27
少し過激です。
ギリギリ全年齢向けだと思います。
ご注意下さい。
別れの3月…
例年より早く桜が満開になった。
まるで皆の門出を祝福しているかのように。
彼方達の手には卒業証書が握られ、
胸には卒業生を示す造花がつけられていた。
他の卒業生にはみんな父兄が同伴だったというのに、
彼方には誰もいなかった。
あれから考えた。
美笛に言われたことを。
しかし、今の義母は爆弾に等しい。
『家族をする』と言っても何から始めたらいいかわからずじまいだった。
「岡咲先輩がいなくなるなんて寂しい〜」
「岡咲先輩、ボタン下さい!」
「大学の演奏会、必ず行きますから!」
女子にモテる彼方は後輩達の間で引っ張り凧だった。
「彼方、ちょっといい?」
後輩の群れを分け入って、
声をかけてきた京香。
何だか深刻な面持ちだ。
そのころ、美笛は聖堂で最後の祈りを捧げていた。
美笛が所属しているのは聖公会だが、
この学校はプロテスタントだった。
しかし、美笛はそれでも毎日熱心に祈りを捧げていた。
「愛」の教えに宗派や宗教の壁はないのだと。
(とうとう、カナちゃんに本当のことを告げることはできなかったわ…。)
美笛は十字架を見上げながら、彼方を思った。
「美笛。」
聞き慣れた声に美笛は振り返った。
彼方が顔を真っ赤にして立っていた。
「どうしたの?そんな怖い顔して…。」
美笛はたじろぎ、後ずさりした。
「どうしたじゃねーだろ!」
彼方は低い声で突き刺すようにいった。
そしてツカツカとこちらへ寄ると
美笛の頬を平手でバシッと打った。
「きゃあっ!」
美笛は叩かれた頬を押さえると
彼方をまじまじと見た。
彼方の目は座っていて、肩で息をしていた。
実を言うと彼方に頬を打たれたことは何回かある。
しかし、こんな顔をされたことは初めてだ。
「…なぜ黙ってたんだ。」
彼方は呻くように言った。
「…………。」
美笛は口が動かなかった。
まるで冬の寒い日みたいに。
十数秒間、二人の間に沈黙が流れた。
「カナちゃん………。」
呼びかけでも何でもない言葉。
美笛もこのときだけは、
神のことも、
イエスのことも、
自分がクリスチャンであるということも忘れていた。
頭の中を支配しているのは目の前にいる彼方。
興奮で顔を真っ赤にして奮えている彼方。
美笛はどうしたらいいかわからなくて
混乱して頭が爆発しそうだった。
しかし、本当に混乱するのはこれからだ。
次の瞬間、美笛はドサッと床に押し倒されていた。
「きゃっ!」
何をされるのかと怯えていると、
彼方が上にのしかかってきた。
美笛は恐怖を感じ、目をぎっと閉じると顔を横に反らせた。
しかし、彼方に顎を掴まれ顔を元の位置にぐいっと戻された。
一体何をしようというのか。
美笛はわなわなと震えた。
「!?」
いつの間にか美笛の唇に温かくて柔らかい感触があった。
きっと彼方の唇だろう。
美笛が驚いている間に唇が割られ、
彼方の舌が激しく口内を侵し始めた。
唾液が流れ込んでくるのを感じる。
美笛は動揺のあまりほとんど何も考えられなかった。
ただ彼方を押しのけようと彼女の細い肩を押すが、びくともしない。
こんな華奢な体のどこにこんな力があるというのか。
しかし、何としてでも押しのけなければ。
何が起きているかわからないという混乱の中、
『これがお前の望んでいることだったのだろう?』
と、悪魔の囁きが聞こえたような気がした。
(やめて!)
全否定はできないだけに美笛はますます錯乱状態に陥った。
やや鉄の味も混じり始めた。
しかし、彼方はそれでもお構いなしで美笛の唇を貪り続けてた。
(カナちゃん……!)
美笛は奇妙な夢でも見ているのかと思いはじめていた。
この子は誰だ。
自分の知っている彼方ではない。
そのとき、
彼方の手が美笛の胸に触れた。
「いや!!」
その瞬間、美笛は反射的に彼方を力いっぱい突き飛ばしていた。
「いてっ!」
壁に頭をぶつけてしまった彼方。
「あ……。」
美笛は彼方を突き飛ばしたことを後悔するようにたじろいだ。
「美笛………。」
彼方は痛みに呻きながら名前を呼んだ。
美笛は立ち上がると潤んだ瞳で彼方を見つめた。
「…………っ!」
そして顔を覆うと、逃げるように聖堂を飛び出していった。
いつの間にか
ゴーン、ゴーンと聖堂の鐘がなっていた。
正午を告げる鐘だ。
「………っ!」
彼方はぼんやりしていたが、
ふと、唇に痛みを感じ手を当てた。
彼方の唇からは血が滴っていた。
美笛が勢いあまって噛んでしまっといたのだろうか。
今の彼方は冷静に物事を考えることはできなかった。
「美笛………。」
神聖な鐘の音が響き渡る中
彼方は美笛の残した痛みに恍惚と震えていた。
続く。




