第十九話 上位存在
ゴブリンが仲間の死体を漁る。作業に夢中のゴブリンは単体なので捕まえられる。ユウタは泳がせることにした。ゴブリンが機嫌よく冒険者や仲間の死体から品物を回収した。
ゴブリンが帰る時にユウタはゴブリンの後ろを尾行する。
一度気付いたのかゴブリンが振り返った。アスオクで地中に隠れてやり過ごす。ゴブリンには気付かれずに済んだ。夜が明けきる前にゴブリンは大きな木に辿り着いた。
不自然に大きな木だと、不審に思った。ゴブリンが木の中に消えた。大きな木は幻影魔法による偽装だ。中にはアジトがある。踏み込めばゴブリンのアジトは潰せる。不用意に飛び込みはしない。
隠れて様子を見ていると、幻影の中からグレー・オーガが出てきた。グレー・オーガはどこかに歩いて行く。
「グレー・オーガとゴブリンは繋がっている。グレー・オーガが今回の事件の首謀者とは思えない。もっと上位の存在が首謀者だ。首謀者は何をしようとしているんだ?」
単純な村への襲撃なら既に決行している。首謀者は単純に村からの略奪を考えているわけではない。村には戦える男が六十人はいる。冒険者も二十名近い。
仮にゴブリン五十人にグレー・オーガを加えて村へ進行するとする。ゴブリンとグレー・オーガは返り討ちに遭う危険性が高い。
首謀者が襲撃に失敗すれば、村では大規模な掃討依頼を出す。同時に村の防備も固めるから次はない。
「悪魔が首謀者なら目的は金だ」
首謀者は確実に村から金を奪うにはどうしたらいいか考えているはず。ユウタは首謀者が考えた方法が思いつかない。
村に残る冒険者にアジトの位置を教えてやってもいい。冒険者を使ってゴブリンとグレー・オーガを始末はできる。冒険者側に犠牲が出るが、戦うのが冒険者の仕事である。
「いつでもできることは急がなくていい。敵の首謀者の作戦が既に最終段階ならゴブリンとグレー・オーガを討ち取っても意味がないかもしれない」
足りない情報を集めるためにユウタは村に帰った。村に帰ると村の雰囲気が変わっていた。不穏な空気が流れていた。宿屋のほうから人々のざわめきが聞こえる。
宿屋に行くと、人だかりができている。村人の顔には不安げにささやき合っている。
「怖いね。宿屋の裏口で冒険者が三人殺されるなんて、今まで聞いたことないよ」
「獣を退治にきていた赤い紋章の冒険者だろう。殺されたのは夜中だってさ」
昨日は村にいなかったので状況がわからない。宿屋は村の中にある。外からきた魔物と偶然遭ったと考えるのは無理がある。三人揃って外で殺されたのなら、誰かに呼び出された可能性が高い。理由は口封じだ。
赤い紋章の冒険者は知ってはいけない何かを知った。または、見てはいけない何かを見た。こうなると赤い紋章の冒険者とゴブリンの間の繋がりが怪しい。疑惑は青い記章の冒険者の話が真実ならば、だ。
あまりいい状況ではない。死体を隠さないのなら、首謀者は一気に計画を進めてくる。ないしは計画が完成直前かもしれない。
首謀者はユウタがアジトを発見した事実をまだ、知らない。アジトを冒険者に襲われたとする。首謀者の計画が狂うかもしれない。『かもしれない』の範疇でしかない。
ユウタが判断に迷っていると青い記章を付けた冒険者が寄ってきた。
青い記章の冒険者はかつてに話し出す。
「村の中で冒険者が襲われるとは酷い話だ。殺された三人は普段着のままだった」
青い記章の冒険者の中では、ユウタは容疑者に入っていると悟った。下手に会話に乗ると危険だが。危険を冒さないとわからない情報もある。
「噂で宿屋の裏口と言っていましたが、鍵は開いてたんですかね」
「状況からして内側から開けた形跡があった」
「赤い紋章の冒険者が中から開けたのなら、知り合いが外に待っていたんでしょうね」
「可能性は高い。赤い紋章の冒険者は出たところを複数人に襲われて殴り殺された」
「それなら外で戦闘音が聞こえたんですか?」
「深夜にわずかな間だが争う物音を聞いた人間がいる。よくある喧嘩だと思い音を聞いた人間は外を確認しなかったのが悔やまれる」
青い冒険者の情報に怪しさを感じる。ユウタは顔に出さないように努力し思案する。
「なんかおかしい。青い記章の冒険者が親切過ぎる。現時点では、僕も容疑者なのに冒険者の口が軽過ぎる」
ユウタが場を離れるようとした。青の記章の冒険者が声を掛ける。
「美味い朝食を出す飯屋が知りたいなら教えるぞ」
「贅沢は不要です。塩味のパンとお茶さえあればいい。あとは涼しい木陰でしょうか」
深く探りをいれられたくはない。犯人ではないが、正体がバレたら犯人扱いだ。
寝ていないので木陰で瞑想し時間を過ごす。村の人からしたら旅の老人なんておかしな人である。ユウタへの評価は変わらない。瞑想していると頭が冴えた。ギフトが再使用できるようになった。
情報収集に動くにはいいかもしれない。空を見上げると、陽はまだ高い。お昼前だと理解する。
事件のあった宿屋の裏に行く。宿屋の裏には薪が置いてあった。茂みがあるが見通しは良好である。死体は既に運び出されていた。地面には人の足跡が多数残っている。
どれが誰のものかは、判別ができない。血の跡を探すが見当たらない。
「撲殺なら斬殺や刺殺に比べて流れる血の量は少ない。だが、こうも血の跡がないのは不自然だ。複数人が隠れる場所もない。宿屋の裏口は待ち伏せには不便だ。だから、被害者の赤い紋章の冒険者も油断した」
青い記章の冒険者は嘘を教えていた。犯行は毒や魔法によるものだ。犯人は一人ないしは、二人程度だ。青い記章の冒険者はユウタを疑いボロが出るか待っていた。理由はわかる。
ユウタは魔法屋で毒ないし呪いの暗黒魔法を購入しようとしていた。ユウタは危険な村の外にも出ている、昨晩のアリバイもない。常に一人で行動している。どこに泊まっているのかも不明だ。
「青の記章の冒険者に疑うな、というほうが無理だな。僕だって怪しいと思うぞ」
誰かがユウタを監視していると気付いた。おそらく青い記章の冒険者か白い羽の冒険者だ。犯人が現場に戻ってくる可能性を考えての措置だ。
「やっていないんだけど。僕への疑惑が深くなっていく。これも首謀者の策なんだろうな」
現場を去るが、誰かが尾行している。いきなり走り出して撒くのは馬鹿だ。気付かない振りをして、村の中をブラブラと歩く。
ユウタを見ると、村人は視線を向けるが挨拶はしてこない。子連れの村人は必ずユウタを避けた。村の中を見回るが、怪しい人も、怪しい物もない。気が付けば冒険者の尾行も止んでいた。
「一人で解決するのは難しい。時間切れもあるかな」
昨日は『天才力』を使用したので、今日は『天啓』を使用した。頭にピンクの花が浮かぶ。色々と情報が繋がりだした。
「村を見たからわかる。村の名産品である生花は生産している。だが、ペペの家にあったピンクの花がない。丘でゴブリンと冒険者が争った跡には、どこからか持ち込まれたピンクの花があった」
古着屋の主人の証言ではゴブリンによる被害は数年なかった。ペペはこの辺りでゴブリンが活動していたとの話と食い違う。ペペはゴブリンを見てゴブリン・スカウトだと種類まで当てた。
「ペペさん何か知っているな」
いきなりペペを追求してはいけない。まだわからない情報が多過ぎる。ペペの家に行くと裏の畑にはピンクの花が咲いている。こっそり一輪積んで村の人に尋ねる。
「この花を売っている農家さんを知りたいんですが、わかりますか?」
ユウタに話し掛けられた村人は嫌そうな顔をする。ユウタを怪しんでいた。だが、花を買いたい客なら教えないと、花農家が損をする。嫌々だが教えてくれた。
「ピンクの花はアガペの花だね。アガペの花を生産しているのは三件だけだね。ペペさん、ボルネさん、マリオットさんだね」
ユウタは三件の生産者の家を教えてもらった。ペペの家だけで生産されていると思ったが違った。




