第十八話 食い違う話
村の入口には大怪我をした冒険者が三人いた。三人の冒険者はどこかに赤い紋章を付けていた。他にも血と泥にまみれた冒険者が五人いる。こちらは青い記章を付けている。
三人と五人の冒険者は別のパーティだ。
近くの村人二人の会話が聞こえた。
「赤い紋章は獣を追い払いにいった冒険者だよな。獣を見ないと思っていたが、いつのまにか数が増えていたのか?」
「いいや、ゴブリンの集団に襲われたそうだ。危ないところを青い記章の冒険者が助けたんだ。残念だが赤い紋章の冒険者は二人が犠牲になったんだと」
別の村人二人の会話も聞こえる。
「ゴブリンが出るなんて、知らなかったわ。怖いわ。退治できたのかしら?」
「赤い紋章と青い記章の冒険者がある程度は倒したけどまだいるって話よ?」
ゴブリンの脅威が村に近付いている。しかも、冒険者二パーティでも倒しきれないのならかなりの規模だ。
人々が囲みを避ける。一人の老婆が現れた。小奇麗な身なりでシンボルが付いた立派な紐付きのベレー帽子を被っている。
帽子には白い羽も飾られていた。どこかの聖職者かもしれないが、詳しい宗派はわからない。人々が「ルルー様よ」と囁きあう。
ルルーが村人に威厳をもって語る。
「悪魔じゃ、悪魔がこの村におる。悪魔がゴブリンを率いておる。悪魔を追い出さねば、村は滅びるぞ」
ルルーの言葉に村人が不安になる。
「清めねば、清めねば」とルルーが謎の粉を撒いた。匂いは魔法屋で嗅いだものと同じだ。
善意かもしれないが、ルルーの言葉が村の不安を煽っている。
ユウトがルルーに当然の疑問を尋ねた。
「具体的に悪魔はどこにいるんでしょうか?」
ルルーは目をカッと見開いた。バレたかとドキリとしたが、ルルーは驚嘆の声を上げる。
「救世主じゃ、救世主がおる。どうかこの村を救ってくだされ」
いきなり救世主宣告を受けてドキッとしたが。幸い村の誰も信じている様子がない。
ルルーは完全な偽聖職者だ。目の前にいる悪魔を救世主と間違えるなんて誤認も甚だしい。
ルルーは自分の言葉を疑っていないので性質が悪い。しかも肝心な悪魔がどこにいるかを教えない。不安を煽るだけの迷惑老婆でしかない。
ルルーに間違っていることを理解させるのは無理だ。付近の人を見ても救世主宣告が信じられていない。村でのルルーに対する評価は高くない。だが、不安を煽る言葉は確実に村の中を歩いている。
ルルーの帽子に付いた羽と同じ白い羽を付けた六人の冒険者の一団がきた。装備はそこそこで腕も素人よりは立ちそうだ。
冒険を三回か四回終えたルーキーに見える。六人からなる白い羽の冒険の者のリーダーも聖職者で若い女性だった。金色の髪で落ち着いた雰囲気がある。リーダーがルルーを宥める。
「悪魔を探る調査は進んでおります。もう少しお待ちください。ルルー様」
白い羽の冒険者のリーダーの言葉にルルーは厳かに頷く。
「メルルよ。希望の星よ期待しておるぞ」
メルルの仲間の白い羽の顔を見るが、意気込みが見られない。『仕事だからやっている』感がありありと出ている。メルルと白い羽の冒険者の四人に連れられてルルーは去っていった。
一人残った白い羽の冒険者が怪我をした赤い紋章の冒険者に質問する。
「ゴブリンは多いのか? ロード種はいたか?」
「正確な数はわからないが、まだ二十はいる。ゴブリン・ロードの存在は確認できなかった。統率は取れていた。誰かが操っているのは確かだ」
会話の内容に引っかかった。怪我をした冒険者は「率いられて」とは表現せず「操られて」と口にした。言い間違いかもしれないが、気になった。
「そうか」と短く白い羽の冒険者は答えると、厳しい顔で去った。
怪我をした赤い紋章の冒険者が立ち上がった。自分たちを救助に来た青い記章の冒険者に礼を言い、宿屋に向かった。
残った青い記章の冒険者は、赤い紋章の冒険者の後を追わず顔を見合わせる。
気になったので救援に行った青い記章の冒険者に話し掛ける。
「なんでしょうね、あの態度。もっと丁重に礼を言ってもいいでしょう。命の恩人なんですから」
青い記章の冒険者の一人が不機嫌に答える。
「俺たちに現場を見られたのを隠したかったんだろう」
青い記章の冒険者の言い方だと、赤い紋章の冒険者が単に襲われていた状況ではない。
ユウタはもう少し掘り下げたかった。
「現場とは――」と口にすると、残っていた仲間の青い記章の冒険者が口を挟む。
「よせ、憶測で物を言うな。余計に混乱する」
青い記章の冒険者たちはユウタの言葉に応えず場を去った。
「アンナが心配するわけだ。わけのわからん状況になっている」
怪我人を連れて冒険者が集団に戻ってきた。当然、村の入口には、冒険者がどこから来たかの痕跡が残っている。
ユウタは冒険者たちの足跡を辿る。足跡は固まって移動していた。時間も経っていなかったので追跡は容易かった。二時間ほど追跡すると小高い丘に出た。
丘には赤い紋章の冒険者の死体が二つ残っていた。ゴブリンの死体も十八残っていた。
丘の上からだとドイナカ村がよく見える。現場で起きた流れを推理する。
「ゴブリンは村を見張っていた。獣を追っていた赤い紋章の冒険者が遭遇。そのまま戦闘になる。ゴブリンに増援がくる。赤い紋章の冒険者が全滅しそうになる。そこへ戦闘音を聞いた青い記章の冒険者が助けにくる」
状況としてはありそうだ。だが、それでは青い記章の冒険者たちの言葉の端々がおかしい。現場を調べると現場にピンクの花が多数落ちていた。周りを見るが同じ花は咲いていない。
「戦闘で散ったわけではない。ゴブリンが運んだのか? なんのために?」
理由を考えてもわからない。時間が経てばゴブリン仲間が遺体を回収に来るかもしれない。ユウタは隠れて見張った。夜になるがゴブリンはこない。新月が近いのか、月がほとんど出ていないので暗い。
辺りは暗いがユウタの目にはしっかりと見えていた。
ゴブリンの代わりに狐や狸がやってきて死体を齧る。人間もゴブリンの死体も雑食性動物には餌でしかない。
ユウタはここで疑問に思った。
「赤い紋章の冒険者は依頼通りに獣を狩り終えたのか? もし、クマ、猪、狼がまだ多く残っているのなら、死体を齧りに来ないのはおかしい」
別の可能性はとしては中型や大型の獣はいた。だが、冒険者が倒す前に駆除されていた。小柄なゴブリンでも数に任せれば狼や野犬なら狩れる。熊や猪を狩るには難しい。
「グレー・オーガなら熊や猪でも狩れる。なんのために熊を狩る。食料が必要なら村の家畜を襲うほうが楽だ。村から食料を調達せず、森の中で入手するように誰かが指令を出していたのか?」
昼にあったグレー・オーガは交渉が不可能だった。誰かに命令されているないしは、操られているのなら交渉はしない。
「村の中には悪魔はいないかもしれない。どこかに何かを企む悪魔がいるな」
ゴブリンやグレー・オーガを操る悪魔が何かを企んでいる。何をやろうとしているかわからないが、ユウタとバッティングした。他の悪魔が先にいるのなら村を去るのが賢い。
「でもなあ、もう報酬をもらったしな。報酬は返すこともできんからな」
悪魔だから、人間が嫌いというわけでもない。まだ見ぬ悪魔に親近感もわかない。報酬を受け取っておいて「はい、さようなら」は気が引けた。
朝まで見張ると明け方に一人のゴブリンがこそこそやってきた。行くなと命じられたが、落ちている品欲しさにやってきた強欲な個体だ。




