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私たちの先祖は、古代にヴェルディス・ティル・ナから混血として追放されて以来、母から娘へ、そしてまた娘へと、深い愛情と魔力のみで命を紡いできた。私たちが暮らすこの大陸には、世界の中心にそびえ立つ巨大な『精霊樹』があり、その枝には星の数ほどの『命の結晶』が蕾のように結ばれている。
愛し合う二人の者が永遠の誓いを立てると、精霊樹から一つの結晶が授けられる。その結晶は、最初はただの冷たい石ころに過ぎない。しかし、二人が互いの魔力を一年という長い歳月をかけて定期的に注ぎ込み続けることで、結晶はゆっくりと鼓動を始め、色彩を帯び、やがて新たな命——ふたりの魂と魔力を受け継いだ愛らしい赤子となって産声を上げるのだ。
一年間、絶え間なく魔力を注ぎ続けることは、決して容易なことではない。
自身の魔力の大半を結晶に捧げるため、母となる二人は常に疲労感に苛まれ、時には命を削るような痛みを伴うこともある。それでも、愛する人との間に新たな命を迎えるという奇跡のためならば、どんな苦難も乗り越えられると、皆がそう信じていた。
私も、そう信じていた。
今日、この瞬間までは。
「……ファウスティーナ、遅かったわね。今日も、魔力を注ぐ時間よ」
精霊樹の根本に広がる、神聖な静寂に包まれた星明かりの聖域。私は、冷たい大理石の祭壇に置かれた私たちの『命の結晶』を愛おしげに撫でながら、背後から近づいてくる足音に向かって微笑みかけた。
結晶を授かってから、今日でちょうど十ヶ月。
あと二ヶ月もすれば、この乳白色の結晶から私たちの娘が生まれるはずだった。私の魔力は『無色透明』という、貴族社会では最も地味で価値がないとされるものだったが、私の愛する婚約者であり、将来を嘱望された優秀な魔導騎士であるファウスティーナは、そんな私を「純粋で美しい」と愛してくれたはずだった。
だが、振り返った私の視界に飛び込んできたのは、冷酷な光を宿したファウスティーナの瞳と、彼女の腕に絡みつく、見知らぬ豪奢なドレスの女性の姿だった。
「ファウスティーナ……? その人は……?」
「ヴァレリアーナ。単刀直入に言うわ。あなたとの契約も婚約も、今この場で破棄させてもらう」
氷のように冷たい、感情の抜け落ちた声だった。
私は一瞬、彼女が何を言っているのか理解できず、瞬きを繰り返した。誓約の破棄? 命の結晶を授かってから誓約を破棄するなど、前代未聞だ。それはすなわち、この十ヶ月間育ててきた結晶を——私たちの子供を、死なせるということを意味するのだから。
「な、何を言っているの? 冗談でしょう? あと二ヶ月で、私たちの子供が……」
「『私たちの』子供? 笑わせないでちょうだい」
ファウスティーナの隣に立つ、燃えるような赤い巻き毛の女性が、扇子で口元を覆いながらクスクスと嘲笑った。彼女が身につけている装飾品には、名門貴族であるトゥッリア家の紋章が刻まれている。
「本当に、平民というのは頭が鈍いのね。ファウスティーナ様が、あなたのような無色で無価値な魔力しか持たない女の血を引く子供なんて、心底望むわけがないでしょう? これまでの十ヶ月間、ファウスティーナ様がどれほど苦痛だったか、あなたには分からないの?」
「……無価値な魔力……?」
私は愕然として、ファウスティーナを見た。彼女はトゥッリアの言葉を否定するどころか、冷ややかな同意の目を私に向けていた。
「トゥッリアの言う通りよ、ヴァレリアーナ。私は魔導騎士団の次期団長となる身。私の伴侶となるべきは、強力な魔力と高貴な血筋を持つ者でなければならない。黄金の魔力を持つトゥッリアこそが、私の真の伴侶にふさわしい」
「嘘よ……! だって、あなたは私の魔力を美しいと言ってくれた! それに、この十ヶ月間、私がどれだけ……!」
言葉が喉に詰まった。
この十ヶ月間、ファウスティーナは「騎士団の任務が忙しい」「魔力枯渇で倒れそうだ」と理由をつけては、儀式を欠席することが多かった。結晶が死んでしまわないよう、私は自分の限界を超えて魔力を注ぎ続けてきた。食事を削り、睡眠を削り、高価な魔力回復薬を借金をしてまで買い集め、ひとりで結晶の命を繋いできたのだ。
私の体は今も、慢性的な魔力欠乏によって指先が震え、立っているのもやっとの状態だった。
「あなたが一人で勝手に魔力を注いでいたのは、あなたの自己満足でしょう? むしろ、あなたのその無色で貧弱な魔力のせいで、結晶の成長が遅れているのよ。見てみなさい、十ヶ月も経つのに、こんなにくすんだ色のままじゃない!」
ファウスティーナは吐き捨てるようにそう言い放つと、祭壇に歩み寄り、無造作に結晶に手を伸ばした。
「やめて! この子に触らないで!」
「ふんっ。こんな不良品の結晶、私にはもう必要ないわ。トゥッリアと共に、新しく完璧な命を授かるのだから」
ファウスティーナが結晶に触れ、彼女自身の魔力のパスを強制的に切断した瞬間だった。
「パキンッ」という、ガラスが割れるような乾いた音が聖域に響き渡った。
私の心臓が、握り潰されたような激痛に襲われた。
祭壇の上で淡く脈打っていた結晶から、急速に光が失われていく。温かかった乳白色の表面に亀裂が走り、中から泥水のような濁った魔力が漏れ出し、そして……結晶は、ただの冷たく黒い石へと変貌した。
「あ……ああ……」
膝から崩れ落ちた。震える手で黒い石を抱きしめるが、もうそこには何の鼓動も感じられなかった。死んでしまった。私の愛情も、十ヶ月の身を切るような努力も、そして会うことを夢見ていた私たちの子供も、すべてが、この冷酷な手によって壊されたのだ。
「あっはっは! お似合いの末路ね。無色の魔力しか持たない平民の小娘には、その真っ黒な石ころがお似合いよ!」
トゥッリアの高笑いが響く。
「行くぞ、トゥッリア。こんな貧乏くさい女に関わっている暇はもうない。私たちは精霊樹の高位の枝で、最高の結晶を授かろう」
「ええ、ファウスティーナ様。あなたと私の黄金の魔力なら、きっと最高に優秀な子が生まれるわ」
二人は私を一瞥することもなく、腕を組んで聖域の奥へと消えていった。
静まり返った聖域。
私は冷たい石畳の上にうずくまり、黒い石を抱きしめたまま声を殺して泣いた。悔しかった。悲しかった。裏切られた怒りと、すべてを失った絶望が、私の心を黒く塗り潰していく。
私の魔力が無色透明で、地味だから。貴族の血を引いていないから。
だから、こんなにも簡単に捨てられ、踏みにじられなければならないのだろうか。




