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09 向かい集う

ブックマークして下さった方、及び評価をしてくれた方、大変遅れました。すみません。

 屋敷の中の国籍の様々な兵士たちの間を縫うようにしてタキは動く。



「このっ!」

「甘いです!」



 タキを捕まえようとして手を出してきた兵士の腕をからめ捕り、そのまま捻りあげる。痛みで体が浮いた瞬間を狙って足を払いそのままの勢いを利用して地面にたたきつける。

 兵士の首が勢いと自身の体重でへし折られた。

 僅かに動きの止まったタキへと攻撃を加えようとする兵士たちだったが、そこへアカシが割り込む。



「私の前では義娘に指一本触れさせませんよ、タキはそのまま突破しなさい」

「はいっ」



 文字通り降って湧いてきたアカシが兵士たちの剣を流し、隣の者へと突き刺す。

 動揺と驚愕による混乱から立ち直る前に目の前の兵士の鼻頭を殴りつけ怯んだところを蹴り倒す。

 兵士たちはお互いの得物を利用されていることに気付き、距離を取ろうと下がった。

 タキは兵士たちの合間を縫って移動し、敵をかく乱していく。たかが小娘と心のどこかで侮っていた兵士たちは霞みを掴むかのような感覚に戸惑い、致命的な隙を晒していた。



「では武神と恐れられた者の力、見せるとしましょう」



 ヌルリ、そう表現する他ない滑らかな動きでアカシは兵士の懐に潜り込むとそのまま突き出した掌で顎を強く打つ。顎が砕けた兵士はそのままの勢いで首をひねられ絶命する。。

 僅か一瞬で崩れ落ちた兵士をアカシは肩からぶつかるようにして吹き飛ばす。鎧を着た兵士の重量は相当のものであり、それをぶつけられた兵士はその場で巻き込まれるようにして倒れ込んだ。

 兵が吹き飛ぶ直前に奪った剣でアカシは呆然と立っている兵士に斬りかかる。



「その程度、武神の民の赤子にすら後れを取りますよ?」

「っ?!」



 受けようとした兵士の手から剣が弾き飛ばされた。一瞬の鍔迫り合いの中でアカシが剣を剣で絡めるように動かしたのだ。

 梃子の原理によって手元から剣が弾き飛ばされた兵士は驚きに目を見開き次の瞬間には首を裂かれ、何が起きたかを理解する間もなく絶命した。

 屋敷に突入した途端に形勢を覆された兵士たちは低下した士気を維持しようと果敢に戦いを挑むも、合流した生き残りの使用人たちとアカシの勢いに飲まれ全員が物言わぬ骸となったのだった。

 アカシは使用人達を引き連れて屋敷の外に飛び出す。



「私たちも『蜂』達のもとへ行きます! 皆、私についてくるように!」



 声を張り上げたアカシの胸中には、その声とは裏腹に不安が燻り続けていた。

 粘りつくような悪意の中でもがき続ける自分達がどんどんと沼の奥まで沈んでいくような。



「あなた……どうか無事で……」



 誰にも聞えぬように小さくアカシは胸中の不安を吐きだす。

 自分の背後を突いてくる者たちにはその色を隠して。




 # # # # # #




 カガリは飛蝗の蟲者であるヴァーダンの猛攻を骨身を削って凌いでいた。

 隠密能力(ステルス)により惑わされる感覚と、空を蹴りながら縦横無尽に飛び回る巨躯に翻弄されながら。



「シィッ!」



 音が遅れてやってくる一撃をカガリの動体視力が捉える。

 それに合わせて全身に闘気を漲らせ、魔力を主要部位に這わせる。

 ヴァーダンの巨躯がすれ違いざまに放つ、蹴撃に対してカガリは手を添えるようにして受け流す。

 その際に魔力を風に変換し風の膜を作り出すことでいなすことを可能としているがそれでも完全に勢いを殺すことは出来ていない。


「見事ッ!」

『だがまだまだッ!』


 飛蝗の蟲者が更なる加速を見せる。

 そしてキィィィィィンと耳障りな音がカガリの周囲に響き渡る。

 これは飛蝗の持つ能力である音響(パーカッション)だ。

 勿論、ただ耳障りな音を立てているだけではない。

 突如、音が見えざる鎚となったかのように襲いかかる。



「覇ァァァっ!」

『なんとっ! これすらも……!』



 ヒハンが驚きの声を上げるのも無理からぬ話であろう。

 カガリは音鎚が迫ると察知した屋否や己の口から気合と魔力を乗せた音の一撃を吐き出したのだ。

 音鎚と咆撃とがぶつかり合い、風と衝撃を生み出して相殺されたのだ。

 その驚きによる揺らぎをカガリは勇猛果敢に攻め立てる。

 生身の人間であろうと、カガリは狩られるのを怯えて待つ兎ではないのだ。

 

「降魔ッ!」 


 カガリが飛びあがり気合を乗せて叫び繰り出す一撃。

 それは飛蝗の蟲者が放つ蹴撃と似た技、空を蹴りながら半身を捻り放たれる踵落としであった。

 風の魔術によって己を引き絞り放たれた矢の様に撃ち出し、闘気と魔力を込めて放たれた武の神と呼ばれる者が放つ神域に至る一撃は『魔を降す』という技の名の通りに、その巨体を大地へと叩き落す。



「ヌゥゥゥオオオオォォッッ!?」

『ヴァーダンまだ来るぞ!』

「チィィィィッ!!」



 カガリが雷光を纏いながら膝をついた蟲者に追い打ちとして降り注ぐ。

 その技の名を瞬雷。天から降り注ぐ雷の如き速度が乗せられた魔術雷を伴う蹴りを喰らえば蟲者であろうと甲殻を突き破られ致命傷を負うだろう。



音響(パーカッション)ッ!』

「風よ吹き荒べえええっ!」



 カガリに対し、ヴァーダン達は脚甲によって増幅された音の一撃を蹴り出す。更にはヴァーダンが風の魔術を使うことで音の衝撃と風の風圧の二重の弾幕が張られた。

 音と風の砲弾はカガリの必殺の威力が込められた蹴りの軌道を僅かに逸らした。だが、それだけで直撃を回避するには十分であった。

 ギンッと金属を削る音が響き、飛蝗は蟲者の中では脆弱な部類とは言え、蟲者の甲殻を抉りダメージを触れただけで与えたのは筆舌し難いほどの驚愕をヴァーダンとヒハンに与えた。

 しかしながらカガリも無傷とはいかない。瞬雷を逸らすのにヴァーダン達が使った攻撃はカガリの軌道を逸らすだけでなく、ダメージも同時に与えていた。

 それが好機と翅を震わせ加速しようとヴァーダンであったが^――。



「ぬ……?!」

『先ほど我らが叩きおとされた一撃で翅がやられたようだ』

「機動力が先ほどより落ちたのなら……!」


 人と蟲者の想像を絶する戦いは、暴風よりも荒れ狂う様を見せていた。

 両者ともに膝をつき、戦いに凪の時が訪れるころ。



「カガリお兄様っ!」


 少女の悲痛な叫びが響いた。




 # # # # # #




 タキが屋敷を飛び出し、カガリの戦う場所へ辿りついた。。

 村のあちこちにで火の手が上がり、村の者達が戦っている姿が見える。

 質では劣ることはないが、数の上で不利を強いられる。そして、数と言うのは存外に馬鹿にすることは出来ない。

 蟲者を倒すのに、一万の兵士が掛かると言われている。それは、被害を示す数字であると同時に、蟲者も疲弊すれば倒せるということでもあるのだ。

 武神の一族は武を極めた一族である。カガリやオコシ程の実力を持った者であれば蟲者と対峙することはできるだろう。

 だが、彼らとて無限に戦い続けることは出来ないのだ。

 そして、たった一人の蟲者を倒したところで戦いは終わらない。

 焦り気持ちを抑えつけ、タキが矢の様な速さでカガリのところへ辿りついた時。




「カガリお兄様っ!」 




 カガリが着ているものは既にぼろきれのようになっており、全身の何処を見ても傷の無い場所は存在しないような有様であった。まさに満身創痍、そう言うのが最もカガリの現状を表すに相応しい言葉となっていた。

 だが、そんなカガリと対する相手も無事ではなかった。

 『飛蝗』の蟲者の異形の脚に装備された脚甲は砕かれ、脚に比べれば圧倒的に甲殻の薄い腕や腹と言った場所には抉られており、ジュクジュクと煙を上げながら修復を施している最中であった。何よりも蟲者の翅が千切られているのは見る者に衝撃を与えるほどのことであった。

 だが、タキはカガリであれば当然であるといった面持ちで傷つき膝をつくカガリに駆けよった。

 むしろ、カガリが此処まで追い込まれているということのほうがタキを驚かせることだった。



「タキっ! 何故戻ってきた!」

「アカシ義母さまの命です! アカシ義母さまは村を棄てると!」


 

 その言葉にカガリは苦い顔をする。

 ついにこの時が来てしまったのかと、心の奥底で暗い炎が燃え上がるような感覚であった。



「我らが逃がすと思うか?」

『人と人蟲一体となった蟲者とでは地力が違う。人の身でありながらここまで我らに傷を負わせたのは驚嘆に値するが、それも無意味と言うもの』

「所詮は時間をおけば治る程度の傷でしかない。それに比べて生身のお前は我が一撃を受ける度に窮地に追い込まれていく」

『武人としては我らは武神の一族に劣るであろう。だが、この戦い、我々と貴様らとの争いというより大きな視点では我らの勝利に終わるであろう』

「これは戦争だ。武と武を競い合うものではない。姑息であろうと、卑怯であろうと、汚くあろうが、勝てばいいのだ。我が武人としての力は及ばずとも、(つわもの)としての我らが力は武の頂きに座する神に届くのだ」



 ヴァーダンは見た目の負傷とは裏腹に、微塵も揺るいだ様子もなくただ事実と言わんばかりに告げる。

 タキはカガリに肩を貸しながら毅然と飛蝗の蟲者を睨みつける。


「その傷では今暫くは動けないでしょう?」

「違いない。だが、お主はどうもできまい?」


 タキは図星を突かれに黙りこくる。

 今のタキとカガリではヴァーダン達に止めを刺すこともできない。カガリは決して無視できぬ傷を負っているし、タキはそのカガリを放っておくこともできない。

 そのまま踵を返すとカガリとタキは『蜂』たちが住まうネジハワックの森の奥深くへと消えていった。

 その背に、ヴァーダンから呪いの様な言葉が届けられる。



「一度振るわれた腕は、戻すことは出来ない。腕が振るわれた先も理由も問題ではない。振るわれた事が重要なのだ」

『武神の一族はここを凌いだところで今よりも苛烈に追い立てられるであろう』



 その言葉に返答する声はなかった。



 # # # # # #


 身を寄せ合う者達が覚悟を決め集結する。

 『蜂』『武神』『人』。

 もうすぐ戦いは終結する。

 そしてそれは新たなる始まりを告げる。

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