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「お前、何であいつが斑のファンだって分かったんだ」
一縷から会合を要請された。会合とはいえ時間が時間だ、当の斑は魔法に勝てず倒れるように眠ってしまった。翌日に回すよう促そうかと思ったが、一縷の様子はただ事ではなかった。演技ではないことはすぐに分かった。眠そうな草詩の頬を叩きながらちゃんと立たせると、にっと笑って人差し指を天井に差した。
「女の勘」
「つっこまねえぞ。そんなアテにならないもので動いたのか」
「まあ、簡単な推理だね。いくら火の王があんま頭良くないって言っても、要らないもの欲しがらないだろうし…それに彼女は小さくて可愛いもの好きで有名だ。斑君なんて、喉から手が出るくらい欲しいだろう」
「なるほどな…しかし、お前が人のことを悪く言うのは珍しいな」
草詩はあまり人のことを悪く言わない。悪口を言わないのではない、あらゆるものにさほど興味がないのだ。悪口好きよりまだタチが悪い気がする。草詩がにっと笑って口を開いた。
「まあね。王同士だからちょっと気になってるかも…タイプじゃないけどね。あとは、見てて、何か苛々する」
「頭がどうこうって話か」
「うん、悪いっていうより、馬鹿になりきれないかな。彼女は王には向いてないよ」
遊馬と一縷だけの会合とはいえ、多少の緊張感はあった。何だか始めてまともに王らしい仕事をしている気がする。扉の前には御倉たちが待機し、更に室内隅っこで草詩が眠そうに突っ立ってはいるが、あれは数に入れない方がいい。
振る舞うように出された酒を、彼女は断らず、一息に飲んだ。気合いのつもりだろう、全く嫌な気分にはならなかった。
「単刀直入に言おう」
「助かる」
「火の国の治安が悪いのはご存じか」
「悪いが、俺はほぼ余所もんみたいなもんだ。その辺の事情も全く知らん」
「そうか…では、まあ、最初から」
どこから話そうかな、と、一縷は昔話を語るかのように目を細めた。
「水の王は、海なるものを見たことがあるか」
「ああ」
「その海の水が、全て火だと思ってくれたらありがたい。それが我らの国だ」
「何だ、そりゃ」
想像してみた。が、あまりにも予想外で馬鹿馬鹿しく、すぐに止めてしまうほど、凄惨な光景だ。
「当然、作物もろくに育たない。商売もろくに出来ない。何か珍しいものがあるわけでもない。狭い湖と送られてくる物資を争うように使っている。それで我の兄弟たちも全て死んでしまった。我は最後の王族だ」
言葉が出なかった。だから男装しているのか-いや、そんなことはどうでもいい。情けない、声が出なくて、枯れるように発することしか出来なかった。
「頭悪い解答で申し訳ないが、他の国に援助を求めようとは思わなかったのか」
「我らの国は、身内にも乱暴だが、国外にはもっと乱暴だ。嫌われ者だよ。どこも取引しようとしてくれない。唯一私の侵入を許してくれたのが水の王だけだ。私が鳥の姿になって入れば、ここの国の者も騒がぬのではないかと」
少し驚いた遊馬が草詩を見ると、彼は片手だけ挙げて応えた。
「俺はもっと多くの援助を申し出たよ。さすがに可愛そうだし。でも、嫌だって言うから」
「必要以上の物資が来てはまた要らぬ争い事を産んでしまう…我は、残り少ない女子ども老人たちを守るように、ひっそりと生活しておる」
「ね、馬鹿でしょ。王様なんだから、ふんぞり返ってぶくぶく太ればいいのに」
「草詩!」
草詩がべっと舌を出したのを睨め付け、悪いな、と小さく謝ると、一縷は首を横に振った。
「いや、その考え方が王族というものだろうよ。我の両親もそうだった。それで国民全員に処刑されてしまったよ」
「…っ、すまん。同情の言葉も出てこない」
「いいさ。誹謗中傷は慣れている」
「-で?何でそこで斑君なの?とうとう自棄になって死刑にでもなろうと思った?」
またお前は、呆れて今度は咄嗟に怒鳴ることが出来なかった。ふと一縷の顔を見ると、泣いていた。反射的に草詩を睨み付けると、彼も驚いているようだった。
「先月…くらいのことだろうか。また物資を取りに…我が飛んできたときに…うっかり人の姿になってしまった。子どもたちは気づかなかったが、大人たちは気づいたのだろう。石を投げてくるものもいた。そんな中、もういいと言うのに、いつまでも、いつまでもかばっていてくれたのが、斑殿だった」
こちらも、呆れるくらい、斑らしい。今、その情景が、目の前にあるようだ。
「あの…斑殿の分け隔てない様子を見て思ったのだ。彼のような人が王位についてくれたら、きっと我の国も変わるのではないかと。他人任せで申し訳ないのは分かっているが、もう我には、どうしていいのか分からないのだ…と、いうのが3割くらいで斑殿とガチで結婚して我のものにしたいのが7割くらいだ」
「いい話が一転して台無しだな」
「是非犯したい、間違えた結婚したい」
「本音が漏れてるぞ王女様…惚れてる経緯はよく分かったが、そんな危険なとこにあいつを行かせるわけには」
「そうそう。それに、斑君、異世界から来たんだよ。火の国がどうこう、なんて知ったこっちゃないんだから、迫害しがいがないでしょ」
「何?!」
さすがにショックだったかと思ったら、一縷はうつむいてヨダレを拭いていた。
「異世界設定萌え…」
「もう駄目だ、ゆーま。この変態は裏庭にでも埋めてしまおう」
「そうか?俺は大分好感度が上がったがな」
「嘘、こんなのがタイプなの!?離婚!!?」
「すぐ泥沼に持って行くな。嘘をつけない人間と、素直に動きすぎる人間は嫌いになれない」
さて、と遊馬が立ち上がり、にっと一縷に笑いかけた。
「斑はやれねえが、いい国に来たな王女様。ここには気持ち悪いくらい優秀な魔法使いがいるぞ」
「あれれれれ、僕任せぇ?」
「解決策がないなら元から絶て、火を止める方法はないのか」
「無理だよ、あそこ火が強すぎて水がきかない。ほんとだってば。俺、前に行ったもん。嘘だと思うんなら、人形たちに聞いてもいいよ」
これは本当だな、遊馬がため息をついた。どうしてか、こういうときにこういう嘘はつかない。それでもここまで話を聞いてまさか投げるわけにもいかない。
「とりあえず、現場ひゃっぺんだな」
「捜査の基本だね」
「お前の国の視察に行くことにした」
「…っ、良いのか?我が言うのが何だが、本当に治安が悪いぞ」
「大丈夫、体だけは頑丈だよ。けど期待はするなよ。何も出来んかもしれん」
「りがと…あり、がとう」
一縷がこぼれるように笑い、遊馬が思わず少し顔を逸らした。これでどうして男に見えるんだ、国民とやらはどこに目をつけているのやら。




