着々と下準備
「もう、ほんっとにこの頑固爺。頭にくるわね。」
ニーナはアリシア、ジェンキンスを連れてエルドォワ王国の武器取扱所に出かけていた。ここでは平時の警備兵用の武器調達や訓練用に刃先の丸まった武器を扱っているが、緊急事態や軍事関連が絡むときは戦争に用いる武器調達全般を扱う。種類は様々で普通の剣や槍、弓から投石装置、敵国の城門を打ち破るための大型の丸太まで様々な種類のものを扱っている。ニーナはここで武器商人の主ハマーンと今後の方針について交渉している。
「だから、戦争騒動は終わったの。何度言ったらわかるのよ。いい?ここにある武器は皆今じゃ只のガラクタ。今のうちに高値で売りさばきなさい。その方があなたにとって特になるのは間違いないんだから。」
「しかしエルドォワ王から直々にお達しがあったわけじゃないからな。いざ、王から武器を渡すように頼まれたときに、売っちゃいましたじゃすまねぇんだよ。」
「エルドォワ王からの連絡なら、明日までにはくるわよ。あなたも死の武器商人とはいえ、商人である事には変わりないんでしょ?安く仕入れ高く売る。商売の大原則じゃない。」
「そんなこたぁ、駆け出しのおめぇさんに言われんでもわかっておるさ。だが、正式な取り消し依頼があるまでは、ここにある在庫処分するなんてできねぇんだよ。」
ニーナとエルドォワ王国きっての武器商人ハマーンの交渉は以前平行線をたどっている。無理も無い。ニーナの言ってる事は只のハッタリで実際にはエルドォワ王から戦争取りやめ通知などでていないのだから。だが、ここでエルドォワから武器をなくす事は間違いなく戦争回避のための大きな一手となる。ここで負けるわけにはいかない。ニーナの中に商売人としての闘争心がわき上がる。
「じゃあ、こうしましょ。今なら私がその武器を引き取るわ。もちろん高値で買うわよ。そして、もし王から万が一、戦争があって武器がいるってことになったら、そっくりそのまま所有している武器をお渡しするわ。格安でね。どう?戦争が起きれば、あなたはメンツを保って王に武器を渡せる。戦争が起きなければあなたは今のうちに不要となる武器を売りさばいておく事ができる。どちらにしてもあなたに損はないわよ。」
「引き取るっておめぇ。ここにある武器全部かよ?相当な高額になるぞ。おめぇさんにそんな金額用意できんのか?」
「あまくみないでくれる?私はこう見えてもエルドォワにニーナありと周囲からも一目おかれるほどの商売人なのよ。コネも相当数ある。その気になれば、武器どころかこの国そのものを買える金だって用意してみせるわよ。」
もちろん大嘘だ。ニーナにそんな力はない。だが、ニーナは押すべきは押し、引くべきは引くという商売の鉄則を誰よりも理解し、それを行動に移せる力を持っている。そのニーナの直感が告げていた。ここはハッタリ上等で押しまくれと。万が一嘘がばれたとしても、それはそれで乗り切る自信がある。今まで、何度も商売をするうえで不利な状況を乗り越えてきた経験があった。
「へぇ言うじゃねえか。嬢ちゃん。大したもんだ、気に入ったぜ。よし、おめぇの案のってやろうじゃねぇか。ここにある武器はおめぇのもんだ。金は1週間待ってやる。当然だが、用意できなかったら、武器は返してもらうぞ。」
「あら、ようやく話のわかる賢いご仁になってくれたみたいね。賢明な判断よ。得したわね。”もし戦争が起こったなら”返してあげるわよ。それまではこちらで預からせてもらうわよ。いいわね?」
「ああ、好きにしな。じゃあ俺はもういくぜ。約束忘れんなよ。」
武器商人ハマーンが去った後、ニーナは無事交渉を終えた充足感に身を悶える。
「はぁ、怖かったぁ・・私確かに商人だけど、戦争関係の商売なんてしたことないもの。
我ながらハッタリの連続でよく乗り切れたものだわ。今日は自分をうんと褒めて、甘いものいっぱい食べなくちゃ。」
アリシアとジェンキンスがニーナのこれまでの言動がハッタリだったと聞き、心底驚く。
「え、ニーナさん、今までの啖呵、あれ全部アドリブだったの?すごすぎでしょ・・」
「まったくだ。大した学生もいたものだ。あの迫力とても素人とは思えん・・」
ニーナは二人から感心されるが、全然意に介した様子はなかった。
「別に戦争関係の取引が未経験ってだけで、商売ごとなら今まで何度も経験してるわよ。まぁでも今回は結果オーライってとこね。これで1週間はエルドォワ王が戦争を開始しても、すぐに武器を用意するって行動を阻害する事ができるわ。武器が無ければ、相手に攻め入る事はできないものね。しかし、私に武器商人と交渉しろだなんて、ランシアも随分高い注文してくるのね。」
アリシアがそんなニーナの発言を聞いて、しみじみとつぶやく。
「それだけ信頼されてるのね。あなたたちの関係が少し羨ましいわ。私は魔獣使いの仕事、ずっと一人でやってきたから、そんな風に仕事で分かり合える相手なんていなかったの。それでもジェンキンスにはずっと助けられてたんだけどね。」
「アリシア・・俺は魔獣使いの仕事は出来ないが、お前の側にいることは出来る。それじゃダメなのか?」
「ジェンキンス・・」
ニーナが二人の世界に入ったアリシアとジェンキンスをみて柏手を一回打つ。
「はい、そこまで。こんなときにイチャイチャしない。最近は部室でもカシワとリアの仲を見てストレス溜まってんだから。全く、こんないい女を差し置いて何で皆、勝手に彼氏作ってんのよ。私も素敵な彼氏欲しいっての。」
二人を見て、言いたい愚痴をいうと、ニーナは目の前にある武器の束を見下ろす。
「さてと、こいつを片付けなきゃね。ジェンキンス、あなたは力はある方かしら?」
「ああ、大道芸ってのは体力勝負だからな。普段からみっちり鍛えてる。それに助手達にも手伝わせるからな。力仕事なら任せてくれ。」
「そう、好都合ね。じゃあ、こっちの重たい砲台とかは御願いするわ。アリシア、悪いんだけど牛とか馬とかに近い魔獣を召還させることってできるかしら?」
「ええ、問題ありません。それに近い魔獣じゃなくて、牛や馬そのものを操る事も出来ます。」
「へぇ。やっぱり便利な能力よねぇ。じゃ、ここにある武器はロープで束ねて馬に運ばせましょうよ。やってくれる?」
「任せてください。私でお役に立てるのでしたら何でもやらせていただきます。」
日雇いの労働者も何名か雇い、各自力を合わせて購入した武器類を整理していく。後でリッチマンかランシアに小型化の魔法で小さくしてもらえれば、全てひとくくりにしてダンボールに入れてミス研の部室の脇にでも置いておけるだろう。武器商人ハマーンには戦争が始まったら返すと約束してあるが、いつ返すかは明言していない。万が一ランシアの策が失敗し、エルドォワ王が戦争を起こすはこびになったとしても、武器を預けている倉庫から取り出し、王の元に持ってくるのに、諸手続きがいるとでもとぼければ数日は時間稼ぎできるだろう。
「さて、カルロスの出てる武術大会もそろそろ決勝に差し掛かる頃かしらね。もう少しだけ整理したら、私たちも行きましょうか。アリシア、準備はいいかしら?作戦を考えたのはランシアだけど、それを成功に導けるかどうかはあなたの演技にかかってるわよ。って、余計な緊張させちゃまずいわね。今のは忘れて。」
ニーナは残りの整理作業について指示を出すと、自分自身もこれからのエルドォワ王とのやりとりを前に緊張していることに気づき、大きく深呼吸を繰り返した。
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武術大会決勝戦の会場は大勢の観客が詰め寄り、祭りの中でも最高潮の盛り上がりをみせていた。各飲食店は商売のチャンスを見いだして臨時の売り子をだし、麦酒やおにぎり、サンドイッチなどの販売を行っていた。どれも瞬く間に完売となる。カシワやミワはその様子を見て、満腹亭が材料切れになっているのを今更ながらに悔いた。だが、今はカルロスの応援に集中しよう、思い直して試合会場に向き直る。
さすがに強いな・・カルロスは目の前の敵の攻撃をかわすのに精一杯で先ほどから、防御に徹している。間をとってひと呼吸おこうにも、すぐに詰め寄られ、かといって近づいて攻撃を加えれば、寸前でかわされ、カウンターを仕掛けてくる。打撃、絞め技、投げ技、間接攻撃、どれをとっても相手の方が一枚上手だった。カルロスの中に焦りが生じてくる。出来ればランシアの策も実行したかったが、すでにあきらめかけていた。呼吸がどんどん乱れてくる。だが、相手の方は常に冷静で、汗一つかいていない。
「大変な盛り上がりを見せております武術大会、決勝戦。カルロス先ほどから劣勢です。しかしそれも無理ないでしょう。相手はこれまで数々の武勇伝を残してきた伝説の騎士オーディーン。一説によると、赤子を抱えながら千人の兵士を相手に無事脱出成功したとか、圧倒的不利な負け戦を彼一人の力で巻き返したなど数々の逸話を残している英雄です。一昔前の勇者と魔王との戦いでも莫大な戦果をあげたとか。本来ならこのような祭りに参加していただけるだけでも、大変な事態です。彼になら負けても恥にはなりません。むしろ、彼と戦ったというだけで十分にハクがつくことでしょう。この大会では武器の使用は禁止してありますが、歴戦の英雄は素手でもやはり相当強い。カルロスここからどうするのか?」
耳障りな実況が聞こえてくる。ここからどうするのかだって?こっちが聞きてぇよ。なんでこんなやつがただの街の祭りに参加してんだよ。反則だろうが。せめてもの幸いはこいつとあたったのが決勝だったってことだ。もし予選であたってたら、その時点で負けになってただろう。そしたらランシアの策も何もない。王へのお目通りも出来なかっただろう。さすがのランシアもこんなやつの登場までは読み切れなかったって事だろうな。まぁ当たり前か。伝説の英雄様が街の祭りに参加するなんて、誰も思わねぇよな。
カルロスが迷っている間にオーディーンはカルロスの目の前にたち、ボディーブローを加える。オーディーンにしてみれば相当手加減しているのだろうが、カルロスにとっては重たい石材を建物の3階くらいから腹の上に落とされたような感覚だ。気を抜くと嘔吐しそうになる。だが、カルロスはそれでも踏ん張り、近づいてきたオーディーンの顔面目がけて拳を振り上げる。オーディーンはその拳を紙一重で避けると、カルロスの頭上から肘打ちを喰らわせる。衝撃を受けて二つ折りになったカルロスの腹部に止めの膝打ちを叩き込み、カルロスはその場に倒れた。
「・・エイト、ナイン、テン。カルロス立てません。勝者オーディーン。栄えある武術大会の優勝者はオーディーンに決まりました!!オーディーンには本大会から記念トロフィーと優勝賞金として金貨5枚が送られます。皆さん盛大な拍手を御願いします。」
観客が全員席を立ち上がり、オーディーンに向かって惜しみない拍手を送る。オーディーンは片手をあげて、それを制し、カルロスの元に近づく。
「ナイスファイトだ青年。最初は正直一瞬で決着が着くと思ってたんだが、15分以上も粘ったんだ。ガッツあるぜ、お前。どうだ?お前さえ良ければ、俺が直々に鍛えてやろうか?」
伝説の英雄オーディーンに弟子入りできる・・武術に少しでも心得のあるものならば、それは誰もが憧れる最高の境地だ。カルロスの中にも喜びがあふれてくる。試合で負けてしまった悔しさやランシアのもう一つの策を実行できなかった思いなど、既に吹き飛んでいた。
「まじかよ・・ぜひ、お願いするぜ。って言いてぇとこなんだが、実はこれからやらなきゃいけねぇことがあるんだ。もし、あんたがそれまで待っててくれるんなら、いや、待っててほしい。頼む。俺を鍛えてくれ。」
オーディーンは何も言わずカルロスの背中を強く平手打ちする。カルロスがオーディーンの顔を見上げると、ゆっくり告げる。
「俺はしばらくこの街の冒険者ギルドに登録して仕事するつもりだ。王都からも直属の騎士に誘われたんだがな。俺は国王とか貴族ってやつが元々好きじゃねぇんだ。おまえのやらなきゃいけねぇ事っていうのが終わったら、ギルドかこの宿に来な。俺が当分の間、宿泊する宿だ。」
カルロスはオーディーンから宿の場所を教えてもらい、礼を言って、カシワたちの待つ控え室に戻る。
「おつかれさん、カルロス。まさか、英雄オーディーンが出場するとはなぁ。大丈夫か?一人で歩いて控え室に戻って来れるんだから、そんな大怪我はおってないと思うが。」
控え室に入るとカシワが労いの言葉をかけ、タオルと水を渡してくれた。カルロスは一気に水を飲み干す。
「ああ、怪我はそんな大した事はねぇよ。試合は完敗だったけどな。ミワかリア、どっちでもいいから、とりあえず治療頼むわ。今回はエロとか抜きにして、まじで治療してくれ。」
「今回はエロって・・今まで一度もそんなことなかったでしょ?もちろん、今後も無いわよ。まったく・・ほら、傷を見せなさい。」
ミワ姉がカルロスの患部に手をふれ、癒しの魔法を唱える。ミワ姉の手の触れた部分のカルロスの傷がすぐに癒えていく。
「おお、すげぇな。どんどん治っていくじゃねぇか。手に触れた部分が治るのか。そうだ、俺のあそこも・・」
最後まで言い終わる前にミワ姉がカルロスの横っ面をひっぱたく。
「さ、閉会式が始まるわよ。この大会の上位8名まで閉会式が終わった後、付き添いを連れるのは自由で、王に直々にお目通りがかなうらしいから、準々決勝まで参加できてれば、ランシアからの要求は一応最低限の部分は満たせてたのよね。カシワ、リア、それと変態、そろそろ行くわよ。」
武術大会は無事幕を下ろし、いよいよ、エルドォワ王に会いにいく。ここからが本当の勝負だ。緊張してきた・・今のうちにトイレ行っておこう。準備が整った後、俺たちはエルドォワの王城へと足を踏み入れた。




