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イヴ・メモワール ―隔離された台湾―  作者: アニキ
第一章:古くて新しい地へ
8/32

澎湖上陸

 C.E.2063_04/01_06:11


 朝の六時。

 あたしたちの周りは、ただ果てしなく続く海。それはまるで、この地球上にはこの島一つしか存在しないのではないかという錯覚を抱かせるほどだった。


「イーちゃん、この船はどこへ向かってるの?」ユエが台湾島を見つめながら尋ねた。


〈わたしが知るわけないでしょ。自動操縦なんだから、適当に近い陸地にでも向かってるんじゃない?〉


 わたしたちは今、何もない海の上にいる。進んでいる方向は南東。進入地点から推測すると、おそらく澎湖ほうこ方面だろう。


 それにしても、わざわざわたしのGPSを切断するなんて嫌がらせにも程があるわ。自分の位置すら把握できないなんて。今は古い台湾の地図を頼りに推測するしかないけれど、赤毛野郎が言っていたことが正しければ、たとえGPSやネットが生きていたとしても、この中では意味をなさないのでしょうね。


「わかった。じゃあ、さっきのヘアバンドのこと、説明してくれる?」ユエがさらに問いを重ねた。


〈ああ、あれはわたしたち「氷人」の平和のサインよ。〉


「……それだけ?」


〈ええ……地球人の視点から言えば、無害で友好的な立場の表明、あるいは降伏の合図だと思えばいいわ。〉


「白旗みたいなもの?」


〈あれは地球人の降伏でしょ。この記号はわたしたちにとって、あらゆる平和への意志を集約した表現なの。単なる降伏とは違うわ。〉


「なるほどね……。これ、内側と外側に二つの『無限大(∞)』を重ねたみたいな形だよね。でも変なの。上層部の連中は、どうしてこれまでの進入実験で同じことをしなかったの?」


〈彼らは知らなかったからよ。〉


「そんな大事なことも知らなかったの!?」


〈これは氷人の最高機密の一つだもの。〉


 もし地球人に知れ渡れば、大変なことになる。本当はユエにさえ教えるべきではなかったけれど、今回は背に腹は代えられなかった。


「でも、イーちゃんを送り込んだ連中は、何か知ってたからこそ選んだんじゃないの?」


〈恐らく、氷人専用の識別方法があることまでは掴んでいたのでしょうね。でも、それが何(形)かまでは分からなかったんだわ。〉


「そんな……。イーちゃんをバラして調べれば分かったんじゃない?」


〈そんなに簡単にわたしをいじれるなら、名目を作ってまでわたしたちを死地に送る必要なんてないでしょ?〉


 それに、今の地球人にはそんな技術はない。


「わかった。じゃあ……このマークさえあれば、絶対に攻撃されないんだね?」


〈氷人(あちら側)限定の話よ? それに、主動的に攻撃されないだけで、こちらから先に手を出せば当然反撃されるわ。〉


「ってことは、このヘアバンドは外せないんだ……」


〈そう。この形が崩れない限り、どこに身につけてもいいわ。ただし、相手に見える場所じゃないと意味がないけれど。〉


「ヘアバンドじゃなくても、描くだけでもいいの?」


〈いいけど、ペンなんて持ってないでしょ?〉


「大きい方のバックパックに入ってるよ?」


〈あんた、いちいち細かいわね! ペンで描いただけじゃ消えやすいでしょ。大人しくヘアバンドを締めてなさい!〉


「えー……可愛くないよぉ……」


〈見た目と命、どっちが大事なの?〉


「わかったよぉ……」


〈あと、時間がある時に二つのバッグの外側にもそれぞれ結んでおいて。バッグが体から離れた瞬間に撃ち抜かれるかもしれないから。〉


「中身はただの生活用品なのに?」


〈それでも危険よ。赤毛野郎は『壁を通り抜けられないもの』は教えてくれたけれど、あの武器が何を攻撃対象にしているかまでは言ってなかったもの。〉


「了解。」ユエはそう言うと、持っていた小さなバッグを大きなバックパックの中に押し込んだ。


〈原理は分からないけど、あの武器は何らかの方法で攻撃対象を検知しているはずよ。暇を見て予備をいくつか作っておきなさい。〉


 それにしても、あんな武器の技術、一体どこから来たのかしら? わたしたちが地球に降下した当時の水準を遥かに超越しているわ。


「はぁ……。ねえイーちゃん、少し寝てもいい?」


〈えっ? こんな小さな船で寝る場所なんてないわよ?〉


「横になるだけでいいの。なんだか、さっきのレーザーの危機を脱してから、ずっと眠くてたまらないんだもん。」


 ん? おそらく、急激な緊張状態からの解放と、イヴ・システムの加速補助による反動かしら。それに、あれはレーザーじゃないわ。実弾兵器よ。ただ超音速による空気摩擦で高温になり、光って見えただけ。


〈好きにしなさい。〉


 どうせこの船は遅い。どういう設定かは知らないけれど、この速度で澎湖の岸に着くには数時間はかかるでしょう。今のうちに寝かせておくのも悪くないわね。

 困ったことに、ユエが眠ればわたしも強制的にスリープモードに入る。これは本当に大きな問題だわ。

 赤毛野郎は、わたしのためにそう設計したと言っていた。わたしはこれまで手動で起動・停止を行ってきたけど、外部からの介入がなくなれば休眠メンテナンスができなくなり、ゴミ情報が蓄積して不具合を起こす可能性があるから、と。彼の説明は合理的だけど、無防備になるのはやはり怖い。彼によれば睡眠中もシステムは自動警戒状態に入るらしいけれど、それがどんなものかは経験がないから分からない。不安は尽きないわね。


 #


 ……ん?

 小艇が止まった。どうやら眠っている間に到着したようね。今は……夜の8時。ずいぶんと長く眠ってしまったものだ。

 ここは……内部地図から推測すると、澎湖の「白沙」北西沿岸かしら。


「おはよ、イーちゃん。」ユエが満面の笑みで挨拶してきた。


〈……おはよ、じゃないわよ。今何時だと思ってるの? それに、この状況、説明してくれる?〉


「えへへ。なんだか、あたしたち囲まれちゃってるみたい。」


 あああああ! この子、神経どうなってるの?! 十数人に包囲されているのよ!? なんで笑っていられるのよ!

 全員が松明を手にし、武器を構えている。剣、刀、斧、長槍、釘耙ていぱ、さらには魚叉まで。そのすべてがユエに向けられていた。全員が屈強で、体中が傷だらけだ。野生動物のハンターかしら? いずれにせよ、起きた途端に大ピンチじゃない!

 ……でも、なんで魚叉なの?


「立て!」魚叉を持った男がユエに命じた。


「……えっ? イーちゃん、この人たちなんて言ってるの? あたし、言葉が分かんない。何語?」ユエが困惑して尋ねる。


〈はあ? 分からないのも無理はないけれど、よくそんな質問ができるわね。ここがどこだと思ってるのよ。〉わたしは呆れて答えた。


「ああ、そうか。台湾だもんね。じゃあ中国語?」


 良かった、そこまでバカじゃなかったみたい。


「独り言をブツブツと……。立てと言っているんだ!」魚叉の男の口調は非常に荒く、苛立っているようだ。このままではまずい。早くユエに通訳しなくては……


 そう思った瞬間、ユエが突然立ち上がった。


「……あの、イーちゃん。なんだか、あたし急に言葉が分かるようになっちゃったみたい。中国語。」


 なんですって?! まさかこれもイヴの補助機能? そんな機能まであるなんて聞いてないわよ。万能すぎじゃない?


「でも、この人たち、なんでこんなことするのかな。大人の男の人が大勢で、女の子一人に武器を向けるなんて。」ユエは不満げに口を尖らせた。


 わたしに聞かないでよ。


「待て、お前は……アメリカ人か?」人混みの後ろから、一際屈強な男が現れ、唐突に英語で話しかけてきた。


「えっ? あ、そうです!」


「……とにかく、まずは俺たちと……一緒に来い。」


「あ、はい!」


 考えてみれば、台湾では英語がかなり流通しているし、小学生でも簡単な挨拶くらいはできる。英語を話す人間がいても不思議ではないわ。この男は途切れ途切れで、あまり得意ではないようだけれど、全く意思疎通ができないよりは遥かにマシね。

 そして、ユエが小艇から飛び降りたその瞬間、小艇がいきなり燃えた。


「きゃあっ!」ユエが悲鳴を上げた。


 な、何が起きたの!?


「イ、イーちゃん……お舟が……」


 小艇が突然、わけもわからず炎上した。エンジン部分が真っ先に燃えている。オーバーヒート? いえ、そんなはずは……。

 その時、周囲が騒がしくなった……かと思いきや、そうでもなかった。男たちは確かに怯んだものの、それほど驚いている様子はない。


 その後、ユエは大きな集落へと連行された。

 集落とはいっても、古臭いわけではない。むしろそれなりに先進的だ。ただ、この村には言いようのない不自然さがあった。建物の多くが旧式の建築技術によるものなのに、わずかに現代的な鉄筋コンクリートの建物が混ざっている。全体的にひどく奇妙だ。

 ユエはボロボロの木造建築の前で足を止められた。ドアももちろん木製。さっきの屈強な男がまずドアを開け、中へ入っていった。開閉音がひどく錆びついていたわね。長い間使われていなかったのかしら。


「入れ。」屈強な男が命令口調でユエに告げた。


「あ、はい!」ユエは小走りに後を追った。


 部屋の中には四本脚の四角い木製のテーブルがあり、その上には一本のロウソク。二脚の椅子、そして角にベッドが一台。それ以外には何もない、非常に簡素な平屋だった。それにしても埃がひどいわ。一体いつから放置されていたのかしら。


「そこに、座、座れ。」屈強な男がたどたどしい英語で言う。


「あの……中国語でいいですよ。あたし、分かりますから。」


 えっ? なんですって?! ユエが中国語を話した! しかも完璧な発音で!? イヴの性能が強すぎるわ……。信じられない。わたしが眠っていた23年の間に、地球人は小型化だけでなく、ここまで強化していたというの?

 なら、わたしも合わせるわ。中国語に。


「……ならいい。とにかく、まずは座れ。」


「でも……すごく汚いですよ?」


 この状況でそんな細かいことを気にするんじゃないわよ!


「……おい、お前、少し片付けてやれ。」屈強な男が入口にいた男に、これまた命令口調で指示を出し、ユエのためにテーブルと椅子を掃除させた。


〈ユエ、静かにわたしの話を聞いて。返事はしないで。〉この隙にユエと打ち合わせをしておかなくては。


「えっ?」


〈黙って。わたしに答えないで。〉


「…………」ユエは口を閉じ、こくりと頷いた。


〈これからは、わたしの存在を誰にも悟られないようにして。人がいる場所ではわたしに話しかけないこと。理由は後で教えるわ。〉


「…………」ユエがまた頷く。


〈頷くのもダメよ。とにかく一切の反応を見せないこと。悟られるかもしれないし、そうでなくても変人だと思われるわよ?〉


 またユエが頷いた。本当に分かってるのかしら。

 掃除が終わると、ユエは男の指示に従って座った。男もテーブルの向かい側の椅子に腰掛ける。ユエを連行してきた連中は、部屋の四隅や入口を固めていた。


「まず、お前の名前を言え。」男が切り出した。


「ええと……筱玥シォユェです。」


「筱玥? アメリカ人がそんな名前を名乗るとは。中華系の名前だな……華僑か?」


「華僑です。あたしのお母さんが……」


〈わっ! 待ちなさい、このバカ! 適当にペラペラ答えるんじゃないわよ!〉わたしは即座にユエの無防備な発言を止めた。


「コホッ……埃がひどいですねぇ、あははは……」ユエはひどく白々しく言葉を濁したが、あまりにも不自然すぎるわ。


「……どこから来た?」男は今の失態をスルーして、質問を続けた。


〈ユエ、ここはわたしに任せて。わたしの言う通りに話しなさい。〉これ以上変なことを言わせないためにも、わたしが主導権を握るべきね。


「ええと……分かりません。」


「何? 分からないだと?」


「はい、なんだか……その、言葉と自分の名前以外、何も思い出せないんです。」


「ふん、そんな嘘、三歳児でも信じはせん。」男はあからさまに蔑むような視線を向けた。まあ、自分で言わせたことだけれど、わたしだって信じないわ。でも、他にどうしようもないでしょ。


「嘘じゃないです、本当なんです!」


「……まあいい。なら、あのボートはどういうことだ?」


「ボート?」


「あの快速艇は中国の『天行一号』だ。子供の頃に見たことがある。だが、お前が乗っていたやつはあちこち改造されていた。あんな六十年前の骨董品がなぜ今も残っている? それも明らかに整備され、改造まで施された状態でだ。第一、どうやって動かした? 一体どういうことだ?」


「小艇? ああ……あれ、『快速艇』って言うんですね。今初めて知りました、あははは。」


 あああああ! わたしが人間なら今頃卒倒しているわ! このバカ、演技が下手すぎるわよ!


〈勝手に喋るんじゃないわよ! わたしを憤死ふんしさせる気!?〉わたしは思わず怒鳴った。


「あ、あははは……」ユエはバカっぽく笑って誤魔化している。傍から見れば可愛いかもしれないけれど、わたしはイライラするわ!


「はぁ……。お前、嘘を吐くのが致命的に下手だな。」男は呆れたように吐き捨てた。


「……記憶喪失なんです。本当に。」


「そうか。あくまで突き通すつもりなら、これ以上聞いても無駄だな。」そう言うと、男は立ち上がり、部屋を出ようとした。


「しばらく大人しくここにいろ。話す気になるまでな。」


「ま、待ってください!」


「どうした? 記憶が戻ったか? 随分と早いな。」


「いえ、そうじゃなくて……。そこにあるの、あたしのベッドですか?」


「ああ、寝るならそこで寝ろ。」


「あの……すごく汚いんですけど……?」


 男は大きなため息をつくと、さっきテーブルを拭いた男を指差した。「おい、お前。少し片付けてやれ。」


 タオルとバケツを持ったその男は、今にも爆発しそうなほど不機嫌な表情を浮かべていた。


「ま、まだあります……」ユエがさらに要求を重ねる。


「……次はなんだ?」


「お手洗いは?」


「あっちのドアの先に便器がある。」


「浴槽は?」


「そんなものあるわけないだろ。体を洗いたいなら、便器の横に蛇口とホースがある。勝手にしろ。」


「あと、あたしのバッグは? 返してもらえますか?」


「……おい、点検はどうなった?」男が外にいる誰かに声をかけると、連行中にバッグを没収した男が入ってきた。今度は別の人ね。なんでもかんでも「バケツの人」に押し付けなくて良かったわ。


「大きい方のバッグには生活用品が山ほど。小さい方には女性用品。不審なものはありませんでしたが、ただ、この大きい方のバッグが……」


「なら返してやれ。」男は言葉を遮った。部下の男は無言でバッグをテーブルに置き、出ていった。


 そして、男はユエに向き直った。「もういいな? 大人しく――」


「あ、あとあと! ここはどこなんですか?」


 なんで今になって聞くのよ!?


「ここは白沙はくさ。この村のことは『通樑つうりょう』と呼んでいる。」


 通樑? 澎湖跨海大橋のすぐ側にある小さな町じゃない。そんなところまで流されてきたの?


「それから、あなたのことはなんて呼べばいいですか?」


「……宋揆ソン・クイ。ここらの奴らは『クイニー』と呼んでいる。」


「宋揆……クイ兄……」


 宋揆。

 周囲から「兄貴」と慕われているあたり、かなりの実力者なのでしょう。白いタンクトップに麻の長ズボン、スニーカー。身長は百七十センチほど。顔だけ見れば六十歳は超えているようだけれど、その肉体はボディビルダーとまではいかなくても、相当に鍛え上げられている。日頃から重労働に従事しているか、鍛錬を欠かさないのでしょうね。

 頭は禿げているけれど、それが不思議と似合っていた。


 クイ兄はそう言い残し、家を出ていった。周りの連中もそれに続き、しばらくして、ユエ一人に残って、全員退出した。


〈それにしても、こんなボロ家、牢屋代わりに使うつもりかしら。〉わたしは疑問を口にした。


「うーん……なぜか鍵もかかってないよ。それどころか、見張りもいなかったらしい、逃げろってことかな?」


〈そうね、変だわ。でも、大人しくここにいた方がいいと思うわよ。〉


「どうして?」


〈ヘアバンドのことよ。氷人にしか分からない合図だと言ったでしょ?〉


「うん、それで?」


〈なら、ここの氷人は必ず同胞が来たことに気づくはず。迎えに来るはずよ。〉


「あ、なるほどね。でも、赤毛さんは氷人も隔離対象だって言ってたよ? ってことは、氷人だって歓迎されてないんじゃないの? なのに、どうして迎えに来るって言えるの?」


〈賭けてみるしかないわね。それに、赤毛野郎の言葉が真実かどうかも分からないし。とにかく、下手に動き回るよりは、ここで待っていた方が余計なトラブルを避けられるわ。何より、逃げたところでどこへ行くつもり? 地図があるといっても20年以上前のものよ。今の台湾がどうなっているか全く分からないのに、闇雲に動くのは危険すぎる。まずは情報を集めましょう。〉


 この村のことすら、わたしの地図には載っていなかった。古い地図を頼りに歩いて海に落ちたりしたら目も当てられないもの。


「はぁ……。わかったよ。あと、さっきなんでイーちゃんのことを秘密にしろって言ったの?」


〈そんなことより、ここが変だと思わない?〉


「変だよね。なんでロウソクなんだろう?」


 そう。今、この部屋を照らしているのはテーブルの上のロウソクだけ。


「それにこの家、電球すらついてないよ? 電球どころか、電線すら一本も通ってないもん。」


〈何言ってるのよ……えっ?〉


「すごく変だよ。さっきの砂浜ならまだしも、どうして村の照明が全部松明なの?」


 ああ! わたしが感じていた「不自然さ」の正体はこれだわ!


「ねえイーちゃん、あの人たち、銃を持ってなかったよ?」


〈中華民国(台湾)は銃規制の厳しい国よ。持っていないのは普通でしょ?〉


 待って、だとしても剣や魚叉を持つ必要はないはず……。魚叉を対人武器に使うなんてそれだけで不気味なのに、剣まで? 時代錯誤も甚だしいわ。


「違うよイーちゃん。あの人たち、多分戦争してるんだよ。」


〈……えっ? 根拠は?〉


「だって、みんな傷だらけじゃない。しかもあれ、刀傷か刺し傷だよ。それに、正体不明の相手だからって、普通いきなりあんなに武器を持って警戒する? どう見ても戦時中の反応だよ。平和な時代なら、あんな対応にはならないはずだもん。それなのに銃がないなんて、逆におかしくない?」


 それは……確かに一理あるわね。


「それにさ、この村、車もバイクも一台もないよ?」


 全く気づかなかった。あまりに異常だわ。ユエの見間違いかしら? まだ少ししか歩いていないし。


「あと、電柱も変圧器トランスも見当たらない。全部地中化したとしても、建物に変圧器や引き込み線くらいはあるはずでしょ?」


 どうしてこの子はこれほど多くのことに気づいて、わたしは一つも気づかなかったの? わたしたちは全く同じ光景を見ていたはずなのに!


「台湾ってこんなに遅れてるの? 銃も車も電気もないなんて。貧乏にも程があるよ。」


〈何バカなこと言ってるのよ!!〉


「ひぇぇぇっ!? そんなに大声出さなくても……」


〈あり得ないわ。台湾の発展ぶりは、世界の先進国を凌駕する部分すらあったのよ!〉


 一体どういうことなの? たとえ澎湖が離島だとしても、本島と大差ないはず。隔離された18年間、進歩が止まっていたとしても、当時の技術ですでに相当高度だったはずなのに。


「へぇ……。じゃあ、今度クイ兄に聞いてみるよ。」


 そうするしかないわね。あまりに不可解すぎる。どうすればここまで「退化」できるのかしら。人に聞くしかないわ。幸いクイ兄には敵意がなさそうだし、ユエにも礼を尽くして部屋まで片付けてくれたもの。


「イーちゃんイーちゃん、で?イーちゃんのことを隠す理由は?」


〈ああ、今言っておかないと手遅れになるわね。分かっていると思うけれど、わたしは地球人の平均的な水準を超越した異星人の技術オーパーツよ。このレベルの技術を持っているのは、世界でも極一部の国家機密機関くらい。一般社会には知られていない。もし知れ渡れば、どう利用されるか分かったもんじゃないわ。〉


「わかった。バレると危ない目に遭うってことだね。」


〈そういうこと。最悪の場合、頭だけ切り落とされたり、脳みそを丸ごと取り出されて、標本として研究されたりするかもね。〉


「えぇぇぇぇっ――――?!」


 冗談のつもりだけれど、もし本当にバレたら冗談じゃ済まされないわ。


 それにしても、ユエのこの観察力と洞察力、恐るべきものね。出会ってまだ数日だけれど、わたしはこの子が分からなくなってきた。天真爛漫バカと天才の切り替わりが極端すぎる。……本当に、不思議な子ね。

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