第19話 初依頼の報告
ブラッドファングウルフを討伐したレオンとリリアは、回復草を確認するとアルトへの帰路についた。
森を抜ける頃には日が傾き始めている。
「結局、回復草は十本揃ったね」
リリアが収納袋を覗き込みながら笑う。
「ああ。でも依頼より、こっちの方が気になる」
レオンは魔導収納鞄から黒い結晶を取り出した。
親指ほどの大きさしかない。
それなのに、見ているだけで胸の奥がざわつく。
「早くギルドで見てもらおう。」
二人は足を速めた。
◇◇◇
「依頼達成、お疲れさまでした!」
冒険者ギルドへ戻ると、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。
「回復草十本、確認しますね。」
一つ一つ丁寧に数え終えると、受付嬢は頷いた。
「問題ありません。依頼達成です!」
カウンターへ銀貨が並べられる。
「報酬、銀貨八枚になります。」
「ありがとうございます。」
レオンは初めて自分の力で稼いだ報酬を見つめた。
たった八枚。
それでも、不思議と重みを感じる。
「冒険者になったんだね。」
リリアも嬉しそうに微笑んだ。
「……実は、もう一つ報告があります。」
レオンは魔導収納鞄から牙と魔石を取り出す。
最後に黒い結晶をカウンターへ置いた。
受付嬢の笑顔が消える。
「これは……。」
「回復草の採取場所で襲われました。」
「襲われた……?」
「ブラッドファングウルフです。」
「えっ!?」
受付嬢が立ち上がる。
「そんなはずありません! あの場所はホーンラビットしか確認されていない区域ですよ!」
その声を聞きつけ、一人の男が近付いてきた。
「騒がしいな。」
ガレスだった。
受付嬢は慌てて事情を説明する。
「ガレスさん、この二人がブラッドファングウルフを討伐したそうです!」
「……何だと。」
ガレスの表情が変わる。
「素材を見せろ。」
牙を確認し、毛皮に触れ、最後に黒い結晶を手に取った。
「……。」
珍しく何も言わない。
「ガレスさん?」
「こんなものは見たことがない。」
低い声だった。
周囲にいた冒険者たちも集まり始める。
「ブラッドファングウルフ?」
「E級が倒したって?」
「冗談だろ?」
ざわめきが広がる。
ガレスは周囲を一睨みすると、
「散れ。」
その一言で全員が口を閉ざした。
「レオン。」
「はい。」
「詳しく話せ。」
レオンは森で起きたことを最初から順番に説明した。
回復草。
静まり返った森。
逃げるホーンラビット。
異常なブラッドファングウルフ。
そして黒い結晶。
ガレスは最後まで黙って聞いていた。
「……依頼書を持ってこい。」
受付嬢が慌てて保管棚から依頼書を持ってくる。
ガレスは地図を確認し、眉をひそめた。
「やはりおかしい。」
「何がですか?」
「あの辺りでブラッドファングウルフが確認された記録はない。」
つまり。
本来いるはずのない魔物が現れた。
それも、偶然では済まされない。
レオンは黒い結晶へ目を向ける。
「これが原因なんでしょうか。」
「まだ分からん。」
ガレスは静かに首を振った。
「だが、無関係とも思えん。」
レオンは星詠みの片眼鏡を取り出した。
「一度、調べてみます。」
片眼鏡を掛け、黒い結晶を見る。
青白い文字がゆっくり浮かび上がった。
────────────────
対象
???
解析
失敗
魔力反応
異常
情報不足
────────────────
「解析できない……。」
レオンは思わず呟く。
今まで片眼鏡で解析できなかった物は一つもなかった。
ガレスも画面を覗き込む。
「それが、お前の鑑定能力か。」
「全部は見えません。」
「十分だ。」
ガレスは黒い結晶を見つめたまま言った。
「ギルドでも調査する。」
「お願いします。」
「だが……。」
ガレスはレオンを見る。
「お前たちにも、もう一度現場へ行ってもらうことになるかもしれん。」
レオンは頷いた。
「分かりました。」
冒険者になったばかりの自分たちに、こんな仕事が回ってくるとは思わなかった。
それでも、不思議と嫌ではない。
ガチャ師だからこそ見つけられる何かがある。
そんな予感がしていた。
ガレスは受付嬢へ視線を向けた。
「依頼達成報酬に加え、異常個体討伐の特別報酬を支給しろ。」
「はい!」
受付嬢は帳簿を確認し、銀貨を数えていく。
「依頼達成報酬が銀貨八枚。異常個体討伐の特別報酬が銀貨十枚。素材の買い取りが銀貨四枚です。」
銀貨がカウンターへ積み重ねられる。
「合計、銀貨二十二枚になります。」
「ありがとうございます。」
レオンは銀貨を受け取り、魔導収納鞄へしまった。
初めて依頼を達成して得た報酬。
村では味わえなかった達成感が胸に広がる。
「結晶はこちらでも調べてみる。」
ガレスは黒い結晶を見つめながら言った。
「ただ、何か分かったらすぐ知らせてほしい。」
「はい。」
レオンは頷いた。
今はまだ、この結晶について分かることは何もない。
だからこそ、調べるしかなかった。
◇◇◇
ギルドを出た二人は市場で足りなくなった保存食と水を買い足し、宿へ戻った。
「今日は本当に色々あったね。」
リリアが椅子へ腰掛けながら息をつく。
「ああ。」
レオンも苦笑する。
初依頼。
異常個体。
黒い結晶。
どれも予想外だった。
ふと、レオンは窓の外へ目を向ける。
「そういえば。」
「どうしたの?」
「今日はまだ引いてなかった。」
リリアはすぐに意味を理解した。
「無料十連!」
レオンは頷く。
「無料十連、開始。」
目の前の景色がゆっくりと薄れていく。
次の瞬間。
見慣れた白い空間へ立っていた。
静寂の中、一冊の巨大な本が現れる。
表紙には古代文字が淡く浮かび上がり、静かにページがめくれていく。
一枚。
また一枚。
白い光。
白い光。
青い光。
白い光。
白い光。
青い光。
白い光。
――金色。
思わずレオンは息を呑んだ。
「また金……。」
金色のページは一枚だけ。
残る二枚は青く輝いている。
レオンは一ページずつ開いていく。
────────────────
【無料10連】
《登録済》
・保存食(三日分)
・火打石
・丈夫なロープ
・木のコップ
・止血布
・魔石(小)
・回復薬
・革の手袋
・携帯地図
────────────────
最後の一枚。
金色のページがゆっくりと開いた。
まばゆい光が辺りを包み込む。
────────────────
★★★☆☆ SR
【NEW】
《魔力探知の腕輪》
周囲に存在する魔力反応を微弱ながら感知できる魔道具。
探索時や異常な魔力を探す際に効果を発揮する。
────────────────
「魔力探知の腕輪……。」
レオンは腕輪を手に取る。
黒い結晶。
異常個体。
まるで今日起きた出来事に合わせるような一品だった。
「これも、運命なのかな。」
誰に聞かせるでもなく呟く。
巨大な本が静かに閉じる。
光が溶けるように消え、気が付けば宿の部屋へ戻っていた。
レオンは腕輪を見つめ、小さく笑う。
「明日は、これも試してみよう。」
黒い結晶の謎。
そして、新たに手にした魔道具。
冒険者になったばかりの二人の前には、まだ知らない世界が広がっていた。
◇◆◇
【あとがき】
第19話を読んでいただき、ありがとうございました!
初依頼は無事達成しましたが、黒い結晶という新たな謎が残りました。
そして今回の無料10連では、新たなSR装備《魔力探知の腕輪》を獲得!
この腕輪が今後の調査でどのように活躍するのか、ぜひ次回もお楽しみください。




