17
人気のない道を走って、走って、ようやく一縷が足を止める。
「着いたぞ」
「着いたぞって」
まさかこんな集落の真ん中に城が建っているとは思ってなかったが、そこは例えるなら、ビニールハウスのようなところだった。中が全て見えてしまっている平屋の建物で、似たような建物が連なっている。女子ども老人たちが、こちらを見るなり、わっと笑顔でかけつけてきた。
「一縷様!」
「ぃちる様ぁ!お帰りなさい」
「ただいま、ただいま、みんな」
一縷が笑顔で子ども達や女性を迎える。立派な王の顔だ、中へ通されると、なるほど、ひんやり涼しかった。ここは外の炎を感じさせない。子ども達が騒ぎながら、一縷を囲んで大声で話している。
「一縷様、今日は面白いお姉さんが着てくれてるよ」
「面白いお姉さん?」
遊馬が嫌な予感がして視線だけで(探したくもないが)探すと、早速見つけてしまった。机の上に斑を置いて、彼にかき氷を持たせ、その横でバナナのたたき売りのように草詩が机を叩いている。
「はいはいよってらっしゃい見てらっしゃい、おたくらの王様が惚れた美少年が作ったかき氷だよ、安いよ美味いよ」
「氷食べた-い」
「でもお金なーい」
「ははは、君たち可愛いねえ。じゃあ、君たちは特別にパンツ一枚で」
すぱあん!!
「あいたぁ!!」
「何してんだてめえは!」
「うわ、ゆうちゃんもう着いたの!?早っ!僕、めっちゃ飛んだのに」
頭をはったいた遊馬と草詩がもみあっていると、ふと斑がかき氷を机の上に置いて、ぱっと一縷の元へかけよった。
「どうしたんですか、一縷さん…真っ黒じゃないですか!」
「え、あ、い、いや…これは…っ」
それはさんざん炎の中を飛んできたからすすけただけなのだが、一縷は首まで赤くなるほど喜び、そして外まで走ると頭から泥水をかぶり、照れながら再び斑の前に踊り出た。
「ぼ、暴漢に襲われてしまっただけだ…大したことはない」
「ええ、大丈夫だったんですか!?」
「ねえ斑君、今の見てなかった?君、もう顔から眼鏡生やしたら?」
「ほっとけ、馬鹿につける薬はねえよ…むがっ」
くれとも言ってないのに、無理矢理かき氷を一口、口内でつっこまれた。驚いた、宇治金時味だ。僕も、私も、群がる子ども達に、草詩ははいはいと注いでやっている。やっぱりこいつは向こうの世界での記憶はあるのかと思いながらも、今は、言うのを止めた。
斑は外で子ども達と遊んでいる。すっかり人気者だ。草詩も悪のりして一緒に遊びたがっていたが、さすがに連れてきた。斑と子ども達は、戻ってきた佐倉たちに見させている。その光景を見ながら、一縷が少しだけ高級そうな座布団に腰を落とした。あれが彼女の玉座だろう。
「…はあ…子どもは三人は欲しいな」
「夢見てるところ悪いが王女様。はっきり言っていいか」
「斑殿との結婚は駄目か!?」
「いや、それは元より駄目だが」
すう、と遊馬が息を吐いた。気を使ったり我慢したりしている状況ではない。
「悪い、どうしていいか全く分からん。軽率に来るだけ来るなんて言って悪かったが」
「いや…貴方はとても素直だな。ありがたいよ。我も、どうしたらいいか分からないのだ。ずっとずっと分からないのだよ。多分、この先も分かることはない」
ぽつり、と、笑いながら、一縷が泣いた。
「我は、この国を愛している。いや、もう、この国を愛するしかないのだよ。私の人生はそう決まっておるのだ。自分の産まれてきた立場を、国を、年を、性別を、家族を、愛せない理由にしたくないのだよ」
一通り泣いた後、彼女は短く詫びると、泣いたことをごまかすように、斑たちのところに加わり遊びに行った。中にいるままの草詩を、遊馬が見る。
「どうにもならないのか」
「無理だね、これはほんと」
「あいつらを全員、水の国に移住させるのは」
「彼女の話、聞いた?あんなか弱い…まあ、みんなには男の子に見えてるだろうけど。どっちにしても二十歳に満たない子どもに石をぶつけるほどの嫌いっぷりだ」
「お前の魔法じゃどうにもならんのか」
「表面上はね。けど、そうなると、逆にこっちの人達が気の毒だ。彼らの中には、外に対する恐怖がずっと染みついているんだ。だからこそ、こんな土地で無理矢理にでも生きていく。殺されるくらいなら、ここで生きていくんだろう。人の気持ちを魔法で変えたって、ろくなことにならないこと、君は一度見てるはずだけど」
草詩にしては珍しく長く、そして説得力のあるものだった。この国に来たばかりの自分に何が出来る、元々いた世界の差別問題だって、首つっこもうとすらしなかったのに。
言葉が出ない遊馬を見て、草詩が小さくため息をついた。
「策がないことはないけど」
「本当か」
「ただし、あんまお勧めしないけどね」




