今までありがとう。……って、いきなり婚約破棄とか勝手過ぎませんか!?
「今までありがとう。けど、俺、彼女と生きることにしたから」
婚約者である彼ザルティスがそんなことを言ってきたのは、ある平凡な夏の昼下がりだった。
「だからさ、君との婚約は破棄とするよ」
隣には金髪の可憐な女性。
彼女は誇らしげな面持ちでこちらを見ている。
「え……それ、本気で言っているの?」
「もちろんだよ」
短いやり取りを聞いた彼女はやがて眉尻を下げながら「婚約者さん……ごめんなさいね、こんなことになって」とわざとらしく言葉を発した。
「でも、わたしたち、本気で愛し合っているんです。だから……ザルティスさんのことは諦めてください。あなたには、ザルティスさんの隣にいる資格はありません」
長い睫毛に彩られた目もとには、さりげなくも深く、圧倒的な自信の色が滲んでいる。
「あなたにはもっと相応しい相手がいると思いますよ」
そう言って、柔らかく微笑む。
今すぐそこから退いて。
そんな風に言いたげな笑みだった。
「じゃ、そういうことだから、バイバイ」
別れの言葉を告げたザルティスは、隣にいる女性を愛おしそうに見つめる。
君はもう要らない、と、分かりやすく告げているかのように。
◆
あの後ザルティスと女性は婚約したそうだが、それから少ししてザルティスが別の女性と親しくなり、婚約していた女性はショックを受けて自ら命を絶ってしまったそうだ。
浮気男に娘の命を奪われた彼女の両親は激怒。
ザルティスを徹底的に責めた。
高額な慰謝料の支払いを求め、また、メディアにその話を持ち込むことで事を大きくする。
それによりザルティスの悪い評判は世に広まり、彼は社会的に終わった。
一方私はというと、婚約破棄された直後に近所の喫茶店でたまたま知り合った青年と親しくなり、現在は婚約への道を歩んでいるところ。
明日のことはまだ分からない。
確かなものはない。
ただ、それでも、今は未来に希望を抱くことができている。
◆終わり◆




