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第二十話 もう一つの割引セール

 ペペの家は知っている。先にボルネの家に行った。ボルネの家は小さく、畑も小さい。既に収穫を終えたのかピンクの花は咲いていない。隣の豆畑を手入れしている農夫に声を掛ける。


「アガペの花を買いたかったんですが、もう収穫を終えましたか?」


 農夫はユウタを怪しみながらも教えてくれた。

「ウチの分はもう収穫が終わったよ。マリオットやペペの所はまだあるかもしれんがね」


「相場がわからないんですが、アガペの花は高価なんですか」


「生花の相場なんてのはないよ。欲しけりゃ言い値で買うんだね。昔は違ったが、アガペの花を育てる奴は減ったからな」


「生産者が減ったのは育てづらいんですか」

「街での需要が落ちたんだ。昔は魔除けとして先祖の墓に供える風習があった。だが、下火になったんでね」


 魔除けの花というが、ユウタにはなんの影響もなかった。ゴブリンにも影響がない。

「他所の者がいうのもなんですが、魔除けは迷信ですよね?」


「言い伝えはある。昔の話だ。ギリメカラという悪魔が国を襲った。ギリメカラはアガペの花の匂いを嫌ったので、この地方は無事だったとの話がある」


 偽聖職者が振りまく粉。あれは花の匂いを消すためなのか?


 気になったのでマリオットの家に行く。マリオットの家の畑からも花は全て収穫されていた。畑の枯れ草を処分している農夫に質問する。


「アガペの花を売っていただきたいのですが、残っていますか?」

「ないよ。赤い紋章を付けた冒険者さんが残っていた全部を買って行ったよ」


「冒険者は買った花を街に運ぶ気でしたか」


「個人で使うには量が多かったから、街まで売りに行くんだろうね。忌々しい事件に赤い紋章の冒険者さん巻き込まれたから、購入した花どうなったかは知らん」


 冒険者が死んでいた場所は丘の上。街まで続く道から離れている。冒険者は誰かの依頼でアガペの花を運んで殺された。


 青い記章の冒険者は不自然な量のアガペの花を見た。青い記章の冒険者は、赤い紋章の冒険者がゴブリンと取引していると理解した。


 理解が誤解かどうかはわからない。全容が見えてきた。首謀者はアガペの花を村から失くそうとしている。


 首謀者がギリメカラなのか、ギリメカラを召喚しようとしているのかわからない。だが、このままでは村が滅ぶ。急いでペペの家に行くと、ペペが花を収穫している最中だった。


「ペペさん収穫を待って! アガペの花を僕に売ってください」


 ユウタを見たペペがきょとんとする。

「売るのはいいけど、そんなに慌ててどうしたの?」


「アガペの花が必要になったんです。必要なのはもうちょい先になります。鮮度を維持したいので、切らないでください」


 不承不承だがペペは了承してくれた。


「恩があるユウタさんの言葉だけど、あまり待てないよ。アガペの花があるとゴブリンがやって来るって言うだろう」


「畑から花が盗まれたんですか?」


「いや、まだ盗まれてはいないよ。白い羽のメルルさんが教えてくれた。アガペの花があるとゴブリンが寄ってくるって」


 ゴブリンの情報はメルルから来ていた。村に広まっていない理由はメルルがアガペの花の生産者にのみ嘘を吹き込んでいるからだ。


 ペペの話は続く。

「危ないから早く売りたかったんだけどね。うちは花の開花時期が遅れたからね。収穫が遅れて不安だったよ」


 人間関係が繋がった。首謀者はメルルだ。メルルは目的を隠してアガペの花を村から取り除いている。無関係な冒険者を雇い、老婆を騙して花の匂いも消している。


 ここで最後のアガペの花が消えたら、もうメルルの計画は止められない。


 首謀者がわかったが、まだ戦わない。ユウタはメルルの計画の要となるギリメカラについて村の人々から話を集めた。


 漠然とした情報が集まらない。民話や昔話は教えてくれた。ギリメカラは象のような顔を持つ。巨体である。とにかく強い。新月の夜に現れる。花の匂いが苦手。それくらいしかわからない。


 また話す人毎に細部が違う。全容が掴めない。そうしている間に時刻は夕方になった。


 曖昧な情報が多くて搾り切れない。ユウタは望みをかけて『天啓』を使用する。頭の中で情報が追加され、共に整理されていく。


 ギリメカラはレベル八の悪魔。夜になると活動的になり、昼間は動かない。魔の灰を降らせ、砂嵐を呼び、暗闇を纏う。

 

 ただし、ミソハギ科の臭いを嗅ぐと能力は制限される。他の悪魔から進化する場合は新月であれば進化費用が四割引きになる。


 昨日は暗かったが新月ではなかった。月の形から推測するに明日の晩が新月だ。メルルは村を襲って略奪した金でギリメカラに進化する気だ。レベル八の悪魔に進化するのならメルルはレベル七の何かの悪魔だ。


「大金を持っているのなら、他の悪魔に襲われる危険がある。進化したところに強い冒険者がいたら殺される。田舎の村に強い冒険者などいないと、メルルは思い込まない。現にレベル六の僕が介入しているからメルルの予感は当たっている」


 メルルに進化を許したらユウタの負けだ。メルルを倒すか撤退させればユウタの勝ち。メルルに村を襲うところまで進ませたら、どっちに転ぶかわからないので不明。


 作戦が決まった。明日に冒険者をアジトに送り込んでメルル側の勢力を減らす。メルルが冒険者としてアジトに行って冒険者を討つとする。それなら同行してメルルと決戦に臨む。


 メルルが村に残るとする。その場合は、メルルを見張る。メルル単体で村を襲うのならメルルと戦う。仕事を終えたと思い込んだ冒険者をメルルが奇襲するのなら妨害する。


「作戦は見えた。どのケースでも成り行き任せだ。決定打がほしい」


 夜になる。ユウタの予想通り夜空にはまだ月が出ていた。明日の夜にメルルが作戦を実行するのなら、まだ残っているペペの畑が荒らされる。


 畑を見張っていると予想通りゴブリンが六体現れた。ゴブリンはユウタに気付かない。ゴブリンをユウタは奇襲する。


 スチルロンで硬化した腕でゴブリンを殴ると、二発で倒せた。いきなり現れてユウタに仲間を殺されてゴブリンは恐慌状態になった。逃げるゴブリンの中で一番トロそうなのを捕まえた。


 喚いているゴブリンの口を掴んで脅す。

「お前、金を持っているか?」


 ゴブリンが首を横に振る。

「じゃあお前の主は金を持っているか?」


 ゴブリンが頷く。顔を近づけてさらに脅す。

「主の金はアジトにあるのか?」


 恐怖したゴブリンは首をプルプルと横に振る。メルルは金をアジトに置いていない。当然といえば、当然だ。ゴブリンに盗まれたなら大馬鹿者だ。


 ユウタは手を離すとゴブリンは一目散に逃げる。


「メルルは金を隠し持っている。村から奪った金だけでは足りない。メルルの隠し金を奪えば料金不足でギリメカラに進化できない。そうすればメルルは少なくとも明日の作戦を中止する」


 夜が静かになったので、瞑想状態で朝を待つ。朝日を浴びたユウタのギフト使用回数が回復した。『天才力』を使って村の資産を計算する。


 村の規模からして村にある金の量は金貨五百枚と見積もれた。メルル一人では朝まで探しても金貨五百枚は発見できない。


 頑張っても三百枚が良い所。レベル七から八に上るには金貨で六百四十枚必要。四割引きなら三百八十四枚。


 割引を使うのだからメルルの所持金は金貨百枚前後。メルルの有り金を奪えば、メルルの計画は停まる。金貨百枚を大金貨十枚に両替しているのなら持ち歩ける。隠すにしても場所に困らない。


 村から金を集める手段を潰す。メルルの隠し金を奪う。両方できればこの勝負は勝てる。

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