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097

 ――集中しろ。すぐに見つけ出すんだ。

 シオンはお父様の命令には絶対に背かないから、もしお父様がこのアンダーグラウンドを壊せと命令しているのなら、容赦なく人々を押しつぶそうとするだろう。

 だけど、今はまだ何の攻撃もしかけられていない。大丈夫……きっと奴らの狙いはぼくたちだ。

 公司に次々とぼくらを襲わせて、弱らせたところをシオンは一気にねじ伏せるつもりだ。残念ながら、ぼくのほうはまんまとその作戦に引っかかってしまっている。

 それに、いくらぼくの能力とはいえ、早く開放してあげないと、氷に閉じ込めた公司たちの命も危ない。

 どっちにしろ、早く決着をつけないと!


 ぼくを押さえつけようとしがみついてきた公司に肘鉄をくらわせ、縛られる前に駆け出した。

 四方から飛び込んできた公司たちが、不幸にも顔面直撃する。

 ぼくは念力をとばしてきた公司に反撃をし、一帯を氷の壁に封じ込めた。

 さすがにもう体が重い。それに、さっき撃たれた穴から気味の悪い液体が漏れ出してきている。

 ぼくは顔を顰め、凍った公司を避けて進んだ。

 どんどん足取りが重くなる。高能力者軍団を相手にしているんだ。ここまで全開で能力を使ったのは、初めてだからか――。

 その時、まるで突然岩が降ってきたような、激しい衝撃がぼくの背中に落ちてきた。

 ビリビリと体が押しつけられる。近くに居る!

「居た!」

 ぼくは横目に見つけたシオンに向かって、渾身の水鉄砲を放った。

 しかし、すぐにシオンはテレポートしてしまい、代わりに後ろに居た公司が犠牲になった。

 その時、パン! と弾けるような音がして、再びぼくの腹部に穴が開く。

 ぼくは三つ目の穴を押え、すぐに振り返った。

 拳銃を構えた公司が三人。あれぐらいなら振り落とせる!

 ぼくは目を細め、体勢を低くした。

 発砲音と同じような音と共に、公司の手から拳銃が弾け飛ぶ。

 公司が怯んだのを見計らい、ぼくは彼らの顔面に水鉄砲を打ちつけて気を失わせた。

 いくら倒しても封じても、公司は次々にぼくへ向かってくる。

 まったくキリがない……これが最後かもしれない。でも、使うしかないな。

 ぼくは全神経を集中させ、両手を広げた。

 指先が震え、そして腕全体が震えてしまう。それも必死に堪え、そして全てを放った。

 悲鳴をあげる暇もなく、ぼくに掴みかかるギリギリの所で、公司たちが氷に封じ込められた。

 ぼくは凍った公司に寄りかかり、ふらつく体を支える。

 肘と手首に違和感が――ダメだ、体にガタがきている……さすがに、もう広範囲でのこの能力は使えない。

 シオンと同等にやり合えるかな……。

「……ヴォルト!」

 ぼくが声をあげると、それに答えるように火柱が上がった。

 もう四分の一ほどになった公司たちが怯み、一瞬の隙を見せる。

 ぼくにまだ力があったなら、動きを止められるのに……――

 ヴォルトが凍った公司の上を伝い、こちらへ向かってきた。何だか珍しく表情に焦りが見える。

「あのオヤジ、本気で俺たちを捕まえる気だな。Aランクまで出してきやがった」

 ヴォルトはそう言って、最後にぼくの肩を踏んで地に下りた。

「Aランク?」

「お前知らないのかよ。公司にはD~Aまでのランクがあるんだ。俺たちの世話してたのはDの下っ端も下っ端。ランスはその辺の科学班。Aランク公司五人分が俺らってぐらいだな」

「じゃあ……」

「ああそうだ。大勢に囲まれりゃ、いくら俺たちでもヤベェってこと」

 ヴォルトは苦笑いして、凍りついた公司の向こうを指さした。

 確実に全員仕留めたはずなのに、ぼくの氷を突き破った者たちが何人か見える。あれか――。

「一発入れられた」

 ヴォルトはわき腹を押さえ、少し顔を顰めた。

 服や皮膚が破れ、中から機械と数本のコードが見えている。殴られたどころじゃない。抉られたようだ。

 そんな……ヴォルトにこれだけの攻撃を当てることができる人間が居るなんて。

 ぼくの右手に見える赤髪の男性が、こちらを強く睨みつけてきた。周りの公司と大きく幅を取っている様子から見ると、どうやらヴォルトに攻撃したのはあの人らしい。

「アーサー=ガウリーだ。オヤジ直属の公司の一人」

 ヴォルトは唸るようにそう言って、悔しそうに眉を寄せる。

 直属……そこまで出してくるなんて、よほどぼくたちを壊したいんだな、あの人は……。

 ぼくはぎゅっとこぶしを握り、ガウリーを睨みつける。

 しかし、ヴォルトがぼくの服を引っ張り、首を振った。

「お前には無理だ。あいつは能力の使い方がすば抜けて上手い。それにかなりの体術の使い手だから」

「で、でも……!」

「ただ殴られただけだ! あんな攻撃なんともねぇよ! 焦るな、お前はだから毎回失敗するんだよ。言っただろ、公司は輪だって」

 ヴォルトの言葉に、ぼくははっと顔を上げ、辺りを見回した。

 ……しまった。ぼくの氷に捕まっていない公司が、輪になるようにぼくらを取り囲んでいる。

 ぼくに捕まらなかったということはAランク……まずい、囲まれた。

「くそ……やられた……」

 ヴォルトが呟き、軽く舌を鳴らした。

 少なくとも……二十人は居る。

 ヴォルトが言っていたAランク公司の力が本当なら……

「無理だ、ぼくらだけでこの人数は」

 ぼくは顔を顰め、辺りを睨みながら言った。

 ほんの少しの隙を見せれば終わりだ……。

 むやみに攻撃しても……お父様に認められた人間たちだ……逆手に取られる場合もある……。

 どうしよう、どうしたら――

「ダメだ」

 ヴォルトは突然そう言い、自分の目を手で覆った。

「……できない」

 そう呟いた途端、何の前触れもなく膝が折れ、ヴォルトが倒れた。

「ヴォルト!」

 ぼくが慌ててヴォルトの体を支える前に、背後から飛び込んできた公司がぼくの腕を掴み、強く捻り上げた。

 しまった!

 次々に公司がぼくを念力で押さえつける。頭が痛い。公司館を出る時に感じたあの感覚そのものだ。

 ヴォルトがぼくの目の前でいとも簡単に公司たちに捕まった。ぐったりとしたまま、ただ目を黒く染め、ぴくりとも動かない。

「放せ!!」

 ぼくは喚き、押さえつけられた腕を振り払おうと体を揺らした。

 しかし、すぐに目の前にガウリーが飛び出し、ぼくの体にこぶしを打ち込む。

 激痛にぼくは顔を顰め、歯を食いしばることしかできなかった。

 その時、必死に抵抗しようとしたぼくに、人間の力だけではない重さが、容赦なく圧し掛かってきた。

「うわ……ッ」

 足が土に沈み込み、体のあちこちがメキメキと音をたてる。

 まずい……潰される……!

「シオン……!」

 ぼくは搾り出すように、擦れ声をあげた。

 目の前に居るガウリーの勝ち誇った表情が歪み、目の前がぼやける。

 そんな目線の先で、白い布がふわりと揺れた。

 銀髪がぼくの下に現れ、そしてシオンの青い瞳がぼくを見上げる。

「……愚かな人。なぜお父様に逆らったりするのです」

 囁くような声と共に、冷たい手がぼくの頬を触った。

 それと同時に、ぼくを潰そうとさらに重力が増す。

 ぼくは限界まで目を細め、必死に歯を食いしばった。

「生きたい――」

 歯の隙間から、小さく声が漏れた。

 その言葉に、シオンがピクリと目元を震わせる。

「……何を。私たちは造られた存在。生きるなどという表現は間違いです」

「違う」

 ぼくは頭を振った。少しだけ前髪が揺れる。

「ぼくたちは生きている」

 シオンが目を細め、眉を寄せた。

 珍しく感情を込めた、いかにも不快そうなその表情に、ぼくはまぶたを押し開ける。

「友だちが居る。仲間が居る。守りたいものがある。だからここに、立っている」


「ぼくは、生きている」


 ぼくはシオンを睨みつけ、きっぱりとそう言った。

 シオンが大きく目を見開いた。その途端、まるで突風でも起きたかのように、ぼくの氷が割れ、公司が次々に地面へ突っ伏していく。

 シオンは目を見開いた仰々しい表情をぼくに向け、空中へ飛び上がった。

 ビリビリと圧迫されるような感覚がぼくを襲う。ぼくは解放された体を、思わず後ろへ引いた。

「いいでしょう。では生きた存在として、私はあなたを、殺します」

 シオンがぼくを指さし、きっぱりとそう言った。

 なんて威圧感――押し潰されそうだ。

 ぼくは精一杯の勇気を振り絞り、皮肉に笑ってやった。

「お父様にぼくを連れて帰れって言われてるんじゃないの?」

「はい。ですがあなたを連れ帰ったところで、我々にはゼルダが居る。お父様はあなたを甚振り楽しむおつもりです。その楽しみを奪ったことへの罰は、後にきちんと受けましょう」

 唇を動かさず、淡々と告げるシオンの瞳が、再び赤く染まっていく。

 ぼくは怒りと憎しみに顔を顰め、歯を食いしばった。

「……最低だな、クソオヤジめ」

 ぼくがそう言うと同時に、シオンが両腕を上げた。

 ぼくが抵抗する間もなく、シオンがぼくの体を吹っ飛ばす。

「お父様に対する暴言は許しません」

 ぎりぎりで踏み止まったぼくを見下ろし、シオンが凄んだ。

 これがぼくの最後の精一杯だ――絶対に負けるわけにはいかない。

 ぼくはシオンを睨み、一瞬で瞳を赤く染めた。

 それと同時にテレポートをし、シオンの目の前に現れる。

 そして渾身の力を込めて、シオンをぶん殴った。

「お父様お父様って、いつだって君たちはそうだ! 何もわかっていない!!」

 まるでせきを切ったように、ぼくから言葉が溢れ出す。

 シオンが仰け反った体を元に戻し、ぼくを睨みつけた。

 途端に体が重くなり、ぼくはめり込むように地面へ叩きつけられる。

 左腕が嫌な音をたて、折れた。

 立ち上がる間もなく、シオンがぼくを見下ろし、さらに重力をかけてきた。

「うわぁあっ……――!」

 体のいたる所で悲鳴があがり、ぼくの体が壊れていく。

 きっとアンドリューもこんな……――絶対に負けない。ぼくは、負けられない!

「人を殺して何が偉いんだ! 何が支配者だ! 何が公司長だ!! 世界を治める地位に居るのなら、人々を幸せにしてみろ!!」

 ぼくは叫んだ。その途端、シオンの腕が氷で縛られ、ぼくのように地面へ叩きつけられる。

 ぼくはシオンを引きつけたまま、ゆっくりと起き上がった。体が重い……自由に動かない。

 シオンも立ち上がった。そして、氷で封じられた両腕を叩きつけて氷を割り、ぼくを睨みつける。

「そのために邪魔なものを消すのです! お父様の理想郷を造るために、幸せの世界を造るために!」

 シオンが珍しく感情をむき出し、大声でそう言った。

 ぼくは動かなくなった左手をそのままに、シオンに掴みかかる。

「そのために犠牲になった者はどう報われればいいんだ! どれだけの人が苦しんでいるのか、君は知っているのか!?」

「知っています」

 その時、シオンがはっきりと口にした言葉に、ぼくは動きを止めた。

 血のような赤を失ったシオンの青い瞳が、ぼくを真っ直ぐに見つめる。

「私たちもその一人です」

 シオンは初めて唇を動かし、“声”でそう言った。


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