第65話 北の空の向こう
夜の帳が降りた谷に、焚き火の炎だけが揺れていた。
竜は、巨体を低く伏せたまま、金色の瞳でレオンたちを見下ろしている。
「まず、名を告げておこう。」
低い声が、地面を震わせた。
「我が名は、ガルディオス。かつて『扉の番』を務めた竜だ。」
「ガルディオス……。」
レオンは、その名を口の中で繰り返した。
目の前の画面に、図鑑の項目が静かに更新される。
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【図鑑更新】
古の竜 → ガルディオス
分類:竜種(扉の番)
状態:拘束解除
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「俺は、レオン。こっちが、リリアとアレス。それからフェンと、ミラだ。」
「ワウ。」
「ホゥ。」
竜の瞳が、小さな梟に留まった。
「星を映す梟か。……久しいな。その眼を持つ者に会うのは。」
「ミラのこと、知ってるの?」
リリアが尋ねる。
「環を成す点を巡る旅の、道案内役だ。昔の星を継ぐ者たちは、皆、その眼を携えていた。」
ミラが、誇らしげに胸を張った。
レオンは、小さく笑ってから、本題を切り出した。
「教えてほしい。扉のこと。影の主のこと。そして、俺が行くべき場所のことを。」
「よかろう。」
竜は、ゆっくりと瞼を閉じ、遠い記憶を辿るように語り始めた。
「遥か昔、この地には、星の力を継ぐ者たちがいた。彼らは、あらゆる力の源に触れ、あらゆる力を操った。」
「全部の職業の、力を……。」
「そうだ。そして彼らは、ひとつの扉を封じた。その扉の向こうには、世界の理を揺るがすほどの力が眠っていたからだ。」
竜の声が、わずかに低くなる。
「封印を成す鍵は、六つの点を結ぶ『星の環』。六つの遺構に、星の力を宿し、環を閉じた時にのみ、扉は開く。開けるのは、星を継ぐ者のみ。」
「石版に、あった通りだ。」
アレスが呟いた。
「そうだ。彼らは、必要な時に、自らの意思で扉を開くために、その仕組みを作った。……だが、王が現れた。」
「恐れた王、か。」
「王は、星を継ぐ者の力を恐れた。彼らを貶め、最弱の烙印を押し、その血と力を歴史から消し去った。……我が仲間も、ほとんどが散り散りになった。」
竜は、ゆっくりと息を吐いた。
「我は、最後まで残り、扉の番を続けた。しかし、あの影が現れたのだ。」
「影……。」
「あれは、自らを『扉を開く者に仕える者』と呼んだ。主の名は、明かさぬ。……だが、我は感じた。あの影は、この世のものではない。」
「この世のものじゃ、ない?」
「影の主は、扉の向こうに在った者かもしれぬ。或いは、扉の向こうから来た者かもしれぬ。……いずれにせよ、扉を、内から開けたがっている。」
焚き火が、ぱちりと爆ぜた。
誰も、言葉を発せなかった。
「影は、星を継ぐ者を探していた。環を閉じられるのは、継ぐ者だけだ。自らの手では閉じられぬから、お前に閉じさせようとしている。」
「だから、手甲を欲しがった。」
「そうだ。だが、お前が望まぬのなら、決して環は閉じない。……影は、お前を殺せぬ。殺せば、扉が永遠に開かなくなる。」
レオンは、ゆっくりと息を吐いた。
「それなら、少なくとも俺は、すぐには殺されないってことだな。」
「だが、仲間はどうなる?」
アレスが、低く尋ねた。
「お前の仲間は、人質に取られるかもしれぬ。……そうでなくとも、影の手下に襲われることはあろう。」
「だよな。」
レオンは、仲間たちの顔を見渡した。
「だから、俺は急ぐ。影が動く前に、西の遺構に着く。」
「西だ。」
竜が言った。
「六つ目の点は、西の果て。星墜ちの断崖の底に、最後の遺構がある。……我が封じられたのも、その点を守るためだった。」
「星墜ちの断崖……。」
「ミラの星図に、その点が灯るはずだ。道を示してくれる。」
ミラが、ホゥと鳴いた。
小さな梟の眼に、銀色の光が灯る。
夜空に、八つの銀の点が浮かび上がった。
そのうちの、西の端の点が、他よりも強く、白く光っている。
「……あれが。」
「ああ。」
竜は、深く頷いた。
「環が閉じるまで、まだ猶予はある。だが、長くはない。……星を継ぐ者よ。」
金色の瞳が、レオンを見据えた。
「お前は、強い。だが、ひとりではない。それを、忘れるな。」
「ああ。」
レオンは、仲間たちを見回して、頷いた。
「分かってる。」
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【扉の番の証言・星墜ちの断崖の位置判明】
+10Pt
【今回の獲得】
+10Pt
【運命ポイント】
5Pt → 15Pt
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◇◆◇
翌朝。
谷には、静かな朝日が差し込んでいた。
焼けた岩場の雪が、きらきらと溶け始めている。
レオンは、野営の跡を片付けながら、今日の無料10連を開いた。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、白、白、白、青、白、白、白、白。
「Rが一つ。」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《スキルカード:投擲術》(R)
物を狙った場所へ正確に投げる。
由来職業:盗賊
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【スキル習得】
《投擲術》 ★1
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「盗賊系の技か。」
レオンは、手の中の煙玉を軽く弾いた。
「これなら、煙玉を狙った場所に、確実に当てられそうだな。」
全職業から引ける。
その意味が分かった今、一枚一枚のカードが、ずっと重く、ずっと楽しく感じられた。
「レオン、準備できたよ。」
リリアの声に振り返ると、荷造りを終えた仲間たちが揃っていた。
「出発するのか。」
竜が、ゆっくりと首をもたげた。
「ああ。西へ向かう。」
「ならば、これを持っていけ。」
竜が、長い爪の先で、自らの胸の鱗を一枚、剥がした。
淡く金色に光る鱗が、レオンの手に収まる。
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【NEW】
《古竜の鱗》
扉の番の証。竜の魔力が宿っている。
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「これは?」
「我が加護の証だ。……西の遺構の守り人たちは、この鱗を見れば、お前が味方だと分かる。」
「守り人……まだ、いるのか。」
「ああ。我より、はるかに古い者たちがな。」
竜は、穏やかに目を細めた。
「我は、この地に残る。影の手下が戻ってこぬよう、谷を守る。……お前が戻るまで、な。」
「分かった。ありがとう、ガルディオス。」
「礼を言うのは、我のほうだ。」
竜の瞳が、静かに揺れた。
「お前たちが来なければ、我は、永劫に鎖に縛られたままだった。……必ず、生きて戻れ。」
「ああ。約束する。」
レオンは、拳を握って答えた。
◇◆◇
谷を出て、南へ下る道すがら。
アレスが、不意に口を開いた。
「レオン、リリア。ひとつ話がある。」
「なに?」
「ギルドの依頼は、遺構の調査と、竜の動向の確認だった。竜は解放されて、遺構も調べた。依頼自体は、完了したことになる。」
「うん。」
「俺の臨時パーティの契約も、そこで終わる。」
レオンは、足を止めた。
そうか、とだけ思った。
寂しいと感じなかったわけではない。ただ、アレスなら、そう言うだろうとも思っていた。
「だが。」
アレスは、続けた。
「西へ行くんだろう。星墜ちの断崖へ。」
「ああ。」
「ならば、俺も行く。」
「え?」
リリアが、目を丸くした。
「でも、アレスさんには、自分のパーティが……。」
「連中は、まだ怪我が癒えていない。復帰まで、ひと月はかかる。それまでの間、俺は動ける。」
アレスは、淡々と言った。
「それに、あの影は、勇者の力に興味を示していた。放っておくわけにはいかない。」
「つまり。」
レオンは、口の端を上げた。
「引き続き、よろしくってことでいいのか。」
「ああ。ただし、ギルドへの報告が先だ。ドルンさんに事の次第を伝え、それから西へ向かう。」
「分かった。」
リリアが、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、これからも、三人と二匹で、よろしくね。」
「ワウッ!」
「ホゥ!」
フェンとミラが、元気よく応える。
アレスは、少し照れたように視線を逸らした。
「……よろしく頼む。」
レオンは、その背中を見つめて、小さく笑った。
感傷なんて、ない。
ただ、頼もしい。それだけで、十分だった。
◇◆◇
谷の出口にさしかかった時。
レオンは、ふと足を止め、振り返った。
遠く、北の空に、黒い影が舞い上がっているのが見えた。
翼を大きく広げた、竜の姿。
ガルディオスが、朝の光の中を、悠々と飛んでいた。
その向こう、雲ひとつない北の空が、どこまでも広がっている。
「あの空の向こうに、まだ見ぬ遺構があるのかもしれないな。」
「全部は、無理だよ。」
「分かってる。でも、いつか、全部回ってみたい。」
レオンは、星継ぎの手甲を、そっと撫でた。
青い光が、朝日の中で、かすかに瞬く。
ミラが、レオンの肩で、ホゥと鳴いた。
その眼には、西の空に灯る、一つの白い星が映っていた。
「行こう。」
レオンは、前を向いた。
「西の果てへ。」
三人の足音と、フェンの駆ける音、ミラの羽ばたきが、雪の道を南へと下っていく。
北の空の向こうでは、竜の咆哮が、長く、長く、響いていた。
その遥か西、断崖の底で。
顔のない影が、静かに微笑んでいるとも知らずに。
(第66話へ続く)
【あとがき】
第65話を読んでいただき、ありがとうございました!
第5章「北の竜と、臨時パーティ」、これにて完結です。竜ガルディオスが語った「扉の番」の真実と、「西の果て・星墜ちの断崖」という次の目的地。そして、アレスの臨時パーティは、西への旅でも続くことになりました。
運命ポイントは5Ptから15Pt。無料10連では盗賊系スキル《投擲術》を習得しました。
次回から、第6章が始まります。お楽しみに!




