婚約破棄されましたが、穏やかな幸せを手に入れることができました。〜お茶が美味しい毎日です〜
冷たい雨が降りしきる夜。
婚約者である彼ラウンードが突然訪問してきたので何事かと思ったら。
「君との婚約だけど、破棄することにしたから」
そんなことを告げられてしまった。
「え……」
「もっと好きな人ができたんだ、ごめんよ」
さらりと言って、彼は帰ろうとする。
「ちょ、ちょっと! 待って! 一体何があったの?」
「もう言ったよね。もっと好きな人ができた、って。婚約破棄の理由はそれだから」
「いきなりすぎるし、意味不明だわ」
「しつこいなぁ! 理由はもう説明した、だからそれでいいじゃないか。じゃあこれで! さよなら!」
彼は話を無理矢理終わらせると去っていった。
いきなり婚約破棄を告げてきて逃げるように去っていくってどういうこと……? と思いつつも、言えないままで、彼との縁は切れてしまったのだった。
……それから数日、ラウンードはこの世を去った。
ラウンードには私と婚約している時から関わりを持っていた女性がいたそうなのだが、ある晩ちょっとしたことで大喧嘩になってしまい、掴み合いの喧嘩に発展したそう。そんな中で、ラウンードは女性が放った強力なパンチをまともに食らってしまい、その場で落命することとなってしまったらしい。パンチを食らった彼は一瞬で意識を失い倒れたそうだが、その時には既に落命していたと思われる、とのことだ。
もっと好きな人、と言っていたのは、恐らくその浮気相手の女性のことだったのだろう。そんな人に命を奪われることになるとは、驚きである。きっと本人も驚いたことだろう。好きな女性に殴られ落命するなんていう展開は、彼自身も想像していなかったはずだ。
だが、彼が命を落としたことは事実であり、今後何があったとしてもそこは決して変わらない。
彼女でなく私を選んでいたらラウンードは今も普通に生きていただろうに……。
ただ、それを選ばなかったのは彼なのだから、可哀想と思ってあげる必要はないだろう。
彼が選んだ道の先にどんな悲劇があったとしても、それは私には何の関係もないこと。
すべての責任はその道を選んだ彼にあるのだ。
私はただ被害を受けただけ、私が彼を救える道などはどこにも存在しなかった。
◆
「この前言ってたお茶、淹れてみた」
「ありがとう!」
あの後町で知り合った家庭的な青年と結婚した私は、今、穏やかに暮らしている。
「砂糖なしだけど……大丈夫かな?」
「ええ、まずは砂糖なしで」
「後から入れるんだったら言ってね」
「ありがとう、入れたくなったらその時は頼むわ」
いろんなことがあったけれど真っ直ぐ生きてきて良かった。
辛いことも。
悲しいことも。
頑張って、乗り越えて、一歩ずつ進んできて良かった。
今は強くそう思う。
「これ……! すごく良い香りね。とっても美味しいわ!」
「気に入った?」
「ええ! 大好き!」
「なら良かった。またいつでも淹れるから、飲みたくなったら言ってね」
こうして夫となんてことのない言葉を交わし合える日々、それはまさに幸せの形そのもの。
「毎日でも飲みたいくらいよ」
「じゃあ毎日でも」
「ありがとう。でも……さすがにそれは甘えすぎかしらね」
「そんなことない、いつでも頼ってよ」
「いいのかしら……そんなわがまま言って」
「いいんだよ」
「そう……ありがとう、本当に」
「お茶淹れるの好きだしね」
◆終わり◆




