婚約者の自室に見知らぬ女性が!? しかもいちゃついているって……どういうことですか!?
「ねー、そろそろ結婚考えてよぉ」
「それは……もうちょっとだけ待ってくれ。いずれ必ず結婚するからさ」
「えー! 待てなーい!」
「何でもすぐにすぐにってわけにはいかないんだよ」
その日私は見てしまった。
婚約者である彼アバンダンズの自室に見知らぬ女性が入り込んでいる光景を。
はじめは信じられなくて。まさか恋愛関係ではないだろう、と思ったし、もしかしたら仕事の用事か何かかも、とも思った。けれども会話を聞いているとどうもそうではないようで。明らかにそういう仲であるような言葉が飛んでいて。
見なかったことにするべきかどうか迷ったけれど、それでは私という人間があまりにも報われないので、突撃することにした。
「こんにちは、アバンダンズ。今用事中だった? 急にごめんなさいね。話があって。……で、そちらの女性はどなた?」
何の前触れもなく突撃したものだからアバンダンズは硬直する。
「アバン、ちょっとぉ、この女誰よぉ」
「あ……いや、その……」
「どうなってるのぉ?」
「彼女は前に言っていた婚約者なんだ」
すると女性はふふっと笑う。
「そう。……思ったよりダッサぁい」
それから彼女はこちらへ視線を向けてきて。
「貴女、残念だけれどぉ……アバンが愛してるのはあたしなの。貴女が婚約者さんだとしても、それは形式だけのものよ」
「一体何を」
「だから、そろそろアバンから離れてくれない?」
「めちゃくちゃな理論ですね」
「アバンが愛してるのはあたしだけなのよ? それでもまだ婚約者の座に縋りつくつもり? だとしたら貴女って余裕ない人ね。ダッサぁ」
そんな風に毒を吐いてきた。
どうやら女性はすべてを知っているようだ。そして、すべてを知ったうえで、アバンダンズといちゃついている。ということは、より悪質なタイプの女。私の存在を知らず、騙されていて、アバンダンズを愛していたならまだ救いはあったのだけれど。どうやらそういう彼女もまた被害者パターンではないようである。
「すみませんが、婚約者の座を譲るつもりはありません」
「んもー……どこまで分かってないの? 馬鹿なの? アバンが愛してるのはあたしなんだってば!」
「そういう問題ではありません」
するとカッとなった女性は。
「ウザ。何でもいいからさっさと消えてよ!」
突き飛ばしてきて。
「っ……」
バランスを崩して転んだ勢いで、後ろに置かれていたタンスで頭を打ち、私は命を落としてしまった。
「お、お前! さすがにやり過ぎだろ!」
「知らないわよぉ」
「そういう問題じゃない!」
「でもぉ、アバンとしても、ちょうど良かったでしょぉ? 婚約者なんて邪魔だっただけだろうしぃ」
◆
私は命を落とした。
女性に突き飛ばされたせいで。
だが、魂だけの状態となった姿で、アバンダンズが女性を三階の窓から落とすところを目撃した。
女性が私を殺めたことに対してアバンダンズは怒っていたようで。
一応彼の中にも少しは私への想いは残っていたようだ。
雑なやり方で私という人間一人の命を奪われてそれでもなお気ままに笑っているほど心ない人ではなかったようだ。
アバンダンズはもう私を愛してはいないのだろう、けれど……怒ってくれて、少しは救われた気がした。
私の死によって、私たちの婚約は自動的に破棄となった。
女性はアバンダンズに窓から落とされた際に負った傷が原因となり落命したそう。
一方アバンダンズはというと、女性を三階の窓という高所から落とした罪で逮捕されたようだ。
私を傷つけた彼らに幸せな未来は訪れなかった。
◆
数十年後、新たな命を授かり生まれ落ちた私は、高貴な家柄の娘として大事に育てられ――同じく国内で高い位を持つ家の青年と結ばれた。
◆終わり◆




