13
「あーあー、テステス。こちら草詩。異常なしです、どうぞ」
「こちら御倉、異常なしですどうぞ」
「トランシーバーもないのに不毛な遊びをするな」
時折、この城は草詩も含め馬鹿しかいないんじゃないかと思うことがある。人形たちに名付けたのも命令したのも自分ではあるが。
斑誘拐予告が届いてからというもの、笑えるくらいの速さで召し使い人形が集まった。それももういいというくらい大量に。城の周り、城の中、警備はもういいというくらい充実していた。人どころか鼠の一匹の侵入も許さない勢いだ。途中で(面倒で)止めなかったことを、少し後悔した。
「やりすぎだ。つうか今何時だ、もう日付変わるだろ。ほんとに来るのか」
「来ると思うよ。約束を破るのは性に合わないだろうからね」
「…は?」
遊馬が思わず草詩の顔を見ると、彼がにっと笑った。
「犯人に心当たりがある上に知り合いなのか」
「まーね。俺の予想が正しければね-」
あのね、とごにょごにょ草詩が遊馬に耳打ちし、遊馬はどんどん破顔していった。
「あのー、ちょっと多すぎやしませんか」
「斑様を守らないと我々の首が飛びますので」
あああの人なら本当に言いそう-斑は笑いながら、座り直した。愛情はありがたい、が、申し訳ないが重い。斑の寝室には、足の踏み場もないくらい召使い人形たちが控えていた。まだ見ぬ誘拐犯よりも恐い。任せて眠っていいとは言われていたが、眠れたものではなかった。
それでも斑が日付が変わる瞬間、眠るようになる草詩の魔法はまだ健在だ。魔力には敵わず、斑がうつらうつらまばたきを繰り返していると、小窓に何かぶつかる音がした。何だろうと顔を上げると、傷ついた小鳥が冊子に倒れ込んできた。珍しい赤い色の小鳥だ。
「…あ、ちょ、ちょっとすいません。窓開けます」
「いかがされました」
「鳥が怪我をしてて」
お優しい方だな-草詩様も見習ってくれたら、ほっと顔を下げた大蔵が、何か思い出したようにばっと斑の方を見る。
「いけません、斑様!」
「え…うわああああ!?」
「よう…会いたかったぜ、マイハニー」
赤い小鳥だったはずが、まばたきしてそこに現れたのは、血のように赤く長い髪と褐色の肌が印象的な、勝ち気で美しい小柄な少年だった。同じくらい真っ赤な布をつなぎ合わせたような目に痛い服を纏い、斑をしっかりと抱き込んでしまっている。大蔵を筆頭に人形たちが動くが、少年が制した。
「おっと、動くなよ。大丈夫、悪いようにはしねえよ」
「-、おい、何事だ!」
「お、もう来たか」
少年が満足そうに笑うと、遊馬と草詩が駆けつけてきた。斑を助けようと一歩前に出ようとした遊馬を制し、草詩が大股で前に出た。
「よー、水の」
「よー、火の」
「…やっぱり知り合いか?」
「うん、火の国の王様」
「おっ」
軽くこけそうになった。まだ王がいたのか、さすが異世界、後付け設定何でもありだ。まあ何にしても-遊馬がじろりと少年を睨み上げる。王族はどいつもこいつも問題児ばかりらしい。草詩と同じように、面倒な匂いがする。
「悪いがこいつもらっていくぜ。一目惚れしたんだ。我の花嫁にする」
「そいつ、可愛い顔してるが男だぞ」
「そうだぞ、セーラー服似合っちゃいそうだけど男だぞ」
「可愛くもないし、似合いませんよ!」
「つうか、お前も、わけの分からんこと言ってないで、正攻法で来ればいいじゃねえか」
「は?どういう意味だ」
「女だろ、お前」
空間が固まった気がした。長い長い沈黙の後、少年を女だと指摘した遊馬の肩を、草詩がぽんと叩いた。
「君の動物的勘はマーベラスだ」
「褒めてんのか、それ」
「な、ななななななんっ」
少年-否少女は、動揺しても尚勝ち気に笑い、斑は捕まえたまま離さなかった。
「何言ってるんだ…我は男だ!」
少女がそう叫んだ瞬間、強風のような圧力が遊馬にかかったような気がした。これは魔法だろう、が、申し訳ないくらい、相変わらず遊馬には目の前の子どもは女にしか見えなかった。
「王様には性別を偽る義務でもあるのか」
「んー、まあ、俺も知ってたけどねえ…めんご?まあ、俺ほど軽い理由じゃないにしても、理由があるでしょ。ねえ、一縷ちゃん」
「五月蠅い!気易く我の名前を呼ぶな!」
一縷と呼ばれた少女が、攻撃魔法だろうか、陣を空中で結ぼうとすると、斑が慌てて体ごと止めに入った。
「いけません、止めて下さい!!」
むにゅ。
斑の手が、分厚い布で覆われた一縷の胸元を思い切り掴んでしまっていた。その感触に、斑は慌てて離した。
「ごごごごごごめんなさいごめんなさい!」
「…お約束…何か飽きてきちゃったなあ。もう俺寝ていい?」
「飽きるの早ぇよ」
「き、貴様ああああああああ!」
「うわあああああああ!」
一縷は褐色の肌を更に羞恥で赤くしたまま、斑を押し倒してし、力の限り叫んだ。
「結婚しろ!責任を取れ!」
「ええええ!?」
「…明日は挙式だな」
「おめでとー。衣装はばらばらでいいよね」
「何っにもよくないです!助けて下さい!助けて下さい!!」
斑がほんとに泣きそうになってしまった為、もういい加減虐めるのは止そうと遊馬が場を片付けるように、何度か軽く手を叩いた。
「落ち着け、一縷、だっけか。とにかく斑を話せ。わざわざそいつに求婚する為だけに乗り込んできたわけじゃないだろう」
「…ふん、少しは話が早い男が王に就いたらしいな」
に、と笑った顔に、遊馬は思わずにらみ返した。年の割に、瞳の力が強い。幾多の困難を乗り越えてきた目だ、眠そうな草詩を軽く叩き、遊馬も髪をかき上げ、前に立った。
「話を聞こう」




