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ある日の風景

「おはようございます」


そう言って、俺が部屋に入ったらいつもの風景…じゃなかった…

普段は、アンジェラとアルパが喧嘩をして部屋が荒れ放題だったのに…今日はなぜか…


「部屋がきれいだ!」


そんな普通なら当たり前の事を大声で言ってしまうほどに、あの荒れた風景が日常的になっている…

今の大声で気がつかない方がおかしいのだが、エルがこちらに気がついてふよふよと飛びながらこっちにやってきた。


「功さん、おはようございます。今日は人妖組が休みだから綺麗なんですよ」


そう言って、エルは満面の笑顔をこちらに向けてくれた。

…それだけ、あの荒れた風景が当たり前の風景となっているのだから俺もエルも別の意味で重傷なんだなぁ、と思う。


「なるほどね、じゃあ今日は全部事務仕事ってことか。」


「そうよ…といっても功にはあの子達の訓練データとかを所長に出してきてもらわなければいけないからまとめ終えたら提出しに行きましょう。」


俺の背後から、荒れた風景の作成者の一人であるアンジェラがやってきた。


「アンジェラか、おはよう。」


アンジェラもおはようございますと返し、書類の束をドサッと机の上に置き、自分の肩をトントンと叩いている。


「それって他の人妖のデータですよね?全部データバンクに入っているから言ってくれれば出しましたのに。」


「私も最初はそうしてもらおうと思ったんだけど、データバンクには失敗例が小さい事しか書かれていないから、こうした書類の方がいいのよ。」


俺もエルもアンジェラの言い分になるほどと二人して呆け顔で頷いてしまった。

そして、誰が言うわけでもなく俺達はデータのまとめという仕事を始めた。


「一応、訓練データはこんな感じかな?アンジェラ、目を通してくれ。」


アンジェラは、了解と言い俺から資料を受取り目を通し始めた。


「問題ないと思います。良いように書こうとしても書けない点の部分だから仕方ないですけどね。」


「そう思うならアルパとの喧嘩をやめてください」


とエルと二人で声を合わせて言ってしまった。


「無理な話ね、あの子とは永遠に気が合う事はない、なぜならお互いにスタイルで譲れないから!」


アンジェラは椅子に片足をのせ、拳をグーにして天に上げ熱弁しているが

なんで、女性ってここまでスタイルについて貪欲なのだろうか…


「功さん、女性にとってスタイルに敏感すぎるのですよ。私は電子体だから増えることも減ることもないですけどね。」


そう言うもんなのかねぇ…男からしたら、多少変化しても好きな人はずっと好きだし、増えたからと言って友達づきあいを変える気もないんだけどね…

上の方に変化したから嫌いになるっていうなら好きじゃないのに好きだと思い込んでるのだろうと俺は思う。


「あの~功さん?多分、あなたが考えてる事もそうですけど別の部位でもあるのですよ?」


俺は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべて考えたが分からなかった。そんな俺を見てアンジェラは…


「鈍感…もとい気づきなさいよ…」

とボソッと言っていた。


「エル、所長は今どこに居るか分かるか?」


俺はアンジェラの呟きに聞こえないふりをして、エルに所長の居場所を調べてもらった。


「所長なら部屋にいますね。届にいくのですか?」


届けに行かないと怒られるからね。と返事をして書類を持ち行ってくると二人に伝え部屋を出た。


「…あの人って鈍感なのか敏感なのかわからないわね。あの人の言うことはあたっているのかね?」


「どうでしょうか?私としてはいい加減電子体じゃなくて本体に戻りたいなぁ。」


「今回で終われば戻れるでしょ…功さんが頑張ればね…今のところ他と違う事が起きていないけど…何回目なのかしらね、私達のやり取りも。」


「8回目まで数えていたけどそこから先はめんどくさくて数えるのをやめましたよ。」

部屋の中には二人の乾いた笑いが響いた。


「へっくしょい!」


所長室に向かって歩いている時に、ふと寒気がしてくしゃみまでしてしまった…

これは誰かが俺の噂をしてるんだろうなぁ…

そんな事を考えているとT字路にかかり、曲がることはないのだが横の方から聞きなれた

元気いっぱいの声が俺にむかってきた。


「はーかーせー!おはよー!」


そう言いながら、俺に抱きついてくる…


「こら、ニコラ…重くないけど重い!」


そう言った瞬間、俺の体に電気が走った…


「博士でも言っていい事と悪い事がある!女の子にそう言った事言うと博士嫌われるよ!?」


…女の子がそう言う風に沢山の人がいる中でそんな大声で言っていいのだろうかという疑問があるが、突っ込まない事にしよう。

そんなことを考えていると袖をクイクイと引っ張られているのに気が付く。


「博士…おはようございます。」


「おはよう、飛鳥。」


性格が真反対なのに仲がいい二人だけど…休みも一緒に居るとは思わなかった。


「博士は、どっかいくの?」


「ん?あぁ、所長室にまでデータの提出しに行くところだけど二人も来るか?」


そう言った瞬間、飛鳥は表情を変えなかったけどニコラはあからさまに嫌な顔をした。


「ボク、あの人苦手だから遠慮しとくよ。それに今から飛鳥と一緒に喫茶店に行ってお茶するんだ。」


楽しそうな笑顔を向けてニコラは俺に説明してくれて、飛鳥の方をみると飛鳥自身もうれしそうな笑顔をしていた。


「そっか、じゃあ楽しめという言い方は変だけど楽しんでこいよ。」


俺がそう言うと、二人は「うん」と言って俺のきた道の方へ歩いて行った。

そんな二人を見送ったあと、所長室に向かって再び歩き始めた。

ここに来てから約4か月、報告書の提出は月に一回のためここに来るのは5回目なのだが、変な威圧感と寒気が凄いため未だに慣れない…あのアンジェラでもここは避けたいと言うぐらいなのだから…


「失礼します」


部屋に入った瞬間、腐敗臭を感じたが気のせいだったのかいきなり臭いが消えていた。


「いらっしゃい、今月のデータね。さっそく見させてもらいます。」


そういうと、所長は目を通し始め、読み終えてから何かを考えている。


「訓練や模擬戦闘のデータについてはわかったのですが…代金がなんでこんなにかかっているの?」


やっぱり、代金の事について突っ込んできたか。


「えっと…実はアルパとアンジェラが派手に暴れているので、物の破損がひどいんです。」


俺の言葉を聞いた瞬間、所長は驚いた顔をしたあと、まさかねとだけ呟いた。


「わかりました。研究費から立て替えてるようなので、研究費の方に代金を振り込んどきます。あと、次からはこちらに請求してください。あとは…他に変わったことはありますか?」


俺はいいえと伝え部屋から出て行った。

はやく、一息つけたい…報告書の提を終えてから初めて思う感覚だった。

今までにないほどに寒気…ちがう、あれは寒気では無く部屋事態が凄い寒さだった。

今後の事について考えていて、気がついたら自分の担当の部屋についていた。


「ただいま」


そして、扉を開けた先には…日常の風景が広がっていた。

部屋の隅でエルと飛鳥、ニコラがお互いに抱きしめ合って震えていて…

部屋の真ん中ではアンジェラとアルパが盛大に喧嘩をしていた…

俺は、あまりにも見慣れた光景をみて先ほどまでに考えていた疑問や所長室で感じた不安感が消えていた…あの二人がいると、これからの事を考える余裕がないのか、それとも目先に問題がありすぎるからなのか、よく分からないな…

ただ一つ言えることは、前の処理場で働いていた時より充実しているということは言える。

俺は震えている三人を手招きして、喧嘩が終わるまで別の処でまったりとしていようと思う。


これも日常的な風景で、特別な風景でもないのだから。

これからの事は夜の一人の時に考えればいい、今はこの子達の事を見守っていくか…


「博士…なんか嬉しい事でもあったの?」


飛鳥が袖をひっぱって質問をしていた。


「そんな顔してるか?」


俺は質問返しになってしまうが聞いてみたら3人とも良い笑顔で頷いてきた。


「まぁ、嬉しいのかな?この日常風景を見ることができるのが」


俺の言葉に皆は賛同してくれた。


「今日は、みんなの昼飯おごってあげよう。」


そう言った瞬間、みんなが声を出して喜んでいた。


「でも、明日からもがんばるんだぞ」


とだけ付け加えたが誰も聞いていなかった…まぁ、いいかという気持ちになったが…約二名を除いた全員でお昼ご飯を食べて、いつもの日常をすごした。


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