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「言ってみろ」
「戦争をするんだよ」
どうにか、殴りたいのを、突っ込みたいのを我慢した。続けろ、と言うと、草詩は少しつまらなそうだった。こいつ絶対わざとだな-これで続きがなかったら本当にぶん殴ろうと思っていたが、彼はまだ話し始めた。
「火と水が戦争して、うちが負けるんだ。そして、その負けた結果として、うちの一部を植民地として明け渡す。火の者はその土地を自由にしていい、ただし、お互いの領地を行き来するのは駄目だ。またもめるからね。これは絶対火も飲むと思うよ、ていうか、王様はあの子だから飲まないわけないんだけど」
「悪くはない」
「あら、褒められた」
「だが、結果が気に食わん。けが人や死人が出たら本末転倒だ。俺はむやみやたらに人が死ぬのが見たくないから、この国の奴らをどうにかしたいんだ」
「理想を語るのは簡単だけどね。実際難しいと思うよ。長いこと仲違いしていた国同士を何も捨てることなく中立にするっていうのは。捨てないと、得ないものもあるんだよ」
「分かってる、分かってるが、俺はこの我を通したい」
「うん、僕はゆーちゃんのそういうとこが好きだよ。でも、面白くないのは嫌いだ」
何の話だ、そう聞くより早く、草詩が遊馬の胸元にしがみついた。
「こんな国ほっといて、さっさと帰ろう。大丈夫、三日も寝れば忘れるから」
「…草詩」
「怒った?」
「いや、お前はまともなこと言ってる」
撫でる髪も、触れる頬も、自分を宥めているのだ。つい最近まで、自分は平和で治安のいい国に育ち、異世界でやってきた先もそうだ。テレビで見る他国の戦争も他人事だった。それが手が届くようになったからと言って、ほいほい助けようと思うのは、傲慢が過ぎるかもしれない。しかし。
「俺は後悔したくない」
「分かった、じゃあ、考える」
「ああ、そうしてくれ」
胸元の草詩が満足げに笑うから、遊馬も笑って、ふいに額に口づけた。瞬間、何やってんだと鈍器で自分を殴りたくなった。魔法か、魔法の力か。声が出せないでいると、向かいの草詩も驚いているようだった。言葉を探していると、いきなり大きな泣き声が聞こえた。
「どうした!?」
「ふえ、ふえええええ」
「おいっ」
泥まみれの子ども達は泣き止まない。子どもは苦手だ、遊馬が焦っていると、草詩がぱんっと両手を叩いた。魔法だろう、子ども達の涙が不自然に止まった。何だか可愛そうだが、これでようやく話が聞ける。
「ま、斑君といちる様が、連れていかれちゃったあ」
「何!?」
「ふええええっ」
「どっちに行った」
「ふえええええ」
「落ち着いてゆーちゃん、そんな泣きべそかいてるガキンチョに聞いても分かるわけないよ」
お前もっと言い方ないのか、ほらせっかくの魔法がもう終わって、また火がついたように泣いた-遊馬がげんなりとしていると、背を向けた草詩は忙しく魔方陣を描き、念じると顔を上げた。
「分かったのか」
「うん、大体は。助けに行けると思う」
「分かった、じゃあすぐに」
「遊馬様!草詩様!」
今度は何だ、振り返るとそういえば姿が見えなくなっていた佐倉たち三人が走ってきていた。
「お前等何やってたんだ、斑が」
「チューしてましたよね」
「燃やすぞ」
「失敬…非常時です。水の国に火が放たれました」
そんなヤカンが沸騰したみたいなテンションで-あまりのことに口が開けない遊馬の代わりに、後ろから草詩が顔を出した。被害は、と珍しく端的な説明だった。
「巫女塔の活躍で火は何とか…けが人もいません。しかし、一触即発状態です。いつ争い合ってもおかしくありません」
「分かった…っ、すぐ、」
「遊馬様たちは斑様をお救い下さい」
「そのような心配そうな顔で帰国されても、民は不安になります」
こいつらは失礼ながら核心をついてくるな、しかし、と粘る遊馬の後ろで、草詩が顔を出した。今日は珍しくというかなんというかよく動くしよく気の利いたことをしゃべる。
「大丈夫そう?」
「帰国は私たちだけで。斑様をどうかよろしくお願い致します」
「ああ、任せておけ。お前等も頼んだぞ」
深く、一番深く頭を下げたのは、斑を一番気にしていた大倉だった。拳を叩き合い別れる、草詩が走り、遊馬もついていった。草詩の足が速い。その理由はすぐに分かった。
「おい草詩。泣くな」
「…っ、うっさい」
足が速すぎて顔が見えないが、草詩自身、泣いてること自体悔しいようだ。笑えてくる。斑に教えてやりたい。この草詩が、誰を心配して泣いているか。今すぐ話したい。早く、早く迎えに行く。
悪人というのは総じて分かりやすいところに閉じこもったり立てこもったりするものだが、草詩が連れてきたところもベタベタだった。火の国の中では珍しくないかもしれないが、砂の中心にぽつんとそびえ立つ廃虚。蔦がはびこり、真っ暗だ。いかにも罠が仕掛けてそうだが、怯えるような二人でもない。
「入るぞ」
「ういっす」
ふと目が合い、お互い高速で顔を逸らした。顔はまさか赤くない、どちらかといえば青いと思う。お互い、さっきの不祥事を脳内から抹消することに必死だった。草詩も魔法を使ったらしい形式もなく、というかそもそも遊馬にはなぜか魔法が利かないから、自然にしたことになる。だからこそ余計怖かった。
「先生!もう駄目です!」
「挫けるな!俺ももうきついが」
罠らしい罠はなかったが、初歩的に嫌なものがあった。階段だ。永遠に続くのではないかと錯覚されるような長い長い螺旋階段、登りたくないと草詩は喚いたが、どうにか説得して登らせた。一階二階と登っていきながら探したい気持ちは分からないではないが、降りながら探していた方が後の精神的ダメージが全然違う。と思う。それに何の根拠もないが、この手の悪党はなぜか高いところが好きだ。
夜が白む頃、ぜえぜえ五月蠅い草詩を引きずりながらどうにか最上階に着くと、いかにもラスボスがいそうな部屋に辿りついた。遊馬は草詩を後ろに隠し、せえのっと扉を開けた。
「…あ。」
「あ」
開けるんじゃなかった。眠る斑の上で半裸の一縷が跨っていた。




