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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
第一章 祭りと学問とミス研と
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フィアー先生の涙

カルロスとニーナが勧誘活動から帰ってくると、ゴブリン、大ガラス問題対応と文化祭の出し物について、議論を始める。モンスターの対応の方は元々そんな大掛かりな活動をやる予定はなく、近隣の農家と飲食店の人にお話を伺って、朝時間が空いてるときや、講義が無いときなどに被害のあった店の周囲を巡回する程度にした。夜はモンスターの活動が活発になる傾向があり、少々危険なため、とりあえず朝と昼だけにし、夜の見回りを行う場合は、控えめにキャンパスの近くだけを巡回し、少なくとも2人以上で行動するという方針で決定する。


「モンスター対応の方はこんなかんじでいいわよね。じゃあ、続いて文化祭の出し物について、何か提案のある人いる?」


会議はニーナが議長を務める形で進められ、リッチマンが書記をする。議題内容にもよるが、予算や費用など金銭面の問題を絡む場合は、皆で意見を出し合った後、ニーナが最終的に方針を決めることになっていた。


「カシワが元いた異世界についての特集記事とかどうかな?けっこう皆興味あると思うし、食いつきよさそうだと思うけど。」


リアがお茶をおかわりし、ポテトを薄切りにしてフライにした菓子を食べながら提案する。カシワのいた世界のポテトチップスとは若干異なり、火属性魔法マホビンのおかげでいつでも、揚げたてのままの美味しさを味わうことが出来る。


「いいんじゃねぇか?カシワのいた世界の、電気器具だっけ?PCとか電子レンジとか。ああいうのを記事にしてもうけると思うぜ。」


カルロスもリアの提案に賛同する。こっちは米をすりつぶして、調味料を加えて焼いた菓子を食べている。せんべいのようなものだが、中に日属性魔法サンをかけた塩が練り込んであり、天日塩の味わいが、舌に優しい。


「でも、あんまり異世界の話持ち出しすぎると、カシワが変に注目を集めて、目をつけられるんじゃないかしら?」


ランシアは少し反対みたいだ。俺のことを心配してくれるなんて優しいとこあるじゃん。


「そしたら、私の研究に支障がでるし。こんないい実験材料他に無いからね。」


・・勘違いだったようだ。やっぱりランシアはランシアだ。


「じゃあ、カシワのことは伏せて、私たちが文献などを元に調査したってことにしましょう。他に何か意見のある人いる?」


ニーナが話をまとめる。特に異論も出なかったため、俺のいた世界についての特集記事をくむ方向で会議は終了した。


「会議は終わりね。それと皆さんにひとつ発表があります。カシワこっちきてくれる?」


リアの手招きに応じて、席を立つ。


「ええ、私とカシワ付き合うことになりました。今後とも皆さん、宜しくお願いします。」


「宜しくお願いします。」


俺もリアに合わせて頭をさげる。周囲一同唖然とし、ひと呼吸置いた後、拍手が起こる。


「おお、すげぇ。やったじゃん。」


「リア、よかったね。おめでとう。」


「へぇ、カシワ、もう女の子に手を付けてたんだ。さすが変態紳士ね。」


ミワ姉の台詞だけ、最後に余計な雑音が混じってた気がするが、おそらく気のせいだろう。

俺らが付き合い始めたことと、新たにミワ姉が新入部員として加わったことを祝して、今日も権兵衛で飲むことになった。連ちゃん飲みは肝臓にも財布にもきついが、人生、楽しめるときは楽しんだ方がいいだろう。


皆で権兵衛に向かおうとしたところ、キャンパス内に告知が張り出されており、人だかりができていた。


告知:右の者、フィアー・ダークネス。我が大学の責任ある講師でありながら、ゴブリンと大ガラスを召還し、周囲に迷惑をかけたことに対し、当大学は厳正な処置ととることにし、追放処分とすることとした。


え、フィアー先生が解雇?なんで?フィアー先生は授業は厳しいが、決して無関係の人間に迷惑をかける人じゃない。闇属性魔法には怪物召還の魔法もあり、フィアー先生ならゴブリン達を配下として、召還することも技術的には可能だが、先生は闇魔法の模擬実戦を行うときも、周囲に迷惑がかからないように闘技場の周りに結界をはったり、怪我人が出たときに備えて、常に救護班を待機させたりして、生徒の身の安全を第一に考えてくれている。それに普段厳しい分、頑張って試練を乗り越えた生徒には、誠意を持って対応してくれる。


「なぁ、リッチマン、ランシア。フィアー先生がモンスター使って、周囲に迷惑なんて変じゃないか?」


リッチマンとランシアは俺と同じく闇属性魔法の講義を受けている。二人ともフィアー先生も一目置くほどの優秀な生徒で、講義でも著しい成果をあげている。


「だな。これなんか裏あるぜ。フィアー先生のとこ、行ってみようか?」


「そうね。私もフィアー先生の授業が受けられなくなるのは嫌だし。」


なんでフィアー先生が突然解雇になったのか。気になった俺とリッチマン、ランシアはフィアー先生の研究室に向かうことにし、事情を聞いてみることにした。ミワ姉の方はカルロスたちに任せて、先に権兵衛に連れてってもらう。


「あら、あなたたち。この前のレポートなら皆よく出来てたわよ。ちゃんと評価点つけとくから安心して。」


フィアー先生は告知のことなど何も無かったように、いつも通りの振る舞いをみせる。ただ、目を赤くしていた。おそらく、さっきまで一人でいたとき泣いていたのではないだろうか。


「先生、今日はレポートのことで来たんじゃありません。俺たちフィアー先生が解雇されるなんて信じられなくて。いったい、何があったんですか?」


フィアー先生はしばしの沈黙の後、やがて静かに口を開く。


「そう・・告知もう張り出されてるのね。わざわざ心配してきてくれたのかしら?私のことを気にかけてる暇があるなら、その分の時間を勉強にあてなさい。」


「先生、俺は先生のこと厳しいけど、自分にも他人にも厳しくしてるのは、それだけ研究に一途になっているからだって、思ってます。レポートの再提出や容赦ない闇魔法の模擬戦のときは、多少は嫌だったこともあるけど、先生自身のことを憎んだことはありません。もしよかったら、事情を話してくれませんか。俺らは知識も戦闘技術も全然未熟だけど、愚痴を聞くくらいならできますから。」


ランシアも俺の言葉に続ける形で、口を挟む。


「そうね。カシワの言う通りですよ、先生。もっとも私は知識も戦闘技術も超優秀だけどね。泣く子も黙るフィアー先生に涙なんて似合わないですよ。そんなキャラじゃないじゃん、先生。」


「そうですね。私もカシワやランシアのいうとおりだと思います。あ、別にランシアと違って自分を過大評価してないんで、その点はご安心を。」


「ちょっと、リッチマン。誰が過大評価ですって?私のは至って正当な自己評価よ?まったくこれだから凡人は・・」


皆それぞれ励ましの言葉・・にはなってないが、先生のことを慕っていることは確かなようで、それぞれの思いを言葉にしていく。


「ふふっ。ランシア、この場合はリッチマンが正しいわね。今の自分が完璧だなんて思っちゃ駄目よ?確かにあなたには闇魔法の才能がある。でもだからこそ奢らず、常に前進しなさい。・・ありがとう、あなたたち。私は生徒には恵まれたようね。最後にいい思い出ができたわ。」


ん?何か引っかかる・・生徒には?つまり、生徒以外の誰かとの間にトラブルがあったってことだろうか?


「先生、もしかして、他の教師と何か揉め事があったんですか?」


「ううん。教師じゃないの。そうね。あなたたちの言葉に甘えて、少しだけ愚痴らせてもらおうかしら。実はね、今度の闇魔法学会で私の論文が、取り上げられたんだけど、それが副理事長には気に入らなかったらしいの。学会では評価されたのよ。でも、ダークエルフのくせに分をわきまえろって。何が分よ?まるで、小学生じゃない。そのうえ・・いや、これ以上はやめとくわ。本当に来てくれてありがとう。さ、もうそろそろ行きなさい。」


フィアー先生は一方的に話を終わらせ、俺たちを部屋から閉め出した。しかし、またもや種族差別か。日本にいた頃は、人種差別なんてニュースで見るぐらいで、実体験としては、ほとんど無かったけど、文明の発達してない国とかはまだ根付いているみたいだし、ミスティアの世界じゃ、それこそ多種多様な種族が集まってるわけで、こうした問題もあまり珍しくない。でも、俺はもちろん、正義の味方とかじゃないけど、フィアー先生の味方ではいたい。何か俺たちでできることはないだろうか?


「なあ、リッチマン、ランシア。ミス研のテーマのひとつとして、フィアー先生の謎の解雇事情について調査してみないか?だいたいフィアー先生がゴブリンや大ガラス召還して周囲に迷惑かけるなんてありえないし。」


「カシワ。俺も今それ言おうとしてたんだ。このままじゃ、なんかしっくりこないしな。」


「そうね。私も賛成。フィアー先生の講義がこれで終わりなんて嫌だしね。」


おそらくカルロス達も賛成してくれるだろう。周囲のゴブリン、大ガラスのトラブル対応も、フィアー先生の事情が分かれば、解決の手掛かりになるかもしれない。3人で頷き合うと、とりあえずミワ姉たちと情報共有をするべく権兵衛に向かった。


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