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chapter3 二つの影

 いままでに何千何万もの冒険が行われて、何人もの探索者がいなくなった。

 この物語もその一つなのだが、その冒険や物語には神にも等しい存在がいる。

 その存在は時に探索者に困ったりするし、時に残酷な運命を用意してくれたりする。

 今回の神様とやらはどうゆう障害を用意してくれるのだろうか…。そんな事を意識して生きる人はどこにもいない。

 なぜならこれを書いたり読んだりしている我々にもきっとその神様とやらはいるのだから。

 とっても不機嫌そうな神様が私に入るのだろう。目に映るようだ。

 そんな事意識して生きていたら、潰れてしまうだろう?






「着きましたよ。お疲れ様でした。私は主人に伝えに行きますので、玄関で少々お待ちください」

 メイドはそう言って丁寧なお辞儀をして玄関近く左側の広間かと思われる部屋に入っていった。

 中には数名の人がいるらしく、聞き耳を立てるとカチャカチャと食事を取っている音が聞こえた。今の時刻は昼あたり、そろそろ食事の時間だ。お世話になるとしよう。

「玲!どうなんだぜ、このお屋敷!でっけぇんだぜ!?」

「はしゃぎすぎよ。お金持ちなんでしょ?これぐらい当然よ」

 となりの旧友に話しかけた私はどうやら興奮が隠しきれていないようで、落ち着き払った友人に呆れられているようだった。ちょっとつまんないんだぜ。

 足元に敷かれた真っ赤でふっかふかの…絶対ウチにある布団よりも高いし性能いいんだぜコレ、ちょっと持って変えてもバレないよな?寝てもいいかな?

 そんな事を思っていると二人の前にその屋敷の主人である伊高氏が部屋から出てきた。

「どうも、よくぞいらっしゃいました。さぁ、どうぞ」

 伊高氏に連れ添って二人は部屋に入る、中には30代ぐらいの男性とその娘だろうか、女学生が席についていた。その正面には新聞を読んでいる若い男性が座っている。ルックスも悪くないんだぜ。

 そして伊高氏の隣には金髪美女、ニッコリとした笑顔が素敵なんだぜ。

「もう耐え切れないんだぜ!!」

 着席後全力で机に突っ伏す。心の中のはしゃぎたい欲望が抑えられない。

「ちょ、ちょっと、何何?どうしたのよ」

 その後、十分程玲が私をなだめた。落ち着いて胸を撫で下ろした頃には軽い食事が前に運ばれてきていた。

 分けられたパンを口に運んでいると、女学生が私らに話しかけてきた。

「あの、あなたも招待客ですか?」

「こら…、俺らは客人じゃなくて仕事しに来たんだろうが」

 仕事?なんのことだろうか、まぁ招待客であることには違いないので玲と一緒に肯定する。セレブじゃないけどな。

 パンを飲み込み、昼食のメインディッシュである良くわからないお肉にナイフを向ける。こんがりしててとにかく旨そうなんだぜ。

「へぇ。どこからですか?」

 私はこれでも食事にはうるさい方なんだぜ、ひと切れ味わってからメイドさんを呼んで何のお肉か聞いてみるとしよう。

「私はS市警視庁から。こっちは…えっと…」

「ここの近くの交番勤務」

 メイドさんがこのお肉が羊の肉であることを告げる。初めて食ったんだぜ。

「ああ、そうそう、警察よ。奥さんとちょっと関わりがあってねー、それだけなんだけど」

 三人がアハハと楽しそうに笑う。飯も美味いってもんだぜ。

「そちらは?仕事っておっしゃってましたけど」

「あぁ、こちらは伯父の木原 広(きはら ひろし)、探偵で警備を頼まれたんです」

 こうして四人が名乗る、自然と視線は一人新聞を読んでいる青年にチラチラと向く。用意された食事を平らげてメイドさんがそれをトレーに乗せる。

 視線に気づいた彼はぽつりと「卯月 時秋(うづき ときあき)だ。よろしく」と名乗った。

「ダメだよ、アキ君。もっと仲良くしないと!」

 メイドがトレーを運びながら振り向いて彼に喝を入れる、よく見れば少し顔立ちというか雰囲気が似ているような気がしないでもないな…。

「で、そっちのが姉の時葉(ときは)…。わかってるさ」

 兄弟だったようだ。時葉さんは微笑みながら部屋から出ようと向かう。

 長方形の出口から出た途端、角から現れた影に彼女はぶつかりバランスを崩してしまう。食器を乗せたトレーは幸運な事にトレーの上から漏れずストンと尻餅をついた彼女の太ももの上に落ちた。

 それと同時に遠くで時秋がイスを揺らして立ち上がり急いで時葉さんに駆け寄って手を差し伸べた。

 あぁ、素晴らしきかな兄弟愛。

「あら、ごめんなさい」

 その影は淡々と謝ると、ひょいと時葉さんの上を飛び越え入室してきた。チャイナ服、ドラマとかテレビ以外で初めて見たんだぜ。今日は初めてのことが多すぎて記念日になりそうな勢いだ。

 隣の玲も驚いている…というかちょっと引いている様子だった。それはしょうがない。スリットから誘惑するがごとく見える太もも、いや…臀部ギリギリがものすごいんだぜ。

「絶対金持ちなんだぜ」

「絶対ね」

 それに加えて胸まであると来た、腕には長いシルクの手袋…もうよくわからないんだぜ。

 女性陣二名が明らかに卑屈な引きを見せていると彼女はちゃっと空いている席に座る。

 時葉さんが起き上がるといそいそとテーブル中央のティーセットへ手を伸ばし紅茶を注ぐ。生粋のメイドなんだろうな、食器のトレーは弟君が運んでいっているらしいんだぜ。

「ねぇ、貴女」

 彼女は席の近い私達に扇子を向け話しかけてくる。

「貴女、昨夜からここに居た?」

「いえ、私たちは先ほどここに来たばかりですが」

「…ふぅん」

 彼女は扇子をあごの下に向けると天井を見て足をブラブラさせ始めた。外見は豊満な女性のように見えたが、どうやら子供っぽい面もあるように二人は思えた。

 弟君は戻ってくるとすぐに読みかけの新聞紙を広げ、周りの事をまったく目の中に入れずリラックスしている。彼女はそんな弟君をつまらなそうに見ていた。そして我関せずの伯父さんと読書ちゃん。

 彼女は目の前で湯気を放つ紅茶を口元へ運び、満足気な顔をして匂いを楽しむ。

 なんなんだぜこの空気…。

 部屋へ入ってきたメイドに彼女が顔を向けて話しかける。

「このお屋敷には今、どれだけの人がいるの?メイドさん」

 時葉さんは指折りで数えて「まず、今ここにいる七名、それにご主人夫妻がいらっしゃいます」と返した。

 それを聞いた彼女は気合のない返事をすると何かに気づいたように「あれ?」と呟いて質問を続ける。

「じゃあ、あの二人はいないんだ」

 二人?まだ来客がいるのだろうか。

「えぇ、いらっしゃいません」

「すみません、そのお二人について話を伺いたいんですが」

 横から伯父さんが出てくる、警備のお仕事らしいし気になるのだろうか。興味がないように見える弟君も新聞紙を読んでいる目が止まっている、どうやら聞き耳を立てているらしいな。

「皆様にはお話していませんでしたね」

 そこへ伊高氏とセーシルさんが入ってくる。

「その二人っていうのは私たちの兄妹ですよ。二人は学生でね、市内の学校に通っていまして、夏はほとんど帰ってこないんです」

 どうやら二人の名前は伊高 大輔(いたか だいすけ)伊高 結城(いたか ゆうき)というらしく、街から遠く山の中にあるこの屋敷が不便だと思ったのかほとんど帰ってこないらしい。

 夏では程よい避暑地になるこの山は、冬になると豪雪らしい。稀に家から出られなくなることがあるしく、電話線などは山に埋める形で通っているらしい。屋敷に閉じ込められるのは勘弁だな、事件とかじゃないんだし。

 そして目の前にいるチャイナ服の彼女はホウ・レイと言い、主人とセーシルさんのお父さんのお仲間の娘さんと紹介を受けた。どうやら息子に気があるらしいとまで話した。

「じゃあ、ここに居るので全員ってことなのね?」

 時葉さんが頷くと全員が見える位置に動いて、したり顔で話し始めた。

「昨夜、私は不審な影を見ましたのよ」

「? 不審な影、ですか?」

 警備の仕事を任された木原が渋い顔をそちらに向ける。

「そう!不審な物音を昨夜聞きましてね、様子を見に行きましたの」

 私たちは昨夜のことなどはまったく知らないが、不審者という単語が出た瞬間に玲の目が険しいものとなって私に耳打ちしてくる。

「不審者、もし見つけても撃たないようにね」

 私はまるで怯えた子羊のように…、いや怯えてるってのは事実かもしれないんだぜ。だが玲は知っていないはずだ。

 私が実銃を持ってきている事を。

「なんのことだぜ?」

「念には念をよ…。まっ、警察学校に実銃持ってきてた頃とは違うでしょうけど」

 玲が呟いたのは私が警察学校時代に実銃を密かに携帯していた…、これ以上は言うことができないんだぜ。私の立場が危うい。

「昨夜…、失礼ですがあなたが泊まっている部屋は何処でしょうか」

「一階ですわ。書庫のお隣です」

 目星…とでも言うのだろうか、新聞を読んでいる弟君の視線が鋭くなるのを私は感じた。

「その時の事を詳しくお話して頂けませんか?」

「勿論、あれは…真夜中だったわ。書庫から何か音が聞こえた気がしたの。それで様子を見に行ってみますと、書庫にはちゃんと鍵がかかっていて…」

 ホウが喋った事を緻密にノートに書き写す花音、だが彼女もまた弟君と同じくどこかぎこちない動きをしているように見える。

 急に弟君が口を開く。

「鍵は、かかっていたって言いましたか?」

 別段驚くこともなくホウは返事をする。

「えぇ、錠前はちゃんとかかっていましたわ」

「でも、書庫から音がしたんですよね?」

 話がおかしくなってきた。鍵の掛かった密室である書庫の中から物音がしたという事だがまったく意味がわからない。

 難しい顔をして弟君や私が考えているのを見た木原は助け舟を出す。

「じゃあまず、書庫に行ってみましょう。中に誰か閉じ込められているのかもしれません」

 「そうですわね」とホウも立ち上がり、私たち二人と花音・弟君も席から腰をあげる。

 時葉さんが案内する形で書庫の前へ全員が集まり、懐から時葉さんが鍵を取り出す。

 木原が警戒する形で大きめの扉を開いて埃っぽい空気を払う。どうやら中には閉じ込められている人はいないようだ。明かりを付けると中に人が溢れた。

「良かった、誰もいないですね」

 玲が安心で胸を撫で下ろす。

「おっかしいですわねぇ…」

 ホウは扇子を口元に当てて不思議そうにそこらじゅうを見つめ回していたが、しだいに飽きてきたのか本を適当に開いては戻してを繰り返し始めた。

 私はというとこの中に魔物でも閉じ込められてないかと期待していたのだが、アテが思いっきり外れて窓から庭園をずぅっと眺めていた。

「………。」「………。」「………?」

 花音ちゃんと弟君は二人でぼおっと入口の近くで立ちながら花音ちゃんはノートに、弟君は手帳に部屋の様子を書いているようだった。時葉さんはその後ろ、少し部屋から出ている場所でニッコリ微笑んでいる。

 その中で一人だけ、しゃがみこんで埃を掬う木原が居た。

 人差し指を床に積もった埃に向け、何かを考え込んでいる。

 木原はそのまま玲と私を呼び、ずっと見ていたものを指差した。

 足跡だった。積もった埃の上を歩いた何者かの靴跡がそこには残っていた。

「あんたら、警察だったよな?」

「えぇ、これは?」

 玲はそれが足跡だということにすぐ気づき、それがそこら辺にも広がっている事にも気づいた。

「これ、皆のじゃないんですか?」

 木原はあたりにいる皆を見るともう一度足跡に目をやる。今いる位置は扉と窓の丁度間、目の前には本棚がある。

「あっ、ここ一冊無い…」

「所々、埃が積もってない隙間がある。誰かが最近入ったことは間違いない」

 木原はその足跡の写真を取ると周りに広がる足跡に目をやる。私の、玲の、ここの床はもう足跡だらけになっていた。

 本のタイトルはまったく読めないし、真面目に探しているのは玲と木原ぐらいだ。

 ここで私は少しでもくつろごうと奥にある小さな机に腰をかける。

 私は人の顔を伺う才能がある…と自負している。学生時代色々あったせいなのかもしれないが、ちょっとなら顔を見ればその人が何を思っているのかわかる。

「ふうん、面白くなってきたんだぜ」

 足跡を眺める木原の顔が少し歪んだのを私は見逃さなかった。そして木原が思っている事の推測もついた。

 ……私は奥から慢心して見てるぐらいがちょうどいいんだぜ。本を読むみたいにな。







 俺は今まで安心していた。

 俺は今、昨夜侵入した書庫に来ている。共に踏みいった通 花音や他の客人達と。

 こうなることは予想していたし、今、探偵業を営んでいるとかいう花音の伯父さんが注目している足跡に対しては靴を履き替えるという一手を打った。

 その一手に俺は安心し、ゆっくりくつろいでいた。

 だが忘れていた、彼女の存在を。共に侵入した彼女は替えの靴を持っているわけもなく、靴跡も多分木原さんにはバレてしまっている。夜にでも彼は聞き出しにかかるかもしれない。

 いや、落ち着こう。

 彼女が此処から本を借りたこと…盗むつもりはないと信じたい…それ自体には大した罪がないはずだ。何を焦る必要があろうか。俺は何もしていない。

 ここはホウ・レイと名乗った彼女からもバレる可能性がある。話を伺うとしよう。

 なんにせよ、姉から叱られるのだけは勘弁願いたい。

「すみません、昨夜のことについてお伺いしたいのですが」

「えぇ、構いませんわ」

「それでですね、扉に鍵がかかっているのを確認した後、どうなさいました?」

 ホウは少し天上を向いて思い出すと、元気そうに話した。

「何もなかったですわ!ふいに眠くなってしまいまして、すぐに部屋へ戻ってしまいました」

 良かった、俺らの事は見られていないらしい。彼女は放っておいても影響はでなさそうだ。

 これで俺が咎められる心配はない。

 なんだろう、こんなことを心配しているなんていつもの仕事と変わらないじゃないか。スクープの為に危険を犯して、鍵開けやら危ない技も身につけて。

 今回ぐらいは休んでいいじゃないか、まったく。

「お話ありがとうございました。機会があったら、また」

 彼女は「えぇ。」と言うと廊下側の窓から茂る雑木林を眺めに行ってしまった。

 せめてこれ以上何も起こらない事を祈りたいな。

 心の安らぎを得た俺は、花音に話しかける。

 彼女は心配そうに、

「大丈夫なんでしょうか…、私悪いことのつもりじゃ」

と明らかに動揺していた。先ほどまでの俺もこんな感じだったのだろうか。じゃあ彼女をなだめるのは俺の役目なのだろう。

「伯父さんに聞かれたら本を借りに行ったって答えて。伊高さんに話せば入れてくれた事にしてくれるかもしれないし、別に悪い事をしたわけじゃないよ」

 そう言うと彼女は少し俯きながら笑った。

「ありがとうございます。伊高さんにも、伯父にもちゃんと説明します」

「それがいいよ。ホウさんも俺らの出てくるまではいなかったみたいだ」

 そう言うと彼女は俺の方を向き直り話しを繋げた。

「え?それじゃあ…」

 忘れてたんだ、忘れてた。さっきまでは実に幸福な休暇になれば良いって願ってたんだ。

「私たちが追いかけたのは誰だったのでしょう」

 もう一人書庫を訪れて、真っ先に報告すべき事があるハズの人物がいるハズなのだ。

 暗闇に内側から鍵を開けて二人が出てくるのを見た人物が。その二人の内一人、俺に追いかけられて何処かへ消えた人物が。

 どうやらあの願いは叶いそうにないな。

 多分、コレが始まりだったんだ。これから起こる出来事の。

やっと少しずつ事件(?)に触れ始めました。どうもお久しぶりです。

今まで読んでいてこの三章も読んでいただける方、偶然見つけてここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

このシナリオは例の影と『多次元多角形』が絡むシナリオとなっています。

今の時点での構想だと全員を生存させて終了をさせたいのですが、変わるかもしれません。

完結(まだ遠いですが)した後は、続編を作るかもしれません。

それでは、また逢いましょう。

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