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第四十九話:三度目は存在しない



 ユリアーヌ達の世界に戻り、魔力スポットにブロックを施す。その間、変態は後ろに控えていた。

 念の為に何度も確認はしたが、変態に言われても嬉しくない事に、絶対に私から離れないと決め顔で宣言してきたので、説得は諦めた。

 最悪、元の世界に戻りたくなった場合はブロックを解除すれば可能ではあるけれども、それを伝えたら余計にひっついてきそうだなと思って言わなかったけれど、言っても言わなくても、結果は変わらなかったのかもしれない。


 ブロックを施した後に軽く魔王城に寄って報告をし、王城に戻る。

 部屋に入る私の後に続いて、平然とした顔で変態が続く。

「ちょっと、どこまで付いてくるのよ」

「私は、マリネ様の傍を離れないと決めたのです」

「怒るわよ」

「では是非、私を踏みつけて頂いて」

「変態って面倒くさい……」

 怒ると言えば、晴れやかな笑顔で地面に額をこすりつける勢いで平伏する。猶更怒りのボルテージが上がるが、それでは変態の思うツボである。


 どうやったら変態を喜ばさない様にお仕置きできるのだろうと、割と真剣に悩んでいると、不意に部屋の扉が叩かれた。今は侍女さんも居ないので、返事をしながら扉を開く。

 扉の先には、ユリアーヌが気まずそうな顔をして立っていた。そのお綺麗な顔には、すでに私の放った強烈な掌の後は残っていない。治癒魔法で治したのだろう。

「ちょっと待って」

 私はそう言うと、一度部屋の扉を閉めて、未だに床に平伏している変態の襟首をひっつかんで、窓から外に放り投げた。入って来れない様に、窓に結界を張る事も忘れない。

「お待たせ。どうぞ」

 そう言って、扉を開けてユリアーヌを招き入れる。その後はこちらにも外からは入れないよう、結界を張る。

 部屋の中央で立ち止まったユリアーヌは、ちらりとこちらを伺うと、深く頭を下げた。

「マリネ、その、すまなかった」

「別に、気にしてないから」

 意識してあっけらかんと伝える。私は謝罪をして欲しい訳ではないので、この話は早々に切り上げたい。

「それよりも、他に言いたい事があるんじゃなくて?」

 腰に手を当て仁王立ちでユリアーヌを見やる。ユリアーヌはあーとかうーとか唸りながら、忙しなく視線を彷徨わせる。

 威圧感が足りないのかと一歩近づけば、ユリアーヌが一歩下がる。さらに私が一歩詰めれば、やっぱり一歩下がる。

 その問答を何度か繰り返せば、いくら広い部屋といえどもいずれは壁際に追い込ままれるのは当たり前だ。

 背中が壁にぶつかって、初めてその可能性に思い至ったのか、ユリアーヌが慌てた顔で背後を振り返る。その眼前スレスレを狙って遠し、勢いよく掌を壁に押し当てる。壁ドンが完成した。

 身長はユリアーヌの方が大きい為見上げる形にはなるが、精神的には完全に上回っている自信がある。

 瞳を潤ませながらこちらを見てくるユリアーヌに、内心で舌打ちした。

「……何もないなら、用事も片づけたし、私も帰るから」

「それは……」

「何よ」

 ユリアーヌの瞳の中に映る私の表情は、かなり険しい。その自分の姿と、まっすぐに見つめあう。ユリアーヌは、整った顔を歪めた。

「分かっているの、だろう。私が言おうとしている事を。そして、それが君の一生を左右してしまう事も」

「なんの事だか、分からないわね」

 突き離す言葉に、ユリアーヌは苦し気に眉根を寄せて、それから唐突に強張っていた身体から力を抜く。険しい表情の私が映っていた瞳を閉じて、気を落ち着ける為にか、吐き出された長い吐息が頬の横を通っていった。

 それからゆっくりと両目を開き、私をまっすぐに見据える。


「君が好きだ。だから、帰らないで欲しい」

「分かった、帰らない」

「こんな事を言うのは君を苦しめると分かって――え?」


 ぽかんと、間抜けに口を開けて固まるユリアーヌを見て、その瞳に映る私の顔に、ゆるゆると笑みが浮かんでいく。

「私も、ユリアが好きよ」

 壁ドンの手を外して、そっとその身体に抱き着く。意外と鍛えられた身体に顔をうずめて、悪戯が成功した子供のように笑った。服越しに、ユリアーヌの困惑が伝わってくる。

「で、でもっ! あちらの世界には君の家族や友人が――」

「私、親子の縁薄いのよ。友達も、大友君達が居るけれど、気になっていた千羽さんの恋路も見届けられたし、あの二人なら心配いらないだろうから」

 反対していた河野君も、何だかんだで結局認めるだろう。

 家族はもはや、顔を合わせる事すら珍しいという親子だ。元々破綻しているので気にする必要は無い。

 そういう事をやんわりと伝えれば、ユリアーヌの腕がおずおずと私の背に回される。ユリアーヌの髪が、首筋に当たってくすぐったい。

「無理やり呼び出して、その上さらに残って欲しいなんて、私がそんな事言える訳がないと、すっごく悩んだんだ」

「ユリアらしいわね。まぁ、そういう所ひっくるめて、正直全部分かっていたんだけど、言って欲しかったから」

 言葉にしなくとも伝わる気持ちというのは、あるのだろう。

 だけれども、言葉にして伝えてもらわなければ、正解かどうかの確認をする術が無い。

「意地が悪い……」

「知らなかった? 私、性格悪いのよ?」

 嫌いになった? と首を傾げて訪ねれば、ユリアーヌは顔を掌で覆って「そう言う所が意地悪なんだよ」と言った後に、ぼそりと「でもそんな君も好きだ」と言った。



      *



 クリオの花びらが、街を舞う。

 あちらこちらで、結婚を祝福する祝いの言葉と賑やかな楽隊の演奏が、微かに耳に届く。

 アレキスに聞いた話だが、クリオの花は告白や結婚式に使う、祝いの花らしい。

 千羽さんはその話を知っていたのだろうか。この世界では、告白にクリオの花は付き物だそうだ。

 そんな、異世界人ながら最高にロマンチックな告白をした千羽さんに対して、残念な人を見上げる。私の隣に立つユリアーヌは、若干緊張に顔を強張らせながら、この後の口上をぶつぶつと呟いていて、私の視線には気付かない。

「ま、そういう所がユリアらしい」

 白い手袋に包まれた指を、ユリアーヌの指に絡める。気付いたユリアーヌが、私を見てふっと表情を和らげた。



 二度ある事は三度ある、ということわざもあるが、この世界に残るのだから、三度目は永遠に来ないだろう。



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