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092

 それから一週間、ぼくはセイに能力の使い方を教えた。

 だけれど、やっぱりセイとぼくの能力には差がありすぎて、教えられることには限界がある。

 ぼくはロボットで、セイは人間。それだけでも差があるっていうのに。

 アンドリューが回復してくれたら……と、何度思ったことか――。

 けれど、アンドリューはいっこうにぼくらの前に姿を現さない。同じく、ドル爺さんもだ。

 そして、アンドリューたちを襲ったやつらも、ぼくらの前に姿を現さない。

 何の動きもない、何の予兆もない。あの日からの日々はとても平和に見えて、だからこそぼくにとって、とても嫌な時間だった。

 ぼくは、いつか来るであろうその時が怖くて、夜に独りになると、何度も何度も過去を見返した。

 まだ仲間だった頃の、ティーマやテイル、シオンやマーシア。そしてゼルダ。

 ぼくは、アンドリューたちを襲ったのが誰なのか、大体検討がついている。

 公司館のGXたちがアンドリューたちに手を出した時、ぼくらは完全に敵同士となった。

 来るはずだ。近いうちに。ぼくを……ぼくらを壊しに。


「おい、アラン!」

 セイの声が聞こえ、次の瞬間にはぼくは地に背中を打ちつける衝撃に目をつむっていた。

 やられた。これでもう三度目だ。

「もう……ぼくを動かすことは完璧だね」

 ぼくはちょうど石の転がっていた場所に倒れたため、痛めた腰をさすって立ち上がった。

 セイが向こうで仁王立ちをし、口を尖らせているのが見える。

「何だよ! どうせまた考え事してたんだろ。してなかったらまだ無理だ」

「へえ、わかってるじゃないか」

 ニヤッと笑って意地悪を言うと、セイが鼻の頭にさらにしわを寄せた。

「いやだな、おまえ、アンドリューに似てきた」

「ほら、あれだよ。ブラック・アランってやつになったんだよ」

 くっくっと笑ってそう言うと、セイが頬をまん丸に膨らませた。

 その様が、あまりにもティーマにそっくりで、ぼくは思わず笑みを消す。

「……なんだよ」

 突然表情の変わったぼくに、セイが不安げに声を漏らした。

 ぼくは首を横に振り、地面に落ちている小石を拾い上げる。

「じゃあ、もう一回。小石を投げるから、そこから動かずに避けてね」

「ん」

 セイがぎゅっとこぶしを握り、頷いた。

 それを合図に、ぼくは腕を振り上げ、小石をセイに向かって放り投げる。

 セイがぎゅっと目をつむった。ここで弾けばいい……――しかし、

「いてっ!」

 頭に直撃した小石に、セイが声をあげて飛び退いた。

 ぼくは思わずため息を零し、頭を押さえてのた打ち回るセイを見下ろす。

「やっぱりダメだ、石は危険だよ。まだボールでしよう」

 ぼくはそう言って、端へ置いていたボールを人差し指を曲げて引き寄せる。

 いとも簡単にぼくの手に収まったボールを見て、セイが勢いよく立ち上がった。

「いやだね! 実戦になって怖気づいたらどうするんだよ。飛んでくるものはボールじゃないんだぜ」

 実戦という言葉に、ぼくは思わず顔を強張らせた。

 しかし、セイの真剣な眼差しに、ぼくはまたボールを端のほうへ転がす。

「わかった……だけど、あんまりたんこぶを作るとダーラさんに怒られるよ」

「今度から作らなきゃいいだろ」

 セイが熱意を込め、フンと鼻を鳴らした。

 何を言ってもききやしない。まるで幼いマルシェさんを見ているようで、ぼくはまた呆れてため息をした。

 守るべきもののため……か。

「わかった」

 ぼくは頷き、渋々了解した。

 今やっていることは、敵の攻撃を避け、さらに反撃する練習だ。

 だけど、セイには悪いけれど……今まで何十回やっても何の進歩もない。たんこぶが増えるだけだ。

 小石ぐらいじゃあ、あまり危機感や恐怖感というものがないのかもしれない……人間が一番潜在能力を発揮するのは、自分や大切な何かが危険な状況に陥った時だ。

 そうだな……何か、どうしても、何をしてでも避けないといけないものとか……――

 ……そうだ。

「セイ、避けてね」

「えっ?」

 首を傾げるセイに向かって、ぼくは勢いよく片手を振り下ろした。

 その途端、セイの頭上に無数の氷でできたつららが現れ、セイに向かっていっせいに落下していく。

 突然の出来事に、セイは慌てて飛び退いた。

 標的を失ったつららは、次々に地面に突き刺さる。

「うわっ、殺す気かよ!」

 セイがぼくを指さし、喚いている。

 ぼくは首を横に振り、もう一度腕をかざした。

「ぎりぎりまで手加減する」

 ぼくはそう言って、再び腕を振り下ろす。

 セイは身軽だ。もしかしたらミュータント能力で避けるよりも、体で避けたほうが早いかもしれない。

 案の定、セイはぴょんぴょん跳ねながら、わりと簡単そうにぼくの攻撃を避けていく。

 ぼくが試しにセイの背後から襲わせたつららも、セイは大きく跳んで一瞬で避けた。

 もしかしたらこっちのほうが才能があるのかもしれない。だとしたら、生かさない手はない。

「おまえ、やっぱり変わった! この腹黒!」

「何とでも言え」

 ぼくは喚くセイに向かって、遠慮なく攻撃を続けた。

 やっぱり、セイの最大の武器はこれだ。どんな角度から攻撃をしかけても、いとも簡単にそれを避けてしまう。

 むしろ、死角で見えない背中への攻撃のほうが、反応が早い気がする。

 セイは何かを感じ取っているんだ。すごい、ミュータント能力とは別の才能が、セイにはあるんだ。

 余裕が出てきたのか、セイが時々ぼくを転ばせようと念力を送ってきた。

 ぼくはその余裕をなくしてやろうと、さらに素早く攻撃をしかける。

 セイは地に手を着いて宙返りをし、ぼくのほうへ小石を放った。

「いてっ」

 それは見事にぼくの額に直撃し、ぼくを仰け反らせる。

「ざまぁみろ!」

 セイが大笑いしてよろめくぼくを指さした。

 ぼくは額を押さえ、苦笑いしてセイへまた手を向けた。

 細いつららとは違う、はるかに大きな氷塊が、ぼくらの間に現れる。

 それを見て、セイが少し驚いた表情を見せた。

「避けてね!」

 ぼくはそう言って、その氷塊をセイのほうへ放った。

 セイが慌てて避けようと、体勢を低くする。

 しかしその時、一瞬にして氷塊が燃え上がり、一滴の水も残らず蒸発してしまった。

 セイが呆気にとられ、何もなくなった空間を見つめている。

 失敗? まさか、そんなはずない。

 ぼくが知る中で、こんなことが出来るのは、ただ一人だけだ。

「ヴォルト!?」

 ぼくは思わず大声で呼び、辺りを見回した。

 人が居ない安全な場所を選んだから、ぼくらの周りには人一人居ない。

 ぼくはもう一度目線を戻した。すると、セイの背後に見覚えのある人影を見つけた。

 いつものようにズボンのポケットに手を突っ込み、低い身長から人を見下すように、少しあごを上げる仕草。

 間違いなく、生意気なぼくの兄弟だ。

「バッカじゃねーの! 大穴あける気かよ」

 ヴォルトの怒鳴り声と共に、ぼくの体が一瞬で浮き上がり、そしていとも簡単に地面に転ばされた。

「すげっ」

 セイが振り返り、思わず驚嘆の声をあげる。

 ぼくはすぐに立ち上がり、ヴォルトのほうへ駆け寄った。

 ヴォルトがぼくの鼻先に指を突き立て、不機嫌そうに顔を顰める。

「このやろう、お前は俺のことなんて忘れてただろ!」

「うん、ごめん。できたんだね」

「うんじゃねーよ、バカ」

 ヴォルトがぼくの頭をこぶしで殴った。

 ぼくは「ゴメン」と苦笑いし、遠巻きに覗いていたセイを手招きして呼ぶ。

 セイがヴォルトをじろじろと見回しながら、ぼくの側に駆け寄った。

「こっちはセイ、こっちはヴォルト。ぼくの兄弟」

「よろしく」

 ぼくが簡単に紹介すると、ヴォルトは短く挨拶をして、セイにニヤッと笑ってみせた。

 セイはまだじろじろとヴォルトを観察し、不思議そうに首を振る。

「アランの弟? すっげぇ似てないな」

 セイの発言に、ヴォルトがピクッと口元を震わせた。

 ぶん殴ってやりたいが初対面で怒鳴り散らすのはどうか。そんな風に決めかねているヴォルトの表情に、ぼくは思わず小さく吹き出した。

「逆のようで、そんなような」

 ぼくがくっくっと笑いながらそう答えると、ヴォルトに腹に一発くらった。

 遠慮なくこぶしを打ち込むその様子を見て、セイが軽く手を叩いた。

「前言ってたやつか! チビで凶暴だって」

「チビで凶暴!?」

 この発言には、さすがに我慢の限界がきたようだ。

 ヴォルトは眉を吊り上げてぼくを睨み、ぼくの服を引っ張った。

「お前、俺の第一印象台無しにしやがって」

「ごめん」

 胸ぐらを掴んで揺らされて、ぼくは首をカクカクさせながらすぐに謝った。

 そして、ヴォルトがぼくを放す前に、小さく呟くように問う。

「……ばれてないよね」

「ばれるかよ、バカ。何のためにわざわざボルドアに別室で手伝わせたんだ」

 ヴォルトがそう言って、ぼくを軽く突き放した。

 不機嫌ヴォルトに、ぼくはやれやれと肩をすくめる。

「手伝ってもらったって言いなよ。お礼言ったかい?」

「ん」

 ヴォルトは短くそう答え、軽く首や手首を回した。

「それじゃ、俺も加勢してやるかな」

 そしてセイのほうを向き、今度はセイの鼻先を指す。

「水と炎、それぞれから逃げてみろ。そして俺らに傷一つでもつけてみせろよ」

 ヴォルトの命令口調に、セイが顔を引きつらせた。


 普通の人間に、ヴォルトとぼくから逃げろって?


 それこそ、大穴開けちゃいそうだ。


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