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第三十一話 防の記録

最初に膝を突いたのは、石垣の射手ではなかった。


下級生の列の端で、桶を抱えたままの少年が砂に手をつく。ついた手に水はない。ないまま、ミレイユが医箱から布だけを出して額を押さえる。押さえた布は乾いている。乾いた布が、防の限界の最初の印になる。


「倒れた」短い報告。「水はない。ないまま、日陰へ移す。移した先でも、時間は稼げるだけだ」


稼げるだけ。セレナが防衛卿の机に置いた紙を、書記が番号のないまま写す。写す内容は、緊急の継続と、川床の埋没と、水位ゼロと、袋の切れだ。切れたあとに本印はない。ない一行が、防の記録の核になる。


「影は動いていない」トオルが川床の縁で言った。言う声が、渇きで薄い。「四脚とも土の中。尾の振幅は、さらに小さい。小さい揺れは、力を貯めている予兆には見えない。見えないあいだ、固定は持っている」


持っている。リリアは細身を下ろしたまま、影の正面から外れていない。外れていない旗の胴衣が、塩と砂で白く硬い。硬い背中を、動けない成体がまだ睨んでいる。睨んでいる限り、旗は標的のまま鎖になっている。鎖を、彼女は渇いた喉で支えた。


「記録せよ」号令がかすれる。「斬り殺してはいない。していない影を、空の犯人にしない。しない根拠を、棚の紙と同じ番号で残せ」


残せ。キリカが柱の陰から、焼印の写しを一枚だけ差し出した。差し出した紙が、物証の十二枚目の隣で、誘導の線の要約になる。要約に、名前はない。ない紙を、セレナが防の記録の末尾へ綴じる。


門の外で、外套の男が口を開いた。開いた声が、閉じた門の厚みを越えて届く。


「袋が切れた。切れた内側で、影はまだ生きている。生きている影を、防の結果と呼ぶなら、結果のあとに水を置け。置く印は、下書きの延長で足りる」


足りる、をクラッドが中庭から拾った。香水はほぼ消えている。消えた口が、右隣のつもりで塩の旗を見る。見る旗に、水の光はない。ない乾きを、彼は慈悲の最後の翻訳へ載せる。


「記録を閉じれば、閉じた学院は影より先に乾く。乾く前に本印を出せ。出せば、外の車が門を開ける。開ける水は、戦争ではない」


「出さない」防衛卿の声が、扉の内側から落ちた。「防の記録は残す。残した記録に、本印は重ねない。重ねないあいだ、外の水は外の在庫だ。在庫を、緊急の所管は受け取らない」


受け取らない。空白が、倒れた少年のあとも本契約を拒む。拒んだ空白の下で、アリアが槍を土に突いたまま報告する。赤髪が粉で白く、Sweat の代わりに乾きだけが残っている。


「影は抜いていない。抜いていない。臭いも薄い。薄いなら、石垣はまだ持つ。持つあいだに、倒れる者を裏へ回せ。回した人数を、帳面へ」


帳面。倒れた数が、二、三と増える。増えた数字を、トオルは空の袋の横に並べない。並べない代わりに、影の埋没深さを指で追う。追った土が、黒い滲みの周りで固まり始めている。固まり始めた傷が、抜け出しの力をさらに削る。削られた影が、水なしの固定を、まだ破っていない。


リリアが半歩だけ、影の鼻の軸からずれた。ずれた位置でも、金髪の塩が旗の形を残す。残した旗を、成体の目が追いきれない。追いきれないあいだが、記録を閉じるための幅だった。幅の中で、彼女は剣の届く距離にトオルを見た。見た目が、嫌いだ、の熱を渇きの奥に残している。


「袋は切れた。切れたあとも、影はここにいる。ここにいるあいだ、第一の山は終わらない。終わらせるのは、斬り殺しではない。ではない記録を、空白の横に置け。置いた記録が、机の慈悲を門の外に残す」


残す。神官正が空の縁で手を合わせる。合わせた手の下で、円筒は底の殻のまま。殻を、彼は試しの終わりに近いと呼びかける。呼びかけを、防の記録は水位ゼロと埋没と、本印なしの三行で否定し続ける。否定した紙の上で、誰も魔王とは呼ばない。呼ばない沈黙が、倒れた喉と、土の中の影と、閉じた門のあいだに落ちている。落ちた沈黙の上で、第一部の竜はまだ死んでいない。死んでいないまま、防の結果として固定され続けている。


――第三十一話 了――

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