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50 外出編・飲み屋の前で

 レポートが終わった。提出期限が来週月曜までの課題を金曜の夜に終わらせる俺ちょー有能。


「千と千尋でも借りてこようかな……あ、電話」


 携帯が震えて画面には『五月女乙葉』の文字。


「どうした」


『あ、えっと、三日尻君ですか?』


「誰?」


 この声は五月女じゃない。五月女の携帯から五月女じゃない人の声。


『私、乙葉ちゃんの友達なのですが、今日は学部の同級で飲み会やってて、えーと、すっごい飲んで、赤ワインが飲みやすくて……あと……なんだっけ?』


「飲み会で五月女が潰れたから代わりにあなたが電話して俺に迎えに来いと言いたいの?」


『そう! それです! 三日尻君すごいですねっ』


 電話の主は呂律が回ってない、後ろがギャーギャーと騒がしい、これだけで五月女がどこにいるのかは容易に想像つく。


「なんで俺なん? そっちでなんとかしたらいいだろ」


『それがですね、男共がこぞって乙葉ちゃんを送るとか二次会に連れて行くとか言って乙葉ちゃんを狙っているのです。私達ではカバー出来ないので三日尻君の助けが必要なのですっ」


「えー、めんどい」


 やっとレポートを終えて一息つけると思ったのに。


『乙葉ちゃんが他の男に襲われてもいいんですか!』


「自業自得だろ」


『……本当にヤバイです。今も乙葉ちゃんに男共の手が迫ってきてます』


 妙に声のトーン下げるな。シリアス感を出すなよ。


 ……送りオオカミやホテル連れ込む奴はいる。そんな奴らが五月女を……


「場所はどこ。飲み会はもう終わる?」


『おっ、さっすが。三日尻君の面倒見の良さは飽きる程聞いてまっせ~』


「いいから早く教えろ」


 素早く服を着替えて部屋を出る。はぁ、千と千尋はお預けか。






 金曜の飲み屋街は大勢の人で賑わっていた。華金ってやつね。大半が大学生なのだろう。


「あっ、三日尻君ですか?」


「お前が電話した奴か」


 店の前にはワラワラと立つ大学生がざっと三十人ぐらい。店を出て今から二次会っしょ的な雰囲気を感じる。

 その端にいた女子数人と、それに囲まれた五月女。


「ほら乙葉ちゃん起きて」


「彼氏が迎えに来たよ~!」


「う、うーん……私まだ彼氏いないよ? 三日尻君は、えへへ、まだ彼氏じゃないけど~…………ふぇ?」


 女子に肩を借りた状態の五月女はトロンとした顔で俺の方を見る。目がうつろで、顔が紅潮して、髪の毛先が唇にくっついている姿はどこか煽情そそる色気があった。


「確かにこれはワンチャン男子のカモにされるわ」


「……三日尻君?」


 ピンク色の唇が動いて弱々しく俺の名を呼ぶ。五月女は最初固まっていたが次第に目を開いていって口をパクパクとさせていく。


「え、え? な、なななんで三日尻君がいるんすか!?」


「何言ってるの乙葉ちゃん、ずっと三日尻君の名前呼んでたくせにー」


「あまりに言うから私が電話して呼びましたー」


 戸惑う五月女を挟む形で女子達がニヤニヤと笑って五月女を小突いている。


「な、なんで勝手に呼ぶのっ。ちゃんと言ってよぉ……」


「乙葉ちゃんには何度も言ったよ。酔い潰れて聞こえなかった?」


「うぅ~。私、今とても見せられる顔してないよぉ」


「いやエロ可愛い顔してるよ。ホント乙葉ちゃん可愛いなぁ」


 五月女とその友達の会話を聞きながら、ふと違和感がある。五月女の語尾が、というか喋り方が普通なのだ。一人称も私だし。


「お前いつもの喋り方はどうした」


「え……あ、ぁ、な、何を言ってるんすか。自分はいつもと変わらないっすよ!」


 嘘つけ今絶対変えたよな。


「三日尻君の前では喋り方変えているんだよね~」


「照れちゃうからだよね~。あと違う喋り方で特別な相手として」


「ちょ、い、言わないで!」


 ニヤニヤ、ニヤニヤとする女子友達に対して五月女は顔を真っ赤にして暴れる。

 ……その後ろでは、男子数人がチラチラと五月女の様子を伺っているのが見えた。いやらしい目、隙あらば襲ってやろうという目。


「五月女、帰るぞ」


「ぅ、三日尻君。……っす」


「歩けるか?」


 女子達から五月女を預かる。と、一人の女子が俺の耳元で囁く。


「他の男共には一切触れさせてないので安心してください。守りきってみせましたっ」


「……どーもご苦労様」


 五月女はフラフラとしており一人では立てないでいた。俺にもたれかかってベッタリと抱きつく。


「キャー乙葉ちゃん大胆~!」


「ヒューヒュー!」


「や、やめてよっ。あうぅ……」


 落ち着けよ。ああやって冷やかすことで後ろの男子達を牽制しているんだよ。お前の友達、良い奴らだな。


「じゃあ後はよろしくお願いしますねー」


「乙葉ちゃんバイバイ」


 女子達は団体について行くらしい。手を振りながら見送ってくれる。


「この幸せ者~!」


「彼氏と仲良くねぇ」


「もうっ! からかわないでよ……っす」


「っすをつける必要はないぞ」


「う、うるさいっす!」


 五月女は赤い顔のまま、俺に抱きついたまま、上目遣いで恨めしげに睨んでくる。


「なんで来たんすか……」


「お前が潰れたって聞いたから」


「……そうっすか」


「帰るぞ」


「……っす」


 賑わう街中、俺と五月女はくっついたまま家へと帰っていった。

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