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夢のまとめ  作者: 七色
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 奏は熱が下がり、すっかり元気になった。薬草もあるし、暫くは大丈夫だろうが、遅かれ早かれまた熱を出すだろう。薬草だっていつまでもあるわけじゃない。このことを斑は気付いているはずだ。深層心理の魔法説が本当ならば、少なくても奏は帰せるかもしれない。1人で帰すには彼女は幼すぎる。きっと溌も帰れるだろう。そして斑も、そしてもしかしたら―


 「草詩様」

 

 ぎゅ、と拳をにぎった草詩が、にっと笑ってやってきた御倉を見る。


 「どうしたの」

 「大変です。斑様と奏様が」

 「…えっ?」



 「誘拐された!?五年前のお父さんに!?」

 「申し訳ございません!」

 

 現在の溌に土下座され、草詩は頭を抱える。ちょっと席を外してる隙に大変なことになった。あの一縷も今にも泣きそうだし、常盤は巫女塔に帰ったのだろうか、遊馬はといえば、今にも体内の炎が爆発寸前のような雰囲気だ。草詩も草詩で、心臓の一部が持ってかれたように痛い。

 

 「もういいから、頭上げて。うざい。それより、どこか心当たりないの?自分が行きそうなところ」

 「恐らく…師匠のところかと思います。自分が魔法を教わっていた。きっと、斑と奏と元の世界へ帰るつもりです」

 「分かった、他心当たりないなら、そこに行こう。行くぞ草詩。一縷、お前は留守番だ」

 「い、嫌だ!私はここで斑殿をっ」

 「もし斑が城に帰ってきたときに、誰もいないんじゃどうしようもねえだろうが。可愛いドレス見せるんだろ」


 な、と肩を叩かれ、一縷は涙をこらえて頷いていた。ずっと控えていた佐倉、大倉、御倉が命令を待っている。


 「佐倉、お前は俺たちについてきてくれ。大倉、お前は一縷と一緒にいてやれ。それからみくっ」


 命令が終わる間もなく、大倉がすごい速さで城を飛び出していった。彼は斑を一番気にかけている。命令外の行動に、怒るどころか、ちょっと笑えた。


 「あれは、本当に人形か」

 「王の教育がいいんだろうね。じゃあ、御倉が一縷ちゃんといてあげて。じゃあ、そろそろ行こうか」



 すごい速さで走る馬の上、振り落とされないようにしがみつく斑は、声を張り上げ続けていた。胸の中には眠る奏、これだけ揺れる中、眠っているのはある意味ありがたいのだが。


 「お父さん!五年前のお父さん!何考えてるんだよ、帰ろう、みんな心配してるよ!」

 「奏はまた今夜にも、熱を出すかもしれんだろう!魔法熱は厄介なんだ!師匠に言えば、きっとお前たちを元の世界に帰してくれる!」

 「お前たちって…僕は帰るなんて言ってない!それに、お父さんは!?」

 「私は…っ、一緒に帰れるような父親じゃない…」


 ぐらり、と、馬から落ちそうになった。

 

 「何言ってんだよ今更!ギャンブルは止められないし、母さんに散々迷惑かけるし、おまけに別に女作るし奏まで作るし、おまけにその女の人出ていっちゃうし!こんだけ悪いことして、あと何しても吃驚しないよ!」

 「む、胸が痛い。言いたいこと、言えるようになったな、斑ちゃん」

 「五月蠅いな!僕はここが好きなんだよ!」

 「今なら、帰っても、いじめられないんじゃないのか?」

 「え?」

 「偽物の恋にしがみついて、本当に好きな気持ちは気付かないふりして、ずっとここにいるつもりか」


 だから。だから、この男は苦手なんだ。いつもいつも僕のことなんかどうでもいいような生活送ってるくせに僕にもういいってくらい愛情ふりまいて。僕の考えてること、僕より見透かして。


 「さあ、着いたぞ」

 「…っ、ここが?」


 月明かりの下、斑が目を凝らす。湖近くにぽつりと設営された小さなテント。馬を止めると、中から男が現れる。元の世界の占い師のような格好をしている。胡散臭い第一印象だ。


 「師匠、ただいま帰りました。息子の斑と、娘の奏です。元の世界に帰してやりたくて」

 「お父さん!」

 「そうか、では、こちらへ」



 テントの中は、更に胡散臭かった。あちこちに動物の骨を模した面が散らばってあり、それらしき古書が山積みにされ、床一面には魔法陣。中央には大きな水晶玉があった。座布団に男が腰掛けると水晶を挟んだ向かいに溌が座り、奏を抱いた斑も続いた。男は水晶玉を何度も回し、ふむ、と小さく呟く。

 

「なるほど。娘は最近、息子はずいぶん長くいるようだな。娘はともかく、息子は難しいかもしれん」

 「師匠でも、ですか?」

 「息子、斑といったな。溌からよく聞いておったわ。お前、相当の魔法使いだな。私より使えるかもしれん。自力で帰ることも出来ただろう。しかし、しなかった。なぜか。帰りたくない魔力の方が強いからだろう」

 「そんな…っ、私と奏がいても駄目か。斑ちゃん。そ、そうだ。みんなで、元の世界へ帰れば」

 「無理だよ。みんな王様だ。例え元の世界に帰るのを同意してくれたとしても、そしたら、あまりにも、大倉君たちが可愛そうすぎる。ご主人様がいないなんて。彼らは連れて帰れない。魔法がない世界じゃ動けない。それにもし一縷さんがついてきてくれたとしても、彼女はとても自分の国を愛してる。きっとずっと後悔してる。僕はそんな彼女と一緒にいたいんじゃない。僕は―」

 「斑!!」


 溌に詰め寄られ、斑ははっとなる。五年前の父は、こんな目をしていたのか。五年後の父と全然違う。

 

 「帰ろう!三人で帰ろう!この世界よりも、楽しい!」

 「そんなことお父さんが決めないでよ!僕だって、帰りたいよ!奏が可愛いし、お父さんが心配だよ!けど、この世界の人たちが大好きだよ!どっちか選べなんて僕には」

 「ああもう五月蠅い、早く帰ってしまえ」

 「…っ、奏!?」


 泣き叫ぶ奏が、水晶玉の中に消えるようにいなくなってしまった。慌てて追おうとした斑を、溌が後ろから抱きしめた。


 「何をしている、溌。元の世界に帰るんだぞ」

 「師匠!これは本当に帰れるんですよね!信じていいんですよね!」

 「ああ、もちろんだ。とっとと帰ってしまえ」


 ぱあん!!


 さきほどまで光を放っていた水晶玉が跡方もなく割れてしまった。すると、その割れた中から、火がついたように泣いている奏が出てきた。斑が慌てて抱きしめると、ここにいないはずの気配に気づいた。


 「ご無事ですか、斑様」

 「大倉君?!」

 

 大倉は斑を発見するなり、お風呂に浸かったようなため息を吐きながら彼を軽く抱きしめた。


 「はー、良かった。命令に背いて、あなたに会えなくては、壊されるかと思いました」

 「め、命令に背いたんだね。大丈夫、僕も一緒に謝るよ」

 「…っ、師匠!これは一体どういうことです!」

 「五月蠅い」


 男が溌めがけて魔法弾を放とうとし、斑が防ごうとしたが、胸元の奏に注意が引かれた。間に合わない、斑が叫びかけたそのときだった。


 どおおおおん!!


 すさまじい爆音と供に、テントごと吹っ飛んでしまった。煙がようやく鎮まると、男を踏みながら仁王立ちで立っている草詩が現れた。


 「ああ、良かった良かった。ほらゆうちゃん、斑君、無事だよ」

 「斑!」 

 「遊馬さん!」


 今度はこれでもかと強く抱きしめられ、そして、やっぱりお風呂に浸かったようなため息をつかれた。嬉しいが、同じくらいに情けなくもある。軽く遊馬に叩かれると、彼はその足で大倉を叩いていた。やってきた佐倉も、大倉を叩いていた。


 「王、申し訳ありませんでした」

 「いや、いい。斑が無事だったからな。それより、草詩。どうなんだ、その大師匠様の魔力は」

 「…っ、そ…お、お前、あの大魔法使いか!」

 「んー、んー、んー?」


 にやにや笑って嬉しそうに、草詩が上から下まで男を眺め、そして大笑いした。


 「ひっく、魔力なさすぎ。こりゃ、教えるまで、五年かかるわ」

 「…っ、どういうことですか」

 「あのね、魔法っていうのは、誰でも使えるわけじゃないんだ。使えないものはどれだけ努力しても使えない。逆に、使えるものは、三日も教えれば小さい炎くらい出せる。とんでもないペテン師だよ。君の師匠は」

 「…っ、そんな…あれだけ高い授業料を払うため、どれだけ…どれだけ!!」


 溌が男に殴りかかろうとすると、その拳を止めたのは、五年後の溌だった。


 「止めろ…この男を殴っても、金も時間も何も帰ってこない…殺されなかっただけでもありがたいと思え…この人は、金目的であれ、何であれ、私の生活を五年も保障してくれたんだ!」

 「お父さん、いい人すぎ。僕の旦那なら、ぐーぱ」


 どおん!!


 男が軽々山の向こうまでふっ飛ばされ、それを草詩が冷めた目で見ている。殴ったのは誰か考えるまでもない。


 「悪かったな、あんたが殴りたかっただろうに、我慢出来なかった」

 「いえ、ありがとうございます、王。胸のつかえがいくらか取れた気がします。ほら、五年前の私も、王や皆に謝-」


 ふり返ると、奏が火がついたように泣いている。五年前の溌はどこにもいなかった。慌てて探しに行こうとした皆を草詩が止める。


 「消えた」

 「元の世界に帰ったんですか?」

 「違う。存在そのものが消えてる。君たちがきた世界にも、この世界にもいない。まあ、おっさんが1人になったから、これが本来の形といえばそうなんだけど―」


 草詩がそう言うが、斑は顔を真っ青にして、すがりつくように奏を抱きしめている。五年前の溌がいたら、また面倒が起きてしまうと強く思った自分のせいかもしれない。それも恐ろしいことだがそれよりも何よりも自分の体の震えを止めないのは、この魔法の世界では、人1人簡単に消してしまうということだ。殺しもさせないくらい、あっという間に。


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