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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
第五章 極悪貴族と姉妹の幸せ
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本当に怖いのは女の方

「午後はそこの壁の修復と、向こうの一角の舗装いくぞ。余裕があれば村の入り口の飾り付けもだな。」


タイタンとその部下達は、村の広場に集まって、少し遅めの昼食をとっている。この付近は食料の調達が不便なため、定期的に出入りする業者に頼む事になっているが、なかなか優秀な業者で金さえ払えば大抵の食材は取り揃えてくれる。


料理はミラージュが作ってくれている。腕前も大したもので、今日は若鶏の炭火焼に、コーンポタージュ、キノコとハーブの入ったクリームソースをかけたパスタなど中々豪勢なメニューだ。普通にレストランに出てきてもおかしくないメニューだが、労働後に青空の下で食べる料理も中々味がある。


部下達もミラージュの料理に満喫し、次々とおかわりを要求していく。最初から多めに作っておいたはずなのだが、そんなに時間もかからないうちに、鍋が空になる。ミラージュは自分の作った料理を残さず食べてくれる部下たちに、嬉しそうな笑顔を向ける。後片付けは部下たちが率先して行っていた。タイタンや元ゴクアの私兵団が、こんな風に和やかなランチをとってる姿など、ノルヴェ村の人には想像できないだろう。


祭りの準備はほぼ完了していた。タイタンとその部下達は眼前に並ぶ建て直された家々や祭りの屋台、整備され舗装された道や水路などを眺めて満足そうに談笑している。住人達が帰ってきたら、村の変貌にさぞかし驚く事だろう。本当にここがノルヴェ村かどうか疑う者も出てくるかもしれない。


警戒していたゴクアの方も、未だ主立った動きは見せていない。今のところ村に一人の私兵も寄越していないが、それがかえって不気味さをあおる。しかし、そのおかげでゴクアの邪魔が入らず、復興や祭りの準備が順調に進んでいるのも事実だ。ゴクアが何を仕掛けてくるかは分からないが、この村が王都の役人に目をつけられている以上、迂闊なことはしてこないだろう。タイタンが考え事をしていると、頰にポツポツと水滴が落ちてきた。


「ん?なんだ?降ってきやがったか。おい、おまえら、作業は一旦中止だ。雨がやむまで各自休憩してろ。」


部下に命じると、ミラージュを連れて領主の屋敷に戻る。ミラージュはタオルを持ってきて、タイタンの体を吹き始める。


「おい、ミラージュ、やめろって。自分で拭けらぁ。恥ずかしいじゃねぇか。」


「ダメよ、あなた、いつも適当に済ますじゃない。ちゃんと拭かないと風邪ひくわよ。お風呂もわかそっか?」


「そこまでしなくていいって。風呂入りたいんなら、おまえだけ入れよ。」


「あら?一緒に入ってくれないの?」


「な・・入るわけねぇだろ!」


「ふふ、冗談よ。それじゃ、お言葉に甘えて私だけ入らせて貰うわね。」


浮かれながら去っていくミラージュを見て、タイタンは思わずため息をつく。全く、何考えてやがんだ、ミラージュのやつ。だいたいあいつの中で俺はどういう存在なんだよ・・


タイタンがソファーでくつろいでいると、屋敷のチャイムが鳴った。ミラージュが出ようとするのをタイタンが止める。まさかとは思うが、ゴクアの私兵だったら、ミラージュが出るのはまずい。俺が出ると一言告げて、タイタンはドアを開けた。


「あら、まるで新婚さんみたいね。お邪魔だったかしら?」


「なんだ、ランシアか。連れもぞろぞろいるみてぇだな。って、ライラとリニアもいるのか。なんでおまえらまでこの村に来たんだ?ハーバーで何とかっつう大商人の保護受けてるんじゃなかったのかよ?」


「彼女達もゴクアを倒すのに協力したいってきかないのよ。腑抜けな村人の代わりに私たちが手を貸すってね。」


「腑抜けな村人?」


「それなんだけどさ・・」


タイタンが怪訝そうな顔をするのを見て、カシワがフランで解放された村人たちのことを説明する。話を聞き終えたタイタンはカシワの話をある程度想定していたようで、さほど驚く様子も見せなかった。


「まぁ無理もねぇわな。むしろ、ライラやリニアがこの村に戻ってきたことの方が驚きだしよ。でもよぉ、これからどうすんだ?確かランシアの話じゃ、祭りで一番盛り上がった時に、近隣の 町村の連中や王都の役人たちの前で俺と村人が今までノルヴェ村で起きたことを演説するっつう話だったよな?んで、全部ゴクアの命令で、この悲劇を繰り返さないために俺がここをおさめる貴族に立候補するっつうシナリオのはずだろ?」


カシワやリアもタイタンの言うことに頷いた。


タイタンの言うとおり、ランシアの立てた案では、まず何より先に、ゴクアが今までノルヴェ村で行ってきた事実について、周囲の町や村に住む人々、王都から派遣されてきている役人たちに知ってもらうことが大事だったはず。そのうえで、ゴクアの貴族としての責務を問いただし、世論の力を持ってゴクアを糾弾していく方向で手を進める予定だ。


本当は武力でゴクアに攻め込むことができれば、手っ取り早いのだが、ゴクアは自身の抱える私兵団だけでも小国の一個小隊に匹敵すると言われている。その数はおおよそ三百を超えており、そのうえ、ゴクアとコネのある他の貴族や有力者たちも加勢してくれば、総勢千に届くかもしれない。もちろん全員が強者というわけではないし、ノルヴェ村にいた私兵団なんかのように、態度だけ傲慢で実力が伴ってないといった連中も多い。


それでも、数が集まれば、脅威にちがいない。そのうえ、タイタンが個人で攻めきれなかった理由は他にもある。そもそもタイタンには、さすがに三百は無理だとしても、一人で相当数の私兵団を相手にできる強さはあった。だがゴクアの部下は人だけではない。マンティコアやガーゴイルといったこの地方では強力な魔物も手下に加えていた。


特にマンティコアは厄介で、毒を霧状にして周囲の空間を包み込む技能を持っている。強力な魔法耐性を持つタイタンも毒には勝てず、意識が朦朧としたところを数で一気に攻め込まれ、戦闘で敗れた。さらに法律上、非は完全にタイタンにあるとされ、それまでつるんでいた仲間も一斉に捕らえられ、ミラージュまで捕まり、結果、ゴクアに屈することになってしまった。


タイタンは以前ゴクアに敗れたときのことをカシワたちに話し、警戒心を強めるように忠告したのだが・・


「だから、ここの警備は俺たちだけじゃなく、もっと数を増やすとか、それこそ名うての冒険者を雇うとかしてだな・・おい、人がせっかく忠告してやってるのに何やってんだ?」


ランシアたちは、タイタンが話している間も持参した袋から、大量の菓子とコーヒー、紅茶の用意をし、いつものミス研の部室にいるときのようにくつろぎはじめている。


「何って、せっかくの午後の一時じゃない。シエスタって知らないの?昼食後にくつろぎのひと時を過ごす素晴らしい文化よ。タイタンもどう?このエスプレッソ、美味しいわよ。せっかくだからミラージュも呼んで皆でお茶しましょうよ。」


ランシアはエスプレッソをタイタンに手渡すと、部屋の奥にいたミラージュにも声をかける。タイタンの部下達も唖然としていたが、リッチマンやリアが手招きすると、ぞろぞろとやってきて、各々コーヒーか紅茶を手に取り、周囲の地べたに直座りしていった。


カシワはその様子を見て苦笑する。こんな時でも皆、マイペースだ。それがミス研メンバーの持ち味でもあるのだが、知らないものが見れば危機感が無さ過ぎると怒り出すかもしれない。だが、アイディアというのは、真剣に考え込んだときよりも、こうやってくつろいでいるときの方が実は思い浮かびやすい。しかし、タイタンには当然そのような考えはなく、案の定キレはじめた。


「おまえら、やる気あるのか?そもそも、おまえらが俺に貴族に立候補しろだの、祭りの準備しろだの言い始めたんだろうが!ミラージュの件で世話になったし、ゴクアに立ち向かう気概に感心して手を貸してやってるってぇのに、俺のことをなめてんのか?」


やっぱり、そりゃ怒るよな・・俺もタイタンの立場なら納得いかないだろう。だが既にミス研の活動に慣れてる立場から言えば、こうやってマイペースにのんびりと準備していく方が、かえって物事は上手くいくということを実体験として知っている。


「なぁタイタンさん、気持ちは分かるけどさ、これも作戦のうちだと思って、合わせてみてくれないかな?とりあえず一杯飲みなよ。って言ってもアルコールじゃないけどさ。」


カシワが差し出したエスプレッソを渋々受け取るタイタン。皆がくつろぎ始めた頃合いをみてランシアが問いかける。


「ねぇ、タイタン。ゲーム理論って知ってるかしら?」


タイタンは首を傾げて、横に振る。


「なんだそれは?ゴクアを倒すための算段の一つか?」


「まぁね。一言でゲーム理論って言っても最近じゃ色々な仮説や議論が展開されてるみたいだけどね。私が言ってるのは、その中でも登場する人物が全員自分にとって最も得となるように行動していくと、結果として損をしてしまうっていう割とポピュラーな理論よ。このパターンをつかって、ゴクアを嵌めようと思ってるの。」


「得になるように行動すると損をする?」


「ええ、ゴクアのようなより強力な権力や富を欲する人物には効果的だと思うわ。ゴクアは自分の得になるように行動していき、自滅する・・」


「そんなことが可能なのか?」


「理論上はね。現に今もゴクアがノルヴェ村の宝石に目をつけ、自分自身が利益を最も多く取ろうとした結果、私たちのような得体の知れない旅行者が現れて、ゴクアの不利になるような噂話を流され、村は王都の役人に目をつけられ、ゴクアは村から宝石を取れない状態になってるじゃない。」


ゲーム理論は本来は複数登場人物がいて、各自が最も多くの利益をとろうとした結果、不利益な結果を得てしまうという理論で数学や経済学などで使用されている理論だ。ランシアが考えているのはこの理論を簡略化したもので、単純に言えば、ゴクアがノルヴェ村から利益を取ろうとすればするほど、ゴクアの力が弱まっていくというものだった。


「でもさランシア、具体的にはどうするんだ?」


カシワが尋ねると、ランシアは地図を持ってきて説明を始める。


「まずは、前にも話した通りこの村で大々的な祭りを行ってもらうわ。別に祭りじゃなくても、要は人々を大勢集められるイベントならなんでもよかったんだけどね。」


「それで大勢の人々の前で、ゴクアがこの村にしてきた仕打ちを村人たちを交えて説明るするんだろ?でも、ノルヴェ村の人々がいなかったら、それも出来ないんじゃないか?」


「村人たちが戻ってこなかったなら、その理由をライラやタイタンの口から説明すればいいだけよ。もっとも、私には村人たちは戻って来るっていう確信があるけどね。どちらにせよ、ゴクアの評判はそれだけでも相当さがるはず。」


「でも、それで評判が下がったからって言って、ゴクアを制するほどのダメージには程遠いだろ?」


「だからゲーム理論よ。ゴクアは評判が下がっても、この村から産出される宝石の利益を獲得することを、自身の得と考えるはず。ゴクアは圧政を強いている割には慎重な男だって評判よね?そんな奴がこの村から利権を安全に得ようとするなら、どうするかしら?カシワはどう思う?」


「どうするって・・」


カシワはしばらく考える。王都の役人たちの目が光っている状況で、強引な手口は使いにくい。力づくで宝石を略取するのでなければ、合法的に手に入れようとする?例えば、納税などの名目で村人に宝石利益をおさめさせようとするのではないだろうか。


「村人たちに税とかを課して、自ら利益をおさめさせようとするとか?」


「そうね。私兵団に強引に略取させるような手が使いにくいなら、王都の役人に問われてもゴクア側には非がないという形で、利益をとろうとするでしょうね。そこで次。タイタンは今この地をおさめる貴族として立候補しています。この場合、村人は誰に税をおさめるべきかしら?」


「誰にって・・タイタンはまだ立候補しただけで、正式にこの地をおさめる貴族として任命されてるわけじゃないんだから、悔しいけどゴクアにおさめることになるんじゃないのか?」


「いえ、そうはならないの。タイタンが正式に任命されるか否かにかかわらず、ゴクアがこの地をおさめる貴族として相応しくないと判断されれば、一時的に税は王都に対して支払われることになる。ゴクアの評判を下げるのは、王都の重役達に正式にゴクアの貴族としての資質を問わせるためよ。つまり、祭りを通してゴクアの評判を王都の役職者の耳に入れ、村人たちの税のおさめ先を一旦ゴクアから王都に移すのが次の作戦。」


ランシアが話していると、俺たちの会話を聞いて、タイタンが割り込んできた。


「でもよぉ、そんなに上手くいくもんなのか?大体、今までだってゴクアがきなくさいことをやってたなんて、王都の連中にとっても暗黙知されてたことなんじゃねぇのかよ?」


「でも、今までは村人達からの正式な訴えなんてなかった。今はもう状況が違うわ。役人たちが村人から事情を問いただし、近隣の町村でも至る所でゴクアについての噂が流れている。既に暗黙の了解で済まされる事態ではなくなってるのよ。とすると、次はどう出ると思う、カシワ?」


カシワは再び話をふられて、考える。税をおさめる対象がゴクアでなくなったとしたら、ゴクアはノルヴェ村からの利益を享受できなくなる。とすると、ゴクアはこの村への干渉をあきらめるだろうか?いや、ノルヴェ村の宝石利益はゴクアにとって貴重な財源となっているはずだ。簡単に手を引くとは思えない。力づくでも、合法的にも無理なら・・人の目に見えない形で宝石を奪い取る?


「まさか、盗賊団でも雇って村から宝石を奪うとか?」


「バカね。そんなことしたら、捕まった時に言い訳が立たないじゃない。ゴクアは慎重な男なんでしょ?自分はリスクをおかしたくない。だけど宝石利益は欲しい。納税という形がダメなら、他の合法的な方法で手に入れようとするんじゃないかしら?」


「他の合法的な方法?」


「ええ。例えば私だったら、商取引なんかを考えるわね。と言っても、まともな取引じゃないわ。村人に直接暴力は振るわなくても、圧力や場合によっては脅迫なんかを交えて、安い金額で宝石を買い叩く。ゴクアなら販売ルートなんていくらでも持ってるでしょうから、物が手に入りさえすれば、いくらでも利益を叩き出すことができる。」


「それじゃ、結局打つ手がないんじゃ?」


「いいえ、村の宝石の取引先もゴクア以上に力を持ってる人に変えちゃえばいいのよ。」


「ゴクア以上の力を持つ人・・って誰?」


俺が鸚鵡返しに尋ねるのを聞いて、ランシアが短くため息をつく。


「少しは自分で考えなさいよね。簡単なことじゃない。村の宝石も王都に買い取ってもらえばいいだけよ。多少はサービスする必要があるでしょうけど、ゴクアに売るよりははるかにましなはずよ。ハマーンに買い取ってもらってもいいわね。彼ならゴクアの横槍が入っても上手くやってくれるでしょうし。」


「ああ、なるほどね。あれ?でも今言った内容って、ゲーム理論関係なくない?要はゴクアに宝石利権が入らないように画策してるだけでしょ?」


「そうでもないわよ。ゴクアは村の宝石利益を得るために、次々と手を打っていき、その手を全て私たちが先手をうって潰していく。追い詰められたゴクアは自分の都合のいいようにいかないことに焦り始める。ゴクアは慎重な男だけど、同時に今まで勝ち続けてきた成功者でもある。


そんな人間が初めて自分の都合に合わない事態に直面すれば、意外と脆いものよ。断言してもいいわ。一箇所崩れれば、必ずゴクアは隙ができる。上手くいけば自暴自棄になってくれるかもしれない。そこまで行かなくても最後は力づくで村の宝石を略取するぐらいには持っていけるかもね。


そうなればこちらの思う壺。ゴクアから力づくでこられたなら、遠慮なく法の力も使えるし。フフフ、楽しみよね、自分は誰にも負けないと思ってる男が転がり落ちていくのを見るのって、カ・イ・カ・ン♪」


「なぁランシア・・」


「なぁに、カシワ?」


「おまえ、絶対楽しんでるだろ?」


「あら、そんなことないわよ。私はライラやリニアが村での楽しい生活を取り戻せればいいなぁって思ってるだけよ。」


どう見ても面白がってるようにしか見えないランシアだったが、ライラたちが幸せな生活を取り戻すために行動していることには違いない。ゴクアが村にしてきた仕打ちを思えば同情の余地などはないし、これで村人にも自由な生活が戻るなら悪いことはしてないはずだが、どう見ても凶悪な笑みを浮かべているランシアを見て、カシワは少しだけゴクアを哀れんだ。


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

ちょっと色々とありまして、週一ペースと申しましたが、しばらくの間、二週に一回くらいになってしまうかもしれません・・

なんか、知らない間にどんどん読んでくださってくれてる方が増えてる中で、本当に申し訳ないです。

いずれ落ち着いたら、またペースを直しますので、しばらくの間、ご容赦ください。

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