結婚したいって思えるような女じゃねえ、だなんて、酷いことを言いますね……。
「あんたはさぁ、正直、結婚したいって思えるような女じゃねえんだよな」
その日、婚約者である彼アイロスから急に呼び出され、戸惑いつつも指定の場所である町の喫茶店の前へ行ってみたのだが。
「てことで、あんたとの婚約は破棄するわ」
そんな宣言をされてしまっただけだった。
「え……」
「だ、か、ら、婚約破棄する、って言ったんだよ!」
「本気なのですか?」
「あったりまえだろ! そんなくだらねえ嘘つくかよ! 俺は常に本気なんだよ! 人生に、な!」
攻撃的な物言いをする彼はまともな説明はしてくれず。
「もういいだろ。じゃな。あんたとはここまでだ、さよなら。……とっとと消えろや!」
流れのまま切り捨てられてしまったのだった。
◆
あの婚約破棄の翌日、アイロスは命を落とした。
というのも、彼が住んでいる実家に賊が入り込んだそうで、賊たちに家を荒らされたうえ命を奪われてしまったのだそうだ。
そんな風になった理由があったわけではなかった。
それは負の意味での偶然。
なんともいえない不運、たまたまによって、彼は命を落とすこととなってしまったのである。
そんなことがあるのだろうか……とも思ったけれど、彼が急に私との関係を叩き壊した事実を思い出したなら、まぁそういうこともあるものかなと思えて。
それはある意味彼の運命だったのだろう。
誰にでも運命がある。
それは絶対的な定め。
ならばこの世には突如落命するという道を辿ってしまう人間も存在するのだろう。
……さようなら、アイロス。
今はただそう告げて。
そして別れを告げよう。
記憶に。
過去に。
すべて、過ぎ去ったものとして、ここに捨て置いてしまおう。
◆
あれから数年、私は今とても穏やかな日常を手に入れることができている。
「これ、すっごく美味しいね!」
「本当?」
「君が焼いたやつ?」
「ええそうよ」
「自然な味わいが最高だよ!」
郵便事業を開始した男性の息子である青年、その人こそが私の夫だ。
「気に入ってもらえたなら良かったわ」
「うんうん! めちゃ大好き! 味がサイコー!」
◆終わり◆




