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046

 ヴォルトに、先ほど考えた計画をマルシェさんたちに話してくれと頼み、ぼくは一人で公司館を散歩することにした。

 ヴォルトは「お前が言えって言っただろ」という顔をしていたが、ぼくが「お別れぐらいしたいよ」と言ったら、「お前らしい」と頷いて、OKしてくれた。

 きっと、計画を実行するのはまだまだ先だろう。早くと言っても、ここを出るにはいろいろ準備が必要だ。

 人間だったら、食料や必要な衣服、思い出の品なんかをかき集めてバックに詰め込むんだろうけど……。

 思い起こせば、ぼくには思い出の品や、必要なものなんて、あまりない。

 あるとしたら、ゼルダのデータとほんの少しの代えの部品……それから本体に残してきた記憶かな……。

 こういうことを考えていると、心底自分がロボットなんだと思い知らされる。

 最近は、公司以外の人と触れ合っているせいか、自分のことが本当に人間のような気がしていたんだ。

 事実、ぼくらはとても人間に近いロボットだろう。食事もできるし、表情だって変わる。それに心も、ある。

 それでも、ぼくらは人間じゃない……――人の形をした機械、か……。

 でも、もしそうだったら、ぼくがもし、人間だったら。

 ぼくは人として、どんな人生を送っていたのだろう……――。

 ぼくはぼんやりと自分の“人生”を想像して、廊下の隅で笑ったりため息をついたりしていた。

 時々、通りかかった忙しそうな公司たちが、ぼくの様子がおかしいとヒソヒソ話をしていたが、ぼくは気に留めなかった。

 ぼくを造った公司たちは、どんな思いで、ぼくを造ったのだろう……。

 そもそも、公司たちはどうしてあんな酷いお父様の下で、文句も言わず働いているんだ?

 ぼくは廊下の隅に座り込み、今度は壁に向かってうーんと唸り始めた。

 どうやら、ヴォルトに改造されたせいで、ぼくはバカどころかずいぶん変わり者になってしまったみたいだ。

 困ったな。ぼくはプッと吹き出し、立ち上がった。

 ここでいろいろ考えていても、仕方がない。ぼくはとにかく、この公司館を出たいんだ。それには、ぼくなりの支度がいる。

「ようし」

 さて、まずぼくは何をしたいのだろう?

 結論、昔のぼく――ぼくの片割れに、会いに行こう。


 ぼくは靴のかかとで冷たい床を鳴らしながら、ぼくのラボラトリーを見上げた。

 ぼくが大穴を明けた扉はもう、完全に跡形もなく直っている。

 補修された浮き彫りの“LABO5”の文字が、ぼくをじっと見下ろしていた。

 ぼくは重い扉に手をかざし、パスワードを入力した。認識される音がして、扉の歯車が回り始める。

 扉がぼくを避けるように開き、ぼくは中へ進んだ。ラボの中は相変らず、冷蔵庫のようだ。ひんやりした空気がぼくを包む。

 ゼルダが壊した部屋の中は、もう全て元通りになっていた。床も壁も綺麗に掃除されていて、ここでいくつもの大爆発があったとは思えない。

 ぼくは個々の唸りをあげている機械たちを見回し、扉がぴったり閉まるのを確認した。

 部屋の中が真っ暗になったと思ったら、ぼくの左側にあった大きな機械が、ぱっと画面を緑色に光らせた。

 ぼくは画面に向かって、小さく微笑む。

 いろいろな緑色に画面を光らせ、ぼくに「おかえり」を言ってくれている。

 これは、ぼくの本体だ。人型のぼくの何十倍もあって、さまざまな情報が中に入っている。

 いくら最新の技術で造られたぼくらといえど、情報が収められる場所は無限ではない。それに、ぼくは人型だから、自由にどこへでも動いていけるために、一日に得る情報の数はもの凄い。

 人は忘れることができるけれど、ぼくはそれができない。だからこそ、いろいろ詰め込みすぎて頭が破裂しないように、時々ここに来て情報を本体に移しているんだ。

 ぼくは「ただいま」と小さく呟き、大きな機械の前に置いてある不釣合いなキーボードに指を置いた。

 カチカチと音を立ててキーボードを打ちながら、ぼんやりと暗がりに浮かぶぼくの本体を見上げる。

 ぼくは、今は人間の形をしているけれど、しょせんはこんなに大きな機械。

 こうやって人型にしてもらわないと、動くことも話すことも出来ない。

 なんだか、ほんの少しのデータでも、残していくのは可哀想な気がするなぁ……。

 パン、とはじけるような音をさせながら、ぼくはエンターキーを押した。

 すると、ぼくの本体が低く唸り声をあげ始める。ぼくは自分の右手を差し出した。

 ぼくの右手首の蓋が開き、ゼルダのデータが入ったCD‐ROMが現れた。

 ぼくはそれをそっと摘み、本体にセットする。

 本体はすぐにゼルダを取り込み、また画面から緑色の光が漏れ、低く唸り始めた。

 ぼくはぼんやりとその場に立ち、色とりどりに光る画面を見つめる。

 低い唸りが薄れてきた頃、ぼくはまた画面に向かって微笑んだ。

「やあ」

 ぼくが言葉を発した途端、画面の明かりがぱっと消える。

 そして、ゆっくりと、恐る恐る、キーボードが勝手に鳴り始めた。

“誰?”

 臆病そうに、たった一言。

 ぼくは、プッと吹き出した。

 ぼくらしい。

「ぼくだよ。アラン」

 ぼくは答える。

 すると、またぷっつりと文字が消えた。

 次に、ものすごい速さでキーが打たれる。


“ぼくは落ちたんじゃなかったのか?”

“ぼくは壊れたはずだろう?”

“なんでお前がいるんだよ、お父様は?”

“ここはぼくの本体か?”


 次々に打たれる文字を見つめながら、ぼくは思わずニヤニヤする。

 そんなぼくに、気付いたようだ。

 多数の質問がパッと一瞬で消え、画面の真ん中にひとつの質問だけが残る。

“なんでぼくはここにいるんだ?”

 緑色の文字が、ぼくに問いかけてきた。

「ヴォルトが君のデータを拾ってくれたんだよ。そして、ぼくが持ってた」

 文字が消えないうちに、ぼくは素早く答えた。

 文字がぱっと消えて、また打たれる。

“そんな……完全に壊れたと思ってた”

 安堵感と、驚きと、同時に味わったような打ち方だ。

「あぁ、君は、確かに一回死んだよ」

 ぼくは言う。

“死ぬ? それは人間に使う言葉だろ”

 ゼルダが打つ。

「あぁ……まぁ、ね」

 ……ぼく、こんなに言葉使いが荒かったかな。

 ぼくはため息をついて、ゼルダに近寄る。

 まぁ、ここはひとつ、あいさつだ。

「やぁ、元気かい? ……ぼくの片割れ」

 ぼくは画面を見上げ、苦笑いして言った。

 ゼルダの文字が消え、また現れる。

“ふん。誰が片割れなんかなもんか。ぼくはぼくだ。お前は、ただの残り物さ”

 ゼルダが、棘のある言葉を打つ。

 少しムッとしたが、そこは抑えておいた。

「……あぁ、そう。ならそれでいいよ。じゃあさ、その残り物とくだらない話でもしない?」

 ぼくは顔をうつむかせ、片足を揺らし、いらつきをごまかしながらそう問いかける。

 ゼルダの文字が、また消えた。

 しかし今度は、すぐには文字が打たれない。何か考えているんだろう。

 ぼくがまったく、とため息をつきかけた頃、キーボードが動き出した。

“どうしてわざわざくだらない話なんかしなきゃいけないのさ。嫌いなやつと”

 一気に一文が打ち出された。

 これには、さすがにぼくも、あからさまイライラし始める。

 ぼく、こんなに口が悪かったっけ?

「……ごもっとも。じゃあ答えはNOかい?」

 ぼくは抑えていたイラつきを滲ませ、はるか頭上のゼルダを睨み上げた。

 すると、ゼルダは少し本体を唸らせた後、“嫌いなやつと”が消え、

“……仕方ないな、付き合ってあげるよ”

 と表示された。

 素直じゃないな……ぼくらしい。

 ぼくはにやりと笑う。

“なんだよ”

「なんでもないさ」

 ぼくは無造作に重ねてあったがらくたの山を足で蹴って崩し、開いたスペースに座った。

 ゼルダが“ピー”と嫌そうな音を出したので、きっとこのがらくたはぼくらの体の一部なんだろうとは思ったけど、もう、別に必要はない。

「じゃあ、話そう」

 ひんやりと冷たい空気が渦巻く中、ぼくらは話し始めた。


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