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第十二話 評議会

鐘は、車を通したあとの時刻に鳴った。


鳴った会議室に、樽の水はない。ない代わりに、別桶の計量が紙になっている。六十リットル。底を指二本濡らした、とミレイユの字。字の横に、神官正の「加護の残り」がある。残りは、もう縁にない。ないことを、誰もまだ大声では言わない。言わないあいだに、議題の順番が先に座っている。


防衛卿が扉を閉めた。閉めた眉は動かない。動かない作法の机に、四つの紙が並ぶ。


一、残党確認の本文。

二、夜間暗渠の預かり番号。改修屑。

三、門の見本。水位を約束する、の三行。

四、黒運河の配給を、救済として中庭へ入れる件。


四が一番上だった。一番上に来る順番を、クラッドが香油のまま確認する。確認は同席の権利だ。権利の隣に、リリアの席がある。席の団長は朝練の Sweat を拭いていない。拭いていない頬が、旗の仕事を会議の照明の下で続ける。


「先に四を読む」書記が言った。「空の井戸に、門の外の九樽を入れるか否か。見本はすでに一樽入った。入った実績を、本配給の先例にする」


先例。見本が契約に化ける最短の語だ。最短の語を、神官正が拾った。


「天は黙った。黙った朝に人の水を拒んだ団長の責任は、残党の所管では消えない。消えない責任を、救済が覆う。覆う水を入れよ」


「入れた六十は、昼までに生徒の喉へ消えます」セレナが計量の紙を押さえた。押さえた指に副長の印。印は告発には足りない。足りない印で、彼女は数字だけを机に残す。「九樽を足しても、常用の一日です。一日の水を、保護の予備と交換するのは高い」


高い、をクラッドが笑った。笑いの位置は右隣だ。右隣は、まだリリアの横にある。


「高いのは空だ。空の顔を、娘たちの Sweat で一日持たせるつもりか。持たせれば、廊下は団長を旗のまま見続ける。見続ける旗に、配給は似合う」


似合う。旗局の完成文だ。完成文を、リリアは斬らなかった。斬らない代わりに、三の紙を一番上へずらした。ずらした行が、鎖のあと、だ。


「本印は鎖のあと、と書いてある。鎖は残党確認の別紙にある。別紙を開かずに四を決めると、決めた水の条件を誰も読んでいない」


防衛卿の目が、娘の指で動いた紙に落ちた。落ちた目は、昨夜と同じだ。読んで、閉じる目。閉じる前に、彼は書記へ顎をしゃくった。


「別紙を開け。開けた範囲は、鎖の有無だけ。名前は読むな」


名前は読むな。呼ぶな、が父の口から出る。出た瞬間、会議室の空気が門の蠟と同じ新さになる。新しい空気の中で、書記が別紙の封を切った。切った紙に、セレナの字がある。山の営。仮堰。長い眠り。鎖。放つ条件は堰の完成。完成を一日ずらした、まで。平原の机の名はない。ない紙を、神官正が不浄と呼ぶ前に、クラッドが先に翻訳した。


「鎖があるなら、なおさら配給だ。配給のない学院に竜が降りれば、責任は騎士団に戻る。戻る前に、予備の印を押せ。押す印は戦争ではない」


「押す印は、返すな、だ」リリアが言った。声はかすれていない。かすれていないことが、旗の技術だ。「返すな、を押した学院は、井戸を自分で測れなくなる。測れなくなった水位は、平原の机のものになる」


机。まだ角はない。ない角の語を、彼女は組合とも魔王とも呼ばなかった。呼ばない空白を、防衛卿が自分の印の引き出しの前で受け止める。受け止めた指は、蠟に触れない。触れない決断が、本日二つ目の空白だった。


「本印は出さない」防衛卿が言った。「見本は預かりに置け。九樽は門の外。外にあるあいだは交易の在庫だ。在庫を救済と呼ぶのは、神殿の自由。自由は、学院の印にはならない」


ならない。クラッドの頬が一度硬くなる。硬くなった顔は、ジョックが席次を外で殴られたときのそれだ。殴られた相手は剣ではない。印を出さない父だ。父の空白が、右隣を一日だけ残す。残った隣で、リリアの Sweat が照明に光る。光るものを、彼は所有の確認に使えない。使えない朝が、彼の敗北だった。


神官正は立ち上がらなかった。立ち上がらない代わりに、空の井戸を再び加護の試しと呼んだ。呼んだ試しを、書記が議事の末尾へ送る。末尾は、開かないのに等しい。等しい末尾に、預かり番号と見本の三行が並ぶ。並んだ紙は、本契約ではない。ではない紙が、すでに「鎖のあと」を部屋の全員の耳に残している。


散会のあと、中庭の縁は乾いていた。


乾いた底に、六十リットルの痕跡はない。ないことを、トオルは馬小屋の影から確認した。確認は命令違反に近い。近い位置で、キリカが本数を足すのをやめていた。やめた理由は、紙の行を数え終わったからだ。


「本印は出なかった。出なかった日は、鎖がまだ外れていない日だ。外れていないあいだ、名前は来ない。来ない名前を、評議会は読まなかった」


「読まなかったことが、空白の刃か」


「刃は短い」キリカが門の外の九樽を見た。


見た樽は、まだ置いてある。「短い刃の外で、工事局は仮堰を直している。直したあと、石の基礎が完成に近づく。近づいた完成が、鎖のあと、を実物にする」


実物。紙が押されなくても、山の堰は押される。押される側を、リリアが影で聞いていた。聞いていた金髪は解いている。解いた頬の Sweat が、会議の照明を脱いで、行軍の熱に戻っている。戻った熱を、彼女はトオルにだけ向ける。向ける距離は、剣の届く長さだ。


「印は出なかった。出なかった代わりに、鎖を全員が聞いた。聞いた鎖を、父上は別紙へ戻した。戻した紙は、また開かない。開かない七日は、もうない。次の七日は、山が決める」


「袋は六のままです」


「六では山へは出られない。出られないあいだに、門の外の九樽が救済の顔で残る。残る顔を、生徒は明日から飲む。飲むと、印がなくても配給が始まる。始まった配給を、私は旗のまま止め続ける」


止め続ける。クイーンビーの仕事が、席次の維持から、見本を本契約にしないことに移っている。移った仕事を、彼女は嫌いだと言った声では言わない。言わないまま、空の縁を一度だけ見た。見た底に、自分の顔は映らない。映らない井戸が、第十二の午後の全文だった。


門の外で、九樽の木が熱を返す。返す熱の向こうに、山の線がまだ真っ直ぐだ。真っ直ぐな先で、鎖は外れていない。外れていないことが、今日の唯一の勝ちだった。勝ちは、水位を戻していない。戻していない勝ちを、評議会は議事の末尾へ送った。


――第十二話 了――

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