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chapter1 始まり

 今では有名な話だが、遥か昔にこの星に現れた宇宙人があの大海に眠り、大陸とともに復活を待っているという。

 そして、彼らを邪神として崇め、復活に手を貸す人々までいるという。

 これもその神に関わる物語だ。

 それともう一つ言っておかなければならない事があった。

「この物語には主人公が六人ほどいる、そしてこれは俗にいう『シナリオ』である。」

 分厚い本の一文だけをぽつと呟いて私は、そのもう二度と読まないだろうその本をばすんっと大きい音をわざとたてて閉じた。






「玲さん、お手紙ですよ」

 デスクワークに勤しんでいた私のもとに茶色い封筒が手渡される。

 配達してきた部下だか上司だか知らない男は私が受け取ると、忙しなく働く人々の中へすぐに消えてしまった。

「まったく、誰よ。こんなクソ忙しい時に…」

 乱暴に封筒を開く、大層偉そうだった外見の割に、中身はペラ紙一枚だけの手紙だった。

 忙しい忙しいと言っておきながら私は悠長に手元に置いておいたコーヒーを取る。

『今月至極忙しいとお思いですが。貴女様を私の誕生日に招待したいと……』

「忙しいの知ってるなら送ってくるんじゃないわよ、で、どれどれ?」

 口では悪態をついているが、興味津々だ。誕生日パーティー?私の知り合いにそんな金持ちはいないはずだが。

 いや、あの事件の時に出会った……名前が思い出せないが、あの裕福そうな女性だろうか。ハッキリとは思い出せないが、そんな女性が居た気がする。

 確かインチキ宗教がナントカという事件だったか。

「まぁ、どうでもいいか」

『この招待状は貴女様の旧友である霧斗 魔理(きりと まり)様にも送らさせていただいております。』

 懐かしい名前だ、中学校からの付き合いで、確か警察学校卒業までは一緒だった。あの元気さが忘れなれないんだよな。

 アイツは確か、地元の方に配属になったんだっけか、懐かしいな。

 私は羽呉 玲(はくれ れい)、警視庁に入ったは良いもののその後ずーっとしがない警察官だ。

「まっ、あのバカ面を久しぶりにおがめるのなら、行ってみてもいいか。」

 休暇が取れるかどうかは知らないが、パーティーなんて一回も行ったことがないなと思いつつ、どこか心がワクワクしていた。そりゃぁ、普通の家庭に生まれて一生懸命勉強して、覚えたくもない体術まで覚えた。そんな人生で今までで一回もない花々しいパーティーだ。

 気持ちが高揚しながらも、手紙に書かれていた住所を携帯に打ち込む。

 いらなくなった封筒をクシャクシャにしようと手に取る。ふっと送り主の名前が目に入る。

『伊高 優・伊高 セーシル より』

「んー、ホント覚えてないのよねー。なんで魔理の事知っていたのかしら」

 今思えばこの封筒、ほのかに良い匂いがする。封筒の癖に値が張りそうだ。もっと別の事にお金を使えばいいのに。

 ただの丸まった紙となりはてた元高級封筒を足元にあったくずかごに投げ入れる。

「おら、玲。手紙読み終えたならさっさとまとめておけよ、昼時ぐらいでいいぞ」

 上司のくせに偉そうに。手紙を読んでいた私の背後に現れたのは八雲 平坂(やくも ひらさか)。外見は博識豊かなインドア派に見えるのだが、内面は柔道武術なんでもこいというアウトドア派の男だ。

 まったく手紙を読んでいる相手に失礼じゃないのか。後ろから急に声をかけるなんて。

「偉いんだよ。マスコミのせいで署長が痩せてく前に何とかしたいんだからな」

 なんで心で思ったことがわかるんだ。

「わかりました…、あと次の休みは忙しくなりそうです」

 上司は背中を向け、左手をヒラヒラさせながら「あいよ。」と言いながら自分のデスクに向かって行った。あーいう現場主義の男はどうにも好きになれないわ、私。

 手紙をクリアファイルに挟み込み、あらかじめまとめておいたファイルの内容をもう一度確認する。

『連続誘拐事件 20XX:6』

 簡潔に言ってしまえばただの誘拐事件、被害者と思われているのは女性が多め。死亡していたという知らせもないために全員まだ行方不明扱い。

 ただ、数が尋常じゃない。6月初めから13人、現在は7月の中旬。市内には私服警官や警備員が大量に配置され、集団下校が良く見られるようになっていた。

 犯人の目星はまだついていない。なんせ、被害者には共通点がないのだ。ただ好みの女性を襲っているってだけの変態が犯人かもしれないけど。

 まぁ、こんな気持ち悪い事件から離れられるんだったらなんだって構わないんだけどね。

「これまとめて、何になるんだか…」

 呆れながら私は愚痴を吐いた。




「魔理!手紙だよ」

 緑色になびく広陵なる田んぼ、それを眺めながら麦茶を飲んでいた私に手紙が届いた。

「なんだ?私は今、お休み中だぜ?」

 強引に手紙を手に押し込まれて、お婆ちゃんは去って行った。まるで嵐のような婆だ。

「ったく。楽でいいけど、つまらないぜ」

 趣味で固められた私の部屋は、一見してしまえば男性のものにしか見えないほどのモデルガンが飾ってある。その近くには有名な国産ロボットアニメの悪役機体が天高々と剣をかざしていた。

 公僕なのに何故サボっているかというと…いや、休んでいるかというと、誰も頼ってくれないからだ。

地元だからって配属先を頼み込んだら、とんだ田舎にまで飛ばされてしまった。ズルだけどな。

「えーと、あぁー。伊高さんか、久しぶりだな」

 送り主はこの近くに大きな屋敷を持っている投資家だかなんだかの人だった。確か出会ったのはまだ真面目に働いてた頃に出会った奥さんと仲良くなったんだっけか。

「おっ、羽呉も呼んでるのか。元気してるかな、アイツ」

 懐かしいなぁ。警察学校まで一緒にくっついて、レズ疑惑をかけられて羽呉が変に動揺した時は本当に大変だったんだぜ。アレは拙かった。まずなんで一緒に寝てたんだろうな、あん時。

 伊高さんはよく知らないが、数回、奥さんがティータイムに誘ってくれた時、話したっけな。

 私はベッドに背中から飛び込み、手紙を読み続ける。どうやら私と羽呉以外にも客がいるようだ、まぁ当然だ。で、私は近いから早いうちに迎えに来てくれるそうだ。

「ん。もう昼か。おーい!今日の昼餉(ひるげ)は何なんだぜー」

「そうめんだよ!降りてきな」

 私は小声で「またか…」と呟いた。なんでこうそうめん好きなんだろうな。漢字で書いて素麺だぜ?

美味しそうな気が一つもしないんだが。

 三日連続合計九回目のそうめんの襲来、うづらの卵を入れる、山菜を添える等々のアイディアによって今まで堪えてきたがこれはまずい。もうネタがない。

 どうしようかと考えながら私は一階にある食卓へ着き、適当に近くにあった新聞を読み始める。

「誘拐事件か。玲の奴が話すとしたらこーいうのだな。もっと面白いの聞きたいぜ」

 呆れるほど積み重なったそうめん、それを力なく支える皿。あーあ、こうなるんだから、余るほどそうめんなんてもらうんじゃなかったぜ。親戚も考えろぜ、まったく。

 そのそうめんを送ってきた一端の友人 羽呉 玲が関係しているであろう事件の記事を読みふける、まぁアイツにもこんな陰湿な事件から離れてパァと遊ぶ時間ぐらい必要だろうしな。

 そもそもアイツ、あんな都会の方に行っちまって。友人とか飲み仲間とかいるんだろうか。いや、アイツは飲まないな、寂しい思いをしているなら会った時に抱きしめてやろう。アイツ、小さいし。

「こら、食事中ぐらい新聞読まない」

 私いつも新聞読んでるわけじゃないんだけどな…。おとなしく新聞を元あった場所に戻すと、味の変わらないそうめんを食べる作業へ戻る。

「こう、オカズとか無いのか?天ぷらとか、小さいのでもいいからさ」

「はいよ」

 梅干し。小皿のど真ん中にしわしわの紅一点。これ、白は白でもそうめんだぜ?白米は?

「これしかないよ」

 渋々そうめんの真上に乗せてみる、見栄えはそんなに悪くないがいかんせん梅干しが小さい。山盛りのそうめんに対して小さすぎる。足りないよ、コレ。

 意を決して少しちぎった梅干しの破片とそうめんを口に入れる。

 すっぱい、すっぱいんだが。

「イケないことも無いんだぜ…」

 そうめんばっかでおかしくなったのかもしれないな、私の味覚。

「ま、きっと美味い飯が食える。我慢、我慢」




 暇だった。

 このご時世に探偵業と言ったら、浮気調査とか会社間の牽制なんて仕事しかないわけで。

 一時期波に乗ったからと言って部下を雇い、そっちに仕事をまかっせきりだ。

 そう、することが無い。

「なんかこう、でかい仕事とか無いかな…」

 部下二人は今、ヒステリック気味だった主婦の浮気調査依頼で出払っている。誰も茶を入れてくれる人がいないっていうのは考え物だ。浮気調査ぐらいだったら一人で出来るだろうに。

「そのまま寝ないでくださいね…」

 すぐ耳元からうるさい声がした。距離が近い。耳元は止めろと言うに。

木原 広(きはら ひろし)、木原探偵事務所の主任。もっとシャッキリしてもらわないと」

「じゃぁ、お茶をお願いできる?楽にしてるところ悪いけど」

 一瞬こちらを睨んだ後、二人分の湯飲みを用意してお茶を入れてくれる。彼女は通 花音(とおり かのん)、兄貴の娘だ。親戚だからと紹介され、探偵事務所にアルバイトへ来ている。

 普段、部下がいるときには良く茶くみでもなんでもしてくれるのだが、二人になると急に静かになる。頭は良いんだがな、困り者だ。

 計算高いというか何というか、根は良い子なハズだ。昔の小さくて兄貴のそばにぴったりとくっついてた頃の面影はほとんど無くなっている。

 コンコンと、乾いた音が聴こえた。

「どうぞ」

 慣れた声で客人を招き入れる。

 客人はメイドだった、しっかりしたメイド服を着ている。雇われだと一発で解る。

「花音、お茶をもう一つね」

「はい、主任…」

 客の前だからか素直に従う。したたかだ。

 お茶が運ばれるのを待ってから話を伺う。明るい表情を隠しきれない彼女、推測するにストーカーや浮気ではないことが解る。

「こういう場所は初めてですか?」

「は、はい!」

 湯呑に軽く触れるとまだ熱い、この季節で煎茶とは私の助手は良いセンスをしているようだ。一見すると湯気の立つ湯呑は私のだけだ。

「ご用件は?何かにお困りとか」

「私、お屋敷勤めなんですが。この度パーティーを開くことになりまして…その、警備とかを…」

「何か狙われるような心当たりが?」

 彼女は首をフルフルと動かす。

「いえ、でもー危ないかなって。人も多い方がいいでしょうし。あんまり人を呼ばないらしいですし」

 要するに護衛とは名ばかりのパーティー招待ということだろうか。それで報酬も見込める、願ってもいないチャンスがやってきたのだ。

 助手のふりをしている花音も本を読む手を止めチラリとこちらを伺っている。断るなら、口を出してでも説得してくるだろうな。

「わかりました。それで日時をお伺いしたいのですが」

 彼女の顔がわかるぐらいぱぁとさらに明るくなる。

「はい!下に車を止めてあるので…、その…、今からでも」

「今からですか?では参考にパーティーの日にちの方を」

 本当はコッチを聞きたかったのだが、仕事熱心なのかまっすぐなのか。まぁ、悪くはないメイドさんだ。

 花音も興味津々だろう。先程から1ページも読んでいないばかりか、お茶にも手を出していない。

「三日後です」

 わざとらしく顎鬚に手をやって考えるフリをする。もったいぶる必要はないのだが優秀のように見せるには必要なテクニックだ。少なくとも俺はそう思う。

「引き受けましょう。ここからどれほど離れているのでしょうか、貴方の勤めているお屋敷は」

「んーと。一時間ちょっとぐらいかなぁ…」

 一時間というとこの町の端っこぐらいだろうか。自分の足がない状態では戻ってくるのは大変そうだ。

 必要な者をまとめる時間を貰い、バックを引っ張り出す。

「手帳手帳…、ペンはそこにあるな。ん?」

 視線を感じる。気配を感じ取り、振り向くとズボンの端を掴む花音の姿があった。

 何だ。この鬼気迫る雰囲気は。

「どうした。俺は準備で忙しいんだ」

「主任…、私は?」

「そりゃぁ、留守でも頼みたい」

 握る力が強くなる。あぁ、そういう事か。

「…主任」

「わかった。わかったから、荷物を用意しろ。車には乗れるだろう」

「わかりました」

 冷静を装っているが、絶対内面でははしゃいでいるな。断ったら刺されかねん雰囲気を感じたのは久しぶりだ、冷や汗が頬を流れ落ちる。

 心臓を落ち着かせてから荷物の選別を再開する。手帳、ペン、着替え、ハンカチ…話からすると泊まり込みになりそうだ。

 デスクの棚を引くとスタンガンが顔を出した。使われたことのない真新しい物だった。

「こいつを使うことにならなきゃいいがな…」

 こうして花音と俺は三日後に始まるパーティーの警備のために雇われたメイドの不安極まりない運転に揺られて館へと向かった。



「もうすぐですよ!」

 森の中にうっすらと残っている道を車が走る。

 町外れの山の上にあるお屋敷が舞台らしい。物を取りに帰るのは本当に無理そうだな。

「ほら、付くぞ?」

 肩に頭をもたれかけている花音を起こす。その時、森が晴れレンガ造りの屋敷が視界に入り込んだ。

 古くはないが、使い込まれている。重々しい雰囲気もある。そして赤いレンガとその間に見える繋ぎが緊張感を煽る。

 メイドが小さな駐車場に車を止めると俺らは車から外へ出る。

 辺りは木々に囲まれ、木漏れ日が差し込んでいる場所もある。遠くからは川の流れが聞こえ、都会では味わえない空気が満ちていた。

「これが、お屋敷ですか。立派ですね」

 花音が少しウキウキした口調で喋る。

「あぁ…、案内を頼む」

「任せてください!ご主人方も玄関に来てくれているそうです!」

 早速屋敷の主と顔見せらしい。ネクタイを締め直し、意味もなく咳を吐く。

 玄関の大きなドアを開け、メイドが「こちらへ」と誘導する。

 そこに居たのはラフな格好をした20代男性と金髪の女性、こちらも20代ぐらいだった。彼らがこの館の主なのだろうか。もっとご老体で金持ちらしいゴテゴテした指輪でも付けていると思っていたが、二人の指には白く輝くエンゲージリングがはめられていた。

「どうも、伊高です。さっ、中へ」

 男の方が玄関すぐにある広間のドアを開け、女性が入り後に続く。

「すみません、こんな山の奥に。お茶でいいですか?」

「ありがとうございます。まぁ、仕事なので」

 花音は女性の方と話しているらしくその会話が聞こえてきた。広間は集団で食事をとることを想定してか中央に大きめのテーブルがあり、それを囲むようにしてイスが置かれていた。

「お若いわね。学生さん?」

「はい」

 彼女の喋り方はやんわりとしていて聞き取りやすい日本語だった。

 だが、その目は青色で肌は色白。ヨーロッパ系だろうか、美人だ。

「奥様はどれぐらい日本に?」

「私と出会う前からですから、8年程でしょうか」

「どおりで、日本語が上手だと思った」

 メイドが四人分のお茶をお茶をそれぞれの前に静かに置く。さて、これからは仕事の話をしなくてはならない。メイドが部屋から出たの確認して主人に質問を開始する。

「今回は警備との事ですが。何か、狙われるような覚えが?」

 主人は飲んでいたティーカップを置き、思案する。

「その事については、夜にでも二人でお話させてください」

 ―――怪しい。主人を疑っているわけではない。これは、何か知らないような事がある。そして、それを知らなくてはいけないという疑いだ。

「わかりました。では、この屋敷の構造について少々お聞きしたいのですが」

「どうぞ」

「外見からして…、二階建てですか」

 主人は上をさしながら答える。

「屋根の裏にも行けるスペースがあります。倉庫として使っています。三階建てです」

 その後、いくらかの質問をしたあとは主人が興味を持っていた以前の依頼であったちょっとばかし有名な事件の話をした。

 花音も楽しそうに話している。あんな顔、俺の前じゃ絶対にしないぞ。

 美味い茶を口に含み、中庭が見える窓に目をやる。赤や黄色い花が綺麗に整えられて咲いている。中央には噴水があり、静かに水が溢れている。

「これは、どうなるかな……」

 俺は小声でそう呟いた。先が見えぬ恐ろしさに少し、怯えながら。

 全員が笑っている。そんな明るい部屋の中で、俺ひとりだけが暗がりの中にいるような気がした。

初めまして。つたない文章ですがお読みいただけたなら嬉しいです。

セッション用に用意したシナリオを少し改変して小説のようにしてみたのが今回の作品です。

タイトルはそんなに考えなかったのですが、主人公は六人いてそれを意味しています。

長編になるか以外に早く終わるかはわかりませんが、最後までお付き合いいただければありがたいです。

それではまた。

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