19.ルキウス
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あの二人はやり方を誤ったのだろう。
それも最悪の方法で。
でなければエーリカがあんな姿で出てくるものか。あれは幻覚ではない。あの時、エーリカは確かにあそこに居たのだ。
私の誤算だ。二人を信じて仕事を任せてしまった……。
フェリクスは有能だった。怜悧で仕事が速く、政の泥を厭わない。宰相の息子という看板に頼らない有能な男だった。クレメントもだ。あの男は忠実だった。私の為ならなんでも出来る男だったし、私やフェリクスが定めた方針に異を唱えることもしない。まさに忠犬。
エーリカは地元に帰った、とフェリクスは言った。暇を言い渡す形にした、想慕は奉公の妨げになるという理由で。
手際よく、穏便に済むはずだったのだ。
しかしそのフェリクスは死んでしまったらしい。ジャハールは病死だと言っていたが本当だろうか。
そして今日、クレメントが狂って死んだ。
血走った白目、開ききった瞳孔。衛兵を殴り飛ばし、メイドを殺し、それでもまだ拳を振り回していた。
なにより書斎のあれだ。
アレシアの前に現れた──いや、あれは私の前に現れたのだ。アレシアには見向きもせず、私の頬に向かって手を伸ばしてきたではないか。
フェリクスが死に、クレメントが壊れ、私の前にあれが出る。三人に共通するのはエーリカの件だけだ。
地元に帰ったはずの娘が、あんな姿になるものか。
あいつら、エーリカに一体何をした。
エーリカが今も地元にいるなどともはや信用ならぬ。
私は追い出せと言っただけだ。それだけしか言っていない。なのに──。
何をしたかは知らない。
知らないが──あの姿を見れば、穏便でなかった事だけは分かる。
エーリカが私の前にあらわれた理由は恐らく、あの二人の始末を願ってのことだろう。しかし私が一向に動こうとしないので、自ら手を下したというわけだ。
彼女は私を愛していた。
あれだけ愛してやれば当然だ。随分と可愛がってやったからな。ゆえに、彼女が私に害を及ぼすはずがない。確かに彼女を追い出せ、とは言ったがそれはメイドの分を弁えぬ振舞いが目に余ったからだ。
それは正当な理由のはず。
それを何を勘違いしたのかは知らぬが、役立たず二人が曲解したまでの事。
だがその二人ももう死んだ。
だから今の問題はダグラスだ。
随分不興を買ってしまったように思える。選択を間違えたな。狂ったとはいえ私の元側近だ。メイドの一人や二人を殺したからといってその場で手打ちというのは映りが悪いかと思ったのだが。こんな事ならばさっさと衛兵に命じて始末しておくべきだった。
ともあれ、このままでは不味い。
グリューネヴァルト公爵家との婚姻は私の政略の根幹だ。領地こそ失った家だが、毒蛇公の名は宮廷の内でも外でも重い。父はダグラスに頭が上がらない。貴族たちはダグラスを敵に回せない。あの婚姻が成ればその全てが私の後ろ盾になるはずだった。
父上が弟に目をかけているのは分かる。諸卿も、弟のほうが御しやすいとみて私から王太子位を剥ぎ取る方法を画策しているものがいる。
だがグリューネヴァルト公爵家を味方につければ──
完璧な計画だったのに……その全てが崩れかけている。
あの二人のせいで──。
婚約は維持できるだろうか?
公爵家の後援を失えば、私の足場は──。
仕方ない。アレシアの機嫌をとって、そこからダグラスに──。
ああ、糞、肩が重い。
私も人の子だと言う事か。あいつらが余計な事をしでかしたせいで随分と疲れが溜まっているらしい。
しかしどうしたものか……ダグラスの性格を考えると、二人の件をうやむやにするというのは良くないだろう。
と、なれば──。




