表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/131

095

 大きな揺れと唸るような地鳴りが響く中、ぼくとヴォルトだけが、その場にしっかりと立っていた。

 病院中の医療品が棚から落ち、やかましく割れる音がする。

 ぼくはアンドリューの上に落ちてきた花瓶を掴み、ただ黙って耳をすませた。

 ヴォルトはどこへも掴まろうとはせず、ただいつものようにポケットに手を突っ込み、何もない壁をじっと見つめている。

 徐々に、ヴォルトの目が赤く染まっていく。

「……来たな」

 ヴォルトの呟きに、ぼくは頷いた。

 間違いない……これは自然の揺れじゃない。地震に近い、この大地を揺るがすことができるのは……ただ“一体”だけ。

 ヴォルトが真っ赤な目を細める。そして、口を開いた。

「大通り、敵は一人、近くに居る住民は85名」

 ヴォルトが短くはっきりと告げた。

 85人も……まずい。たった一人でも、GXならその人数を一瞬で消し去ることなど、容易いことだ。

 ヴォルトが目で合図をした。ぼくもぎゅっとこぶしを握り、アンドリューから手を離す。

 その時、ぼくらが行こうとしていることに気づいたのか、セイがぼくの腕にしがみついてきた。

「待てよ! オレも……」

「ダメだ。セイ、君はここに居て。アンドリューとメリサを守るんだろ」

 ぼくはセイの腕を解き、セイを後ろに押し返した。

 セイは揺れに足をとられながら、それでも必死にぼくにしがみつく。

「で……でも、オレ……。だってみんなが危ないんだろ……!」

 ぼくは手を挙げ、セイの言葉を遮った。

 セイがぼくを見上げる。そして、はっと息を詰めた。

「ぼくが守る」

 ぼくはそう言って、セイを再び押し返した。

 マルシェさんがよろけたセイを受け止める。背後で、セイの引きつった声が聞こえた。

「マ……マルシェ……あ、あいつ……目が真っ赤だ」

「見るな」

 マルシェさんがセイの目を隠し、低く囁く。

 ぼくは敵の居る方向を見据え、そしてその場からテレポートした。


「たった一人?」

「ああ、公司は居ない。必要なら呼び出すだろ」

「うん、じゃあ呼び寄せる前にこっちから仕掛けよう。二人ならできる」

「ああ、ビビんなよ。五秒もあれば俺たちを粉々にできる奴だからな」


 ぼくとヴォルトは、すぐに大通りへ姿を現した。

 突然目の前に現れたぼくらに、背後でざわめく人だかりがさらに声をあげる。

 ぼくは振り向かず、住民の状況を確認した。怪我人は居ない。子供たちを真ん中に集め、大人たちが守るように輪になっている。

 揺れが続き、立ち上がっている人は少ない。

「なんで集まっちまったんだ、余計に守りにくい」

 ヴォルトが顔を顰め、チッと舌打ちした。

「みんなも守ろうとしたんだ。自分の住家と、仲間を。君から……そうだろう、シオン」

 ぼくは目前にポツンと立つ少年を見据え、呟くように言った。

 流れるような銀髪。両性的な顔立ち。血の気のない白い肌に、体を包む白い布。

 ぼくたちの中で、一番“人形”らしいかつての仲間が、そこに居た。

「何も変わっちゃいない」

「えぇ」

 シオンは唇を少しも動かさず、相変わらず不思議な声を出した。

 頭がキンと音をたてる。耳がおかしくなりそうだ。

 シオンがゆっくりと片手を挙げた。その途端、徐々に揺れが治まり、地鳴りが止む。

 やっぱり君か……――。

「思ったより早く出てきてくれましたね。数十人、殺さねばならないかと思いましたよ」

 シオンはそう言って、青い目をニヤリと細めた。

 ぼくは今にも飛び出して行きたいのをぐっと堪え、こぶしを握る。

 その時、ヴォルトがぼくの腕を少し引っ張り、シオンから注意をそらした。

「……おい、おしゃべりしてる暇ねぇよ。わかってんだろ、あいつ、今公司を……」

「金髪の青年は、無事でしたか」

 ヴォルトの言葉を遮り、シオンが言った。

 その言葉に、ぼくは目を見開き、そしてシオンを睨みつける。

「……君がやったんだね」

「ええ。彼は勇敢でしたよ。私の能力を知っても立ちはだかり、そして大の大人を三人担いでここへ来た。おかげで、ようやくここへ辿り着くことができました」

 シオンはそう言って、儚げに微笑んだ。

 やっぱり、アンドリューを傷つけて、わざと生かして帰したんだ……――!

 爆発寸前の怒りを堪えるぼくに対し、シオンはただ冷静にぼくらをじっと見つめる。

 しかしその時、シオンがぼくから目をそらし、ヒュッと片手を振り上げた。

 その途端、人だかりの周りだけ重力が消え、住民たちが高く浮き上がった。

 人々が悲鳴をあげ、空中でもがく。ヴォルトがとっさに後ろへ駆けていったのを合図に、ぼくはシオンの目線の先に立ちはだかった。

「やめろ!!」

 ぼくが大声を出すと、シオンがぴたっと表情を消した。

 それと同時に、重力がもとに戻っていく。落下する直前、ヴォルトがなんとか全員を受け止め、ゆっくりと地面へ降ろした。

 子供たちが泣き叫ぶ。その声に、ついにぼくの我慢の限界がきた。

「どうしてこんなことをするんだ! これ以上、お父様の犠牲なんて出させない!!」

 ぼくは止めようとするヴォルトを振り払い、シオンに向かってそう言ってやった。

 シオンが不機嫌そうに眉を寄せ、青い目を細める。

「あなたは何もわかっていない。何かの犠牲なしに、この世を生きることなどできないのです」

 シオンが唇を動かさず、囁くように言った。

 途端に、場の重力が少しだけ強くなったのを感じた。ぼくの後ろでも、何人かがそれを感じ取ったようだ。

 ぼくはシオンを睨みつけ、ゆっくりと前へ進む。

 張り詰めた雰囲気が、肌から伝わってくる。シオンの青い瞳が、徐々に赤く染まっていく。

 ぼくは足を止め、大きく両腕を広げた。

「ぼくが最後の犠牲でいい」

 ぼくの言った言葉に、シオンはさも不機嫌そうに眉を顰めた。

 その時、地面を蹴るいくつもの足音と共に、黒ずくめの男たちがシオンの後方に現れた。

 テレポートできるほどの公司か……少なくとも、百人近くは居る。まずい、呼ばれた。

 突然現れた大勢の男たちに、住民たちがまたざわめき、そしてヴォルトの合図で一斉にセンターへ向かって駆け出した。

 しかし、シオンは住民たちを追う様子はない。あくまでも、ぼくらが狙いのようだ。

「あなた方を連れて来いとお父様から命令を受けました」

 シオンはそう言い、ゆっくりとぼくらに手を向ける。

「行くもんか。あんな所」

 ぼくは吐き捨てるようにそう言って、シオンを睨み返す。

 ヴォルトがぼくを小突いてきた。

「仕方ない……援軍呼ばれる前に片付ける」

「うん」

 ぼくは頷き、そしてゆっくりと戦闘体勢へ入った。

 目の前が赤く染まる――睨みつけるのはかつての仲間。今は、敵だ。

 二人同時に飛び出した。それとほぼ同時に、何の前触れもなく地面が噴火したように飛び上がる。

 これはシオンのお得意の攻撃だ。ぼくは噴き上がった地面を避け、シオンへ向けて一直線に水鉄砲を放つ。

 とっさに周りの公司がシオンを守り、代わりに犠牲となって気絶した。

 シオンがぼくに手を向ける。その瞬間、ヴォルトが背中からシオンの頭を蹴飛ばした。

 シオンが前のめりに倒れる。そこへ、ヴォルトはすかさず炎を打ち込んだ。

 しかし、またすぐに公司が盾に入り、シオンの変わりに犠牲になる。

「邪魔だ!!」

 ヴォルトは怒鳴り、シオンの周りを囲む公司たちを吹っ飛ばした。

 しかし、公司はまるで沸くように次々とシオンを守りに行く。

 ぼくはあちこちテレポートしながら体勢を低くし、シオンの居場所を探した。公司とは違う白の服――居た。

 ぼくは氷を伸ばし、シオンの足を捕まえた。

 しかし、引っ張っても捕まるのは布ばかり。やっぱり、足がないのかもしれない。

 動きを止めたぼくに気づき、公司が捕まえようと飛び込んできた。

 ぼくは身体を捻ってかわす。また飛び込んできた公司に蹴りをくらわせ、見える範囲に居る公司を水の中に封じ込めた。

 大きな水のボールに取り込まれた公司たちが、大きな泡を吹いてもがき、そして意識を失った。

 水がはじける。その時、ヴォルトが公司たちの攻撃を一斉に受け、ぼくの側まで吹っ飛んできた。

 ぼくはすぐにヴォルトと背を向け合い、辺りを見回す。

「こいつら、あくまでもシオンを傷つけさせないつもりだな。あいつはオヤジのお気に入りだからな」

 ヴォルトが軽く舌を鳴らし、皮肉っぽく笑う。

 ぼくはじりじりとにじり寄る公司たちを見つめながら、少し顔を顰めた。

 GXとしての機能を本気で発揮すれば、百人なんてどうってことない。

 だけど……

「ぼく、人殺ししたくない」

 呟いたぼくの本音に、ヴォルトがため息を零した。

 そして、「だからおまえは甘いんだ」とでも怒鳴られるかと思っていたら、ヴォルトが軽くぼくを小突いた。

「同感だ」

 ヴォルトの返事に、ぼくは苦笑いして、再び公司たちを睨みつけた。

 半分は倒したつもりだったのに、まだまだ居る……どうやら、もう援軍を呼び出したようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ