07
「無理無理無理!」
「あれは無理だろ…」
「無理じゃろのう」
「旦那、もう引き返そうぜ」
「うーん……ここってどうやって先進むんだろ?
湿地帯抜けて行くのかな?
通った事あるはずなのに前来た時はどうやって進んだんだっけ……」
「それなら、あそこの湿地帯は単なる蜥蜴達の巣で、あいつらは律儀に手前の部屋まで来るぞ。
そんで、それを全て倒せば違う道が開く仕組みじゃー」
「ふーん、メッサー詳しいね」
「えっ……俺じゃないけど?」
「へっ?」
ザンジがあたりを見回すと、メッサーの後ろに小柄な老人がいた。
しかもフワフワと浮いている。
「おわっ!?」
「しかもこれ透けてねぇか!?」
「ゆっ、幽霊だ!!」
「死んでるのはお主もだろ」
十五層の入口まで逃げ帰ってきたザンジとメッサー、老人の幽霊に出くわした。
「旦那、これって俺も霊感ついたって事なの?」
「同じ存在になったら見えるって事じゃないかな?
ただ、存在が希薄な霊だとわかんない」
「いいかな?
私の名前はズッカール。
墓守に見えるのはともかく、死人の若いのにも見えるって事は……やはり死んだんじゃなぁ……」
「ここのリザードマンにやられたんですか?」
「いや、具合が悪くなって隠れていたんだが。
そのまま心臓発作で死んでしまったらしい。」
「なるほど、ちょっと待って下さいね」
ザンジがカードに魔力を注ぐと、小さな岩を老人の幻影が指し、すぐそばの霊体に吸い込まれていく。
上下の階層程度なら、本体が近いため霊体のみを呼び出す事が出来る。
その時にカードを使うと同じ事が起きるので、どうやらズッカール本人に間違いなさそうであった。
ズッカールが手を横に振る。
すると、幻術が消えて遺体が姿を現した。
「おー、これって依頼の爺さんじゃね?」
「そうみたいだね。
ズッカールさんは一週間前に連絡を絶たれていたので、家族からの依頼で来ました。
護衛の方達は無事に引き揚げています」
「よかった……。
さっきの黒い蜥蜴は特殊な個体で、ここに通常一匹はおる。
しかし、長い事誰も来ないもんで、異常繁殖したみたいだ。あれは魔法が使えない護衛だけでは絶対倒せん」
「爺さん詳しそうだな」
「そらそうだ。
この迷宮は最高二十六層まで到達した事がある。そこの墓守の先代と隊を組んで潜った時じゃよ。」
「父をご存じで?」
「うむ。立派な方でしたな……
死人も当時は、大太刀使いの「ダイテツ」殿と、大魔術師の「ソロモン」殿がおられ、私は着いていくのがやっと……」
「そうですか……」
それから、ザンジ達は依頼も終わった事だし引き揚げようと言う事になった。
ところが、ズッカール老がごねた。
「大丈夫!私がいれば勝てる!!
そもそも、あの蜥蜴共を倒したら帰るつもりじゃったんじゃ!!」
「でもなー……」
「無理だって!死んじゃうって!!」
「死んでるけどね」
「念入りに死んじゃう!!」
「お前さんの隊にこれから死人として加わってもいいぞ」
「やりましょう!」
「旦那~」
水底より冷たく
白狼より白く
雨よりしんしんと
無慈悲で
されど美しい……
十月よ……来たれ……
十体の黒いリザードマンは湿地から上がるとすぐに戦闘態勢に入った。
しかし、ズッカールの朗々と詠うような詠唱の言葉が聞こえてきた時には既に遅かった。
一瞬色を失ったかと思うと、キラキラとした結晶を纏い、気付いた時にはリザードマン達は下半身を氷で覆われていた。
「どうじゃ」
「すげー爺さん!!」
「やりますね!」
「まだまだ!」
ズッカールは氷結の魔術を終えると、次の詠唱に入った。
其れは鉄に宿り
轟音を纏い
空を駆け
雲に住まう
されど目に留める事能わず
共に悦びの道を駆け巡らん……!!
部屋中に閃光が輝くと、雷が落ちた。
範囲も威力も申し分無い技だ。
「ぐぐぐっ!?」
「ぐぁ?」
リザードマンは凍り付いたままではあったが、なぜか雷にやられた者はいなかったようであった。
「あれ?」
「結構……と言うか全部生きてますね」
「しまった……鉄の鱗は雷を地面にそらすのを忘れておった……」
「えっ?」
「しかも魔力切れじゃ」
「ええええーーっ!?」
「旦那~」