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セルフパロディ「わたしと隣の和菓子さま」もしも…の大学生編

◆もしもの世界の物語 大学生編です◆

OKな方のみ、どうぞ~


【設定】

柏木慶子さんと鈴木学君は、同じ大学に通う同級生。

鈴木君は「和菓子屋 寿々喜」の跡取り息子。

慶子さんはアルバイトをしていない大学生。

 大学の授業が終わるのを待って、柏木慶子さんは鈴木学君が待つ図書館へと向かった。

 デパートで行われている和菓子のイベントへ一緒に行く約束をしていたのだ。

 本当は、福地裕也君も来る予定だったのだけれど、急用ができたと山路茜さんから伝えられた。

「邪魔者はいないから、安心して楽しんできてね」

 山路さんは慶子さんに手を振りながら「まったく、三人で行こうとするなんて。福地ってばなにを考えているんだか」とぼそりと言った。




 慶子さんは、大学の校舎の一番端にある、レンガ造りの図書館へ足を踏み入れた。

 館内は、ひんやりとした空気と古い本の独特の匂いがした。

 本好きの慶子さんにはたまらない場所なのだけれど、活動的な山路さんは「なんか苦手」と顔を顰める。

 さて、鈴木君はどこだろうとまわりをぐるりと見ると、左隅にある雑誌コーナーのソファにいた。

 後ろ姿でもわかる彼に近づき声をかけようとした慶子さんは、開けた口を慌てて閉じた。

 なんと鈴木君は、雑誌を開いたまま眠っていたのだ。


 高校を卒業したあと、彼は実家の和菓子屋で菓子作りの勉強を始めた。

 大学との二足のわらじは、悩んだ末の結論だったらしい。

 朝から晩まで、鈴木君は大忙しなのだ。


 

「体は大丈夫なんですか?」

 ある日の昼休み、慶子さんはあくびをした鈴木君に思わず尋ねた。

「ごめん、ごめん。全然平気だよ。ただ、一日が四十八時間あればなぁとは思うかな」

 大学のレポートとか結構時間くうしね、と鈴木君は言った。




 今日の和菓子のイベントに鈴木君を誘ったのは、慶子さんだった。

 正確には、鈴木君だけではなく高校の元剣道部の仲間だ。

 鈴木君に山路さん。福地君、北村君。

 そこで、鈴木君と福地君が一緒に行くと言ってくれたのだ。

 けれど、よく考えればアルバイトもせずに学生生活だけを送っている慶子さんと、大学に通いつつも和菓子の勉強を始めた鈴木君では、生活のリズムが違うのだ。


 和菓子のイベントがあるのを新聞で知り、嬉しくてついつい誘ってしまったけれど。

 本当は迷惑だったのかもしれない。

 でも、彼はとてもやさしいから、そんなこと言えずに、慶子さんに付き合ってくれたのだ。


 きっと、そうなのだ――。




「――さん」

 慶子さんは、ぱっと目を開けた。

 すると、なんと至近距離に鈴木君の端正なお顔が。


「え? わたし、もしかして……」

「うん。寝てた。『もう、食べられません』って寝言も言ってた」


 なんてことを! 

 立ち直れないと、慶子さんは涙目になる。


「嘘だよ」

「嘘っ??」

「うん。すーすーと気持ちよさそうに寝てた。起こそうかどうしようかと迷ったけど、柏木さんはイベントに行きたいだろうなと思ってさ」

「そうなんです!」

 慶子さんはすっくと立ち上がった。

「でも……時間大丈夫ですか? 予定よりも遅くなってしまいましたよね」

「問題ないよ。それに寝ていたの、ぼくが先だよね。ごめんね」

「いえいえ、毎日お疲れですよね」

「柏木さんに労わってもらえるようなこと、まだ何もできてないわけだし」

 そう言うと鈴木君も立ち上がった。

「それに、少し得したし」

「そうなんですか?」


 仮眠を取れてすっきりとか、そういったことかな?


 鈴木君がにこりと笑うので、慶子さんも深くは追求せずにつられて笑った。






 その翌日。

 慶子さんは大学の教室で山路さんに会うなり、腕をひっぱられ廊下へと連れ出された。

 山路さんの目は、やけにキラキラと輝いている。


「昨日、柏木さんと鈴木がっ、図書館のソファで仲良く頭をこっつんこさせながら眠っていたって聞いたけどっ。ほんと?」




 慶子さんはその日一日、高校時代のクラスメイトや元剣道部の仲間に会うたびに「頭こっつんこ」と言われ続けた。


 


(おしまい)

2022年6月に富士見L文庫さま(KADOKAWA)より「わたしと隣の和菓子さま」を発売していただきました。

その記念として、以前Xに掲載したものを加筆修正しました。

修正とはいえ、作者としても久しぶりの慶子さんの再会。

ちょっとドキドキしました。



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