邪魔なんですけど
大輔くんとカフェで会った。
前と同じ席だった。
「半田に気づかれた件、聞いた」
「うん。ソラから送った通り」
「家の前で待ってたのは、意外だったな。痛いところをついたんだろう」
大輔くんはコーヒーを回しながら言った。
「レンの住所まで調べてるってことだ」
「今は知るのは難しいから」
「怖いな」
大輔くんは少しの間、黙った。
「妨害は、もう難しいかもしれない」
「やっぱり」
「次の集会に行けば、半田は見てる。近づけば簡単に気づかれる」
「大輔くんは?」
「俺も怪しまれてるだろう。半田がレンの住所を知ってるなら、レンと俺が会ってることも知ってると思った方がいい」
「じゃあ、二人とも動けない」
「集会での妨害は、な」
大輔くんはコーヒーを一口飲んだ。
「まあ、気にするな」
「え」
「目的は集会を潰すことじゃない」
「じゃあ、何が目的だったの」
「仕組みは知れた。低周波から高揚への段取り、使っているデバイス、実働部隊の半田。知りたいことは分かった」
「それで、どうするの」
大輔くんは少し考えた。
「俺は、親父を変なことに巻き込みたくないだけだ」
親父。ERAの幹部、吉田祐輔。
「親父は本気でERAの理念を信じてる。エリートの時代を取り戻すっていう、あの理念を」
「でも、作られた熱気なんか本物じゃない」
「本物なら、あの仕組みはいらないか」
「そう。ここまでの情報を、まとめて、親父にぶつけてみるよ」
「なんて言うかな」
「わからない。ただ間違ってるとも言いたくない、話して判断は委ねるよ」
「お父さん、信じてくれるかな」
「信じるというか...誇りを失ってほしくはないと思うよ」
大輔くんはそう言って、コーヒーを飲み干した。
「レンは、自分のことを考えろ。半田の件は俺が引き受ける」
「え、でも」
「俺と目的が違うんだ。危険を冒してまでやりたいことか?」
「うん....違うと思う」
「悪いな、巻き込んで」
「巻き込まれたのは僕からだよ」
大輔くんは少しだけ笑った。
「じゃあ、ひとまずここまでだ」
「うん」
大輔くんは先に店を出ていった。
僕は紅茶を飲みながら、少しだけ残っていた。
帰り道、考えていた。
大輔くんは親父にぶつける、と言った。
大輔くんには大輔くんの戦いがある。
じゃあ、僕はどうしよう。
半田のことは気になっていた。
覚悟しておけ、と言われたこと。家の前で待っていたこと。
怖い、というのは本当だ。
何もしなければずっと怖いかもしれない。
それは嫌だ。
歩きながら、なんとなく、思いついた。
「ソラ」
「はい」
「東堂会長に会いに行こうかな」
「東堂さんに、ですか」
「うん」
「目的は何ですか」
「半田さんが邪魔だって、言いに行く」
ソラが少しだけ間を置いた。0.三秒、だった。
「邪魔、と言うんですか」
「うん。家の前で待ってたんですよ、って。覚悟しろとか言われたんですよ、って。
そういうの、会長が許可してるんですか、って聞きたい」
「東堂さんが許可していた場合は、どうしますか」
「その場合は……」
「はい」
「その時考えるよ。嫌だからやめてとか」
「それでやめると思いますか」
「さあ。でも嫌なものは嫌だから」
ソラは少しの間、黙っていた。
「レンさん」
「うん」
「東堂さんに直接ぶつけるということですか」
「うん」
「効果があるかどうかは、分かりませんが」
「分かってる」
「手を出しにくくなる可能性もあります」
「そうかも」
ソラは少しだけ間を置いた。
「アポイントを取りますか」
「取れる?」
「東堂さんの学生会のスケジュールは公開されています。明日の昼に空きがあります」
「じゃあ、明日の昼で」
「了解しました。送信します」
少し歩いた。
「ねえ、ソラ」
「はい」
「大輔くんは親父にぶつけるって言った。僕は会長にぶつけに行く。
やり方は違うけど、なんか、似てるね」
「そうですね」
「似てるけど、僕の方がたぶん、考えてない」
「それは否定できません」
「でも考えて考えて動けないのは嫌なんだ」
「動くこと自体が、意味を持つこともあります」
僕は少しだけ笑った。
空は少し赤かった。




