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遠ざかる鉄格子の馬車を、なす術なく見送った。
その落胆は大きく、馬車が去った後、観光客でざわつく通りでぼんやりと立ち竦む。脳裏から、美しく変貌したファンの顔が頭から離れない。そのオーグランドに、情報屋の女が走りよった。
「軍が動いてる?」
「それが、どうもきな臭くて。リードが水面下で人を動かしてるみたいで、なんか嗅ぎ回ってるみたいです」
「……リードが、珍しいな」
駐留軍部隊長であるハレー・リードは、事なかれ主義で有名だ。殺傷などの大きな事件にならなければ、大抵は見て見ぬふりで通り過ぎる。
「確か、今回の奴隷の中に王族の血筋が居ますよね? 会場に伝達しますか?」
「……放っておけ」
古びた事務所の前、二人の真横を観光客が無関心に通り過ぎるが、この会話を身を潜めて聞いている者が居た。
「……あとこれは別件なんですが、テハナの新人情報屋、あいつ、消えたらしいですよ」
奴隷オークションへの警戒、部隊が動いているという危ない情報よりも、オーグランドが強く反応した。それに古参の情報屋は首を傾げる。
「消えた?」
「なんでも、店はそのままで本人だけが突然居なくなったそうで」
「……なんだ? あいつは、間抜けだけどそんなに怨恨は無かったはずだけどな…」
ファムファン島内において、他の組織がオーグランドが使う情報屋に手を出すはずがない。
(お嬢が……、あんな新人の情報屋に手を出す事はあり得ない。……じゃあ、軍か?)
珍しく思い耽るオーグランド。情報屋の女は疑問にそれを見つめたが、二人の背後にいつの間にか少年が立っていた。
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オークション会場に軍が乗り込んだ事は、過去に一度もなかった。
名ばかりの駐留軍が、騎士団の旗を掲げて、前触れもなくオークション会場に抜き打ち検査を行うと宣言したのだ。
集う商人たちは、違法とされる商品を大慌てで必死に隠す。
麻薬、盗品、その中でも届け出をしていない奴隷の売買をファムファン王国は禁じている。商人の女は、急ぎ闇で集めた奴隷を隠すため裏山への扉を開いた。
屈強な男たちに突き飛ばされる様に裏口に追いやられる。
「騎士団?」
同じ事を思い、騒然となった小屋の入り口を振り返ったが、自分は口に出していない。エメイエアは、声の主に気付いて驚いた。
自分の目の前、血の通わない魔物の真白い唇から、可憐な少女の声がした。だが背後から強く押されたエメイエアは、錠に繋がれ裏口から続く森の中に引っ張り出される。
声を出すことを禁じられ走るように急かされる、森の中に現れたのは暗い洞窟だった。
(ここから、逃げる方法はあるだろうか?)
入り口の見張りは二人だが、外に何人いるか分からない。温度が低く酒の樽が壁面に並んでいる洞窟は他に通路がなく、出入り口は一つだけだった。
魔物を恐れて、布を被るだけの子供たちは洞窟の奥、逃げるように身を寄せあっている。真後ろで声を聞いたエメイエアは、人か魔物か思いあぐねていた。
「……!」
振り返った人外に美しい顔、不思議な色の青の瞳に見つめられ、エメイエアは目線が定まらずに目を逸らした。
「エメアって知ってる?」
「!?」
見透かす様に見つめた後に、エメイエアの名を呼んだ。やはり魔物だったと戦慄したが、直ぐにある違和感に気が付いた。
名を知らなければ、知ることの出来ない愛称。だがそれを問う魔物は、エメイエア本人を知らない。
「……知らな「だよねっ」
「…………」
試しに嘘で返すと、魔物は幼児の様に言い返してきた。
(本当に、魔物じゃないのか?)
口を閉じれば美しい魔物に見えるが、口を開けば人間に見える。
「僕はファン。君の名は?」




