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私のセフレが自殺した。  作者: 夏野恵


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第6話 ひとりでする頻度が一気に増えた。

葬儀が終わって数日が経過した。


今は自分の部屋で講義で出た課題を片付けているところ。


冬月くんが死んでから変わったこと、というのはそこまで多くない。

元々、彼とは一週間に一回会うかどうかだったからだ。


ただ一つだけ、大きく変わったことと言えば—


「はぁー……」


ノートパソコンから顔を外し、浴室からバスタオルを持ってきた。


ベッドにそれを敷いてから寝転がる。


汚れないように位置を固定させてから、自分の身体を触り始めた。


「……んっ」


隣人もいるので、なるべく声を出さないように注意する必要がある。

下着が汚れる前に脱いで、ただ触り続けた。


「……あっ、あっ」


だんだん気持ち良くなってきて、手を動かすスピードが速くなる。


ぴちゃぴちゃ、という音が部屋の中で空しく響いた。


しばらくすると中がきゅっと締まり、指を動かすスピードが遅くなる。


「はぁー」


指を抜いて、白っぽい液体をバスタオルで拭いた。


そのタオルを洗濯機まで持っていって放り込む。


裸のまま冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出した。


「……マジで何なんだろ」


ぼそっと呟いて、冷えたミネラルウォーターに口を付ける。

異物感のある冷たい液体が、身体の中に降りていくのを感じた。


「課題終わらせないと」


ベッドのそばに脱いだ下着を再び手に取って、ノートパソコンの前に再び座る。



冬月くんが死んで大きく変わったこと。

それは、ひとりでする頻度が一気に増えたことだ。


言葉を選ばずに言えば、性欲の高まる頻度が増えた。


特に電車に乗ったとき。


電車に乗ることはバイトに行く時か冬月くんの家に行くときしかなかった。


だからバイトに行くために電車に乗ると、冬月くんとのセックスを思い出して、性欲を感じてしまう。


バイトから帰って、シャワーも浴びる前にすることが多い。



しかしひとりでやっても、全く満たされなかった。



「チッ……」


舌打ちの音はすぐ部屋の中に吸い込まれていく。


ひとりでした後に湧いてくる感情は、冬月くんに対する怒りしかない。


私たちは利害が一致したから、高校生の頃からセフレとして関わっていたはず。


それは大学に入っても変わらない。


どっちかが会いたい日を言って、相手の予定を聞く。

言い出した方は相手の家に行く。

用が済んだら帰る。


ただそれの繰り返しだった。


でもそれでよかったはずだ。


だって私たちは「セフレ」だったのだから。


「セフレ」はセックスフレンドの略。


だから私は冬月くんのセフレとして振舞ったし、

冬月くんには私のセフレとして振舞うように求めた。


なのに冬月くんは自殺して、約束を一方的に破った。


性欲の解消が難しくなったから、自殺したことが本当に許せなかった。


「だっる……」


首を一周回してから、真面目に課題の作成に取り掛かった。



「はぁーやっと終わった」


課題を提出し、提出されたことを大学のポータルで確認して椅子から立ち上がる。


今日はシフトも入っていないので、本当にやることが無かった。


ソファに横になってスマホの電源を入れる。


ぼーっとSNSを眺めていたが、ふと思い立ってネットショッピングサイトを開く。


「なんか良い感じのあるのかな」


そう呟きながら調べたのは、女性用のおもちゃ。


「ふーん」


適当にスクロールして、興味の湧いたものを何個か見てみる。


「一旦、コレで良いか」


使用感などをレビューで確認してから、評価が高いものを購入した。

明日には届くとのことなので、少しわくわくしながらその日は過ごした。



翌日の大学。



「あれ、春宮さんって次のコマ取ってなかったっけ?」


講義が終わり、荷物をまとめてから席を立った。

そのとき、いつも隣の席に座っている女の子に声をかけられた。


「そうなんだけどさ、今日はちょっと予定があるから」


「おもちゃが届くから」とは流石に言えない。


「ふーん、じゃあまたね!」


次の講義でなんか重要そうなのあったら後で送るから、という彼女の申し出に頭を下げて、私は講義室を後にした。



家に帰ると、ポストの中に小さめの段ボール箱が入っていた。

それをすぐに鞄の中に入れて、エレベーターに乗り込む。


少し上を見ながら、エレベーターが自分の階に到着するのを待った。


到着すると同じ年齢くらいの男の人と入れ違いになった。

軽く会釈をしてエレベーターから降りる。


自分がおもちゃを持っていることがバレたらどうなるんだろう、みたいな緊張を少し感じたが、そんなことは起きず、普通に鍵を開けて自分の部屋に入った。


「はぁー」


鞄を置いてエアコンを付けてから、冷蔵庫にあるペットボトルの水を飲んだ。

さっきまで外にいたからか、とても美味しく感じる。


視線の先にあるのは、鞄の中にある段ボール箱。


ペットボトルのキャップを締めて軽く伸びをしてから、私はその段ボール箱を取り出した。


ハサミでガムテープを切ると、おもちゃの入った箱が出てきた。

ドライヤーとかを買ったときについてくる長方形の箱みたいだった。


性欲を煽るような文言もちらちら見えるが、ぱっと見は普通って感じ。


その箱を開くと、薄いビニール袋の中にそれは入っていた。


「へーこんな感じなんだ」


ショッピングサイトにあった画像のまんまのおもちゃ。


取扱説明書を簡単に読んでから、電源ボタンを押してみる。


ブブブ、と音を立てて動き始めた。

振動の強さも調整できるらしい。


「すぐに使えそうだな」


『充電が必要』と書かれていたが最初から使えるようになっているみたいだ。


そのため、さっそく使ってみることにした。



バスタオルを持ってきてベッドに敷いてから、身体を触って軽く濡らす。


おもちゃを擦りつけてある程度湿らせてから、それをゆっくり中に入れてみる。


まずは一番弱い振動で試してみることにした。


「んっ……」


すぐに電源を止める。


一番弱い振動でも、かなり強い。


振動の無い状態で軽く動かしてから、もう一度電源を入れてみた。


「あーこういう感じか」


中で動いているのを感じながら腰を浮かせ、バスタオルの位置を少しだけずらす。


その後は少しずつ振動をあげて、そのおもちゃを使い続けた。



「……なんか、あんまだったな」


バスタオルを洗濯機の中に入れて、洗面台で手とおもちゃを洗いながら呟く。


確かに気持ちよかった。


いつもみたいに手でするよりは遥かに良いと思う。


でも絶対、セックスのほうが良い。


セックスにしかない、人の重量感みたいなものがこのおもちゃには欠けていた。


「もう、なんで自殺したわけ?」


舌打ちをしてから、深い溜め息を吐く。


全て冬月くんのせいだ。


冬月くんが自殺さえしなければ、私はこんなことになっていなかった。

せっかく今の関係に満足してたのに、勝手に自殺したせいで私が困っているのだ。


「……マジで死ね」


すでに死んだ人間に言うことではないと思うが、思わず口にしてしまった。


リビングに戻ると、まだ大学にいるであろう女の子から連絡が来ていた。



『明日、一緒に飲みに行かない?』



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