでしょ」
「そうとも言うな。わっははははははははは!」
そう言って両腰に手を当てるとひっくり返るぐらい背を反らし馬鹿笑いをする。これを繰り返したこいつのせいで、店を俺までも出禁になってしまった。それ以来会う事はなくなった。
「あの時の変態眼鏡!」
まさかこんなところで再開するなんて悪夢だ。気付かなかったのは仕方ない。眼鏡してないし、後は記憶から消去してたし。
「誰が、変態眼鏡だ!」
周りの人が散り始めた。こいつが素を出したからではないだろう。
「素になってますけど」
「馬鹿め! そんなはずなかろう。それ以上我を侮辱すると後悔する事になる。この左腕に封印されし邪神の力が目覚めるぞ」
邪悪な笑みを浮かべながら左腕を押さえる。その姿を見てぎんはため息を吐いた後、呆れた顔で言った。
「どうぞ勝手に目覚めて下さい。俺はもう行くので」
人が減ったのをいい事に変態元眼鏡がグググッと歩み寄ってくる。
「またれよ。我が友よ。ここではなんだ。場所を変えないか」
「いや、結構です」
「まてまてーい。なんでも言う事を聞くから行かないでくれー」
立ち去ろうとしたら肩を掴まれた。悲しげな顔だったし、なんでも言う事を聞くらしいし、アキバ詳しそうだし、しょうがないか。
「なんでもですね」
「ああ。堕天使に二言はない」
大きく頷く変態元眼鏡にはツッコまない。
「そうですか。なら付き合いますよ」
「ほんとか! 流石我が友よ」
両肩掴んでをぶんぶんと嬉しそうなんだが、ぎんにとってはただの嫌がらせだ。
「余り気安く触らないでくれませんか?」
「つい、興奮してしまってな。わっはははははははは!」
ぎんが手を振り解くと、変態元眼鏡は後頭部を掻いた後、両腰に手を当てるとひっくり返るぐらい背を反らし馬鹿笑いをした。
こりゃアキバも出禁になるかもと一瞬脳裏に過ったので、逃げようとしたら泣きついてきた。
「待ってくれー。行きつけの店があるんだ。絶対楽しいから。頼むから」
「わかったよ」
かなりしつこいし周りの目が痛いから、諦めて行きつけの店について行く事にした。




