わたしの家の前、いつもこの道を通るあなたのことが、どうしても気になって……?
あなたはいつもこの道を通る。
わたしが暮らす家の前。
それほど目立つ道でもないのに、あなたは毎朝ここを通って、どこかへ向かって歩いていく。
――そのたびに、胸の内で何かが弾ける。
嬉しいような、切ないような、甘酸っぱい色。それが胸を満たすのだ。知り合いではない、それなのに、あなたの歩く姿を見るだけで心が震える。他のものからは感じることのないような何か、を、あなたの姿からは感じる。
このままいつまでも知り合いにもなれないまま?
このまま他人のままで生きていく?
……仕方がないのだ、他人だから、知り合いになんてなれるわけもない。
だからべつにそれでいいと考えていたのだけれど――その日は突然やって来た。
「あ、あの!」
なぜかは分からない。
でも今日は話しかけなければならない気がして。
だからわたしは家を出て、思いきって声をかけた。
当たり前だが、あなたは驚いた顔をしていた。けれども不快感を抱いているような雰囲気ではなくて。予想していたよりかは悪い雰囲気の反応でなかった。
「えっ、と……」
「すみません、急に。声をかけてしまって」
「いえ。ですが、ぼくに何がご用でしょうか? 話しかけてくださったということは、何か、用事があるということですよね」
わたしはもう自分の心に嘘をつけない。
「ここの家の者なのですが、実は、何度かお見かけしたことがあって……」
「ああ、そうだったのですね」
「なんといいますか、非常に曖昧なのですけど、気になってしまって。それで一度声をかけてみようと……変ですよね、こんなの。すみません……」
すると彼は柔らかな表情を作る。
「これもきっと何かの縁。よければ、お話ししましょう」
あ、あれ……? 思ったより、かは……悪い展開じゃない……?
そんな風に思って。
若干動揺しながらも。
「ぜ、ぜひ!」
一歩、前へ。
踏み出してみよう。
何も分からなくても。
確かなものなんてなくても。
◆終わり◆




