厄介な婚約者さまへ。貴方にはこれ以上付き合えません、婚約は破棄とします。
私アイリナは平凡な女。
しかし、婚約者である彼ダウスが少しばかり厄介な人物で、日々振り回されてしまっている。
「おいアイリナ! 今日は俺の家へ来て手作りケーキを出せと言った日だろ!」
「すみませんが、そうした話を受けたのは今日ではなく明日です」
ダウスはたびたび命令してくる。それもよく分からないような内容の命令を。そして、指定していた日とは異なる日にその話を再び持ち出してきて、まるで私が忘れていたかのような言葉を投げつけてくる。
これは彼の定番のやり口だ。
そうやって、ことあるごとに、私を物忘れの激しい愚か者であるかのように仕立て上げるのである。
そんなやり方にもう我慢ができなくて。
「失礼ですが、いつもそういったことをしてきますよね? 申し訳ないですが、もう貴方の相手をまともにすることはできません」
「は? 何だと」
「ですので、婚約は破棄とさせていただきます」
この際はっきりと言ってやることにした。
「ダウスさん、貴方とはここまでです」
「は、はああ!? 何を言い出す! あまりにも勝手すぎるだろう!」
嫌がらせばかりしてくる人とまともに付き合っていくことなんてできはしない。だから、終わりにしよう。結婚してもこんなことが続くと目に見えているから。もう付き合いきれない。
「では、さようなら」
いざ切り捨てられるとなると慌て始めたダウスは「ま、待て! 話し合いをしよう!」「勘違いしたこちらが悪かった! 頼むよアイリナ、婚約破棄はやめてくれ、印象が悪くなる!」などと騒いでいたが、相手にはしなかった。
人を舐めて馬鹿にしているとそういうことになるのだ。
失ってから気づけばいい。
己の行いの愚かさに。
◆
あれから三年ほどが経った。
私は今、聡明な青年と結婚し、夫婦として穏やかな幸せを満喫している。
ダウスとの婚約を破棄した直後に出会ったのが、夫となってくれた彼だった。彼は無口な人だったが、いざ少し話し出すと豊富な知識が煌めく興味深い話をしてくれたので、そんなところにぐんぐん惹かれていった。
ちなみに、ダウスはというと。
あの後、同性の友人らに婚約破棄されたことをネタにされ馬鹿にされたことでプライドがズタズタになったのか心を病んでしまい、今は実家に引きこもる状態となってしまっているそうだ。
◆終わり◆




