表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/131

056

 今のぼくに、一体何が出来るだろう。

 目の前のものすべてが溶けていきそうだ。

 何をするべきか、

 ぼくに何が出来るか、

 ぼくは何をするべきか、


 今のぼくに、何が出来る?



 ぼくは、ただ、何もする気が起きずに、いつものあの赤い廊下の真ん中で、ポツンと一人、立ち尽くしていた。

 あれから数日間、ずっとこんな感じだ。ぼくの中身を、全部どこかに落としてきたような感じ。

 体中が、からっぽで、空き缶みたいに軽い。

 それほどまでに、ぼくにとって、ヴォルトはとても大きな存在だったんだな……――


「ゼルダ」

 聞き覚えのある声が、ぼくの片割れを呼んだ。

 しかし、今呼ばれたのは、ラボにいる口の悪いぼくじゃなく、今、情けなく突っ立っている、空っぽのぼくのほうだろう。

「……やあ、シオン」

 ぼくは軽く苦笑をし、目の前に現れたシオンに挨拶をした。

 シオンは相変わらず、無表情で、半分伏せた青い目で、ぼくのほうをじっと見つめている。

 そして、音もなく、浮き飛ぶようにぼくのほうへ近づいてきた。

 ふわりふわりと揺れる一枚布の服は、目の前の光景の不思議さを、奇妙な方向に引き立てる。

 ぼくの前まで来ると、シオンは少し、頭を下げた。

「お久しぶりです」

 いつものように少しも唇を動かさず、シオンが挨拶をする。

 ぼくは苦笑いした顔のまま、「そうだね」と頷いた。

 シオンは、わかっているんだろう。ぼくが、“ゼルダ”ではなく、“アラン”だということを。

 しかし、シオンはお父様絶対主義者だ。だから、絶対にぼくのことをアランと呼ぶことは、ないだろう。

「……元気だった?」

 ぼくはただなんとなく、ありきたりな会話を初めてみた。

 シオンは、前からちょっと苦手なんだ。話が続かなくて。

 さぁ、なんて言うかな……。

「No,6は、自業自得です」

 突然、青い瞳でじっとぼくを見つめ、シオンはそう言った。

 その言葉に、一瞬、ぼくは動きを止める。

 今、何て……?

 眉を顰めるぼくを見つめながら、シオンは続ける。

「お父様に刃向かい、あのように公司館を破壊するなど、言語道断。お父様は大変お怒りです。No,6は、お父様に暴言を吐きました。それでいて、修理を乞うなど、あってはならないことです」

 少しも動かない唇を見つめながら、ぼくは目を見開いた。

 ぼくの中から、ふつふつと熱いものがこみ上げてくる。

 気づいたら、ぼくの目の前は、真っ赤に染まっていた。

 お父様に対する憎しみと、シオンの言葉に対する怒りが、ぼくを暴走させようとしている。

 ダメだ、今ここで、シオンと一戦交えたら、決して良い事にならないことは、目に見えている。

 そうだ、抑えろ、抑えなければ……。

「貴方もお父様に刃向かうおつもりなら、こちらにも考えがあります」

 シオンはそう言って、静かにぼくの横を通り過ぎて行った。

 ぼくの目の前が、いつもの色を取り戻していく。

 しかし、シオンの次の言葉が、ぼくにとどめを刺した。

「明日、No,6の処分を」


 空っぽだったぼくの中を、憎しみが満たしていく。



 悔しい……!



 ぼくは振り返り、シオンを一点に睨みつけた。

 自分でも驚くほどの速さで、目の前が赤く染まる。

 ぼくが手のひらを宙に向け、サッと横に振ると、薄い水の膜が、ぼくの周りを包んだ。

 それに気づいたように、シオンが振り返る。

 しかし、さして動揺している様子はない。

 ただ、いつものように澄んだ虚ろな瞳で、何もかもを見透かすようにぼくを見つめている。

 ぼくは素早く、右腕をシオンに突き出した。

 行け!!

 音もなく、音速の速さでぼくの回りの水壁が、一気にシオンを襲った。

 ぼくが祈ったのもつかの間、すぐに、パン、と軽い音がして、シオンの一歩手前で砕け散るように跳ね返された。

 ぼくは返ってきた攻撃を避け、さらに右手を振り上げる。


 その時、


 いつも、表情をまったく変えないシオンが、大きく目を見開いた。

 その表情と、ガラス球のようなその瞳に、ぼくは思わず動きを止める。

 いや、シオンの瞳に、止められたわけじゃない。

 ぼくの一番嫌いな、あの、体中を鷲掴みにされるような威圧感が、後ろからぼくを襲ったからだ。

 ぼくは、ぴくりとも動かなかった。いや、動けなかった。

 今振り返ったら、ぼくは確実に、強制終了をされる。

 それも、強制終了された瞬間なんて、気付かないままで、気づいたら、あの冷たいラボラトリーに寝かされているんだろう。

 それほどの力が、ぼくを襲ってきている。

 地を這うような――何かを引きずるような、嫌な音がぼくに近づいてくる。

 緊張と恐怖で張り詰めるその場で、ぼくはシオンに向けた右手も下げることが出来ず、ただ目を見開き、シオンを見つめていた。

 ぼくの頬に、水滴が伝う。



「GX.No,1……」



 シオンが、ぽつりと呟いた。

 それと同時に、ぼくをもの凄い力が襲った。

 ぼくは、倒れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ