第1話.出会いは必然か
カッーーン カッーーン
そこは数百年放置された城の亡骸。
賑わいを見せたのは遥か昔。
苔が繁茂し中庭だっただろう場所に草花が栄える。
まさに遺跡、まさに廃墟、まさしく何も無い場所だろう。
そんな場所に少年が腰を据えて遺跡の床を暴こうとしている。
何もないのは関係ない、そこにナニカアルという自身の勘を信じる。
「硬ってぇ…」
余りの硬さに衝撃が伝わった手を庇う。
廃墟とは言え元は城だ、【エンガット】屈指の豪商とされた首領が遺す、度を超えた遺産の一つ。
「そうやすやすと壊されては困る」と職人の声が聞こえる。
(本当に普通の廃墟なのかな)
一抹の不安がよぎりそうになり
一度休憩を取ろうと小高い場所から一望する。
(にしても良い場所だ!景色もだけど、なにより、この規模の遺跡!)
平原の小高い丘に広々と構えるのは歴史を紡いだエンガットの駐屯基地。
現在の国神はこの地で人々と誓約を交わしたとされている、そんな歴史のある場所にナニモナイなんてアリエナイ。
きっとそうだと自身に言い聞かせ深呼吸する。
見渡すと水が流れ込む場所に気付く。
出処は塔から絶え間なく滴り続ける小さな水脈だった、貯まる訳でもなく、地面に吸われる訳でもない。
何かある…少なくとも空間が存在するのは間違いない。
少年の肌が逆立つ。
ナニカだったものが何かに
アルはずだという勘が実感に変わり始める。
休む暇はない、水を辿っていこう。
流れに沿って歩くと窪みがある、窪みにはツタがあり流れはその根元へ向かっているようだった。
少年は降りて堆積した土を退けると一際太いツタが埋まっている。
肉植物や生物の触腕ではない事を確認する為触れてみる。
毒は?熱は?動きは?
昔見た本の危険基準なんてものを鵜吞みに確認する。
「大丈夫そう? なら次は根元か…」
よく見るとツタは張り巡らされており、それは木からの根のようだった。
こんな硬い地面を割って生える自然の力に関心しつつ
腰に下げたナイフを取り出しツタへ突き立てる。
すんなりと入ったナイフの切り口は一瞬にして広がり中から大量の液体が噴き出す。
「うわ!」
突き立てたナイフが吹き飛ぶ程の水流により少年は尻餅をつく。
窪みから抜け出そうとするが上手くいかない。
それもそうだろう、ツタから出てきたのは樹液だからだ。
踏ん張ろうとも摩擦が足りずどんどん窪みの中へ落ちていく。
幸い樹液は水とともに下の空間へ流れているようで溺れる心配はなさそうだ。
「あぁ~、どうやって上がろう」
全身びしょ濡れ、肩や肘の関節の防具は樹液で固まり動きずらいことこの上ない。
気分ダダ下がり、ガン萎えである。
ズズズッ
重い音が腹に響く、まるで巨大な石臼を動かしたような重く鈍い音。
「ん?」
見渡すと今の今まであった憎きツタが無い。
いや?違う!萎んでいる!
城とはいえ遺跡、遺跡とはいえ瓦礫。
既に限界を迎えた土台をあのツタが支えていたとしたら?
様々な予感が頭に浮かぶが
とにかくこれは
まずい状態なのは明らか。
「っ!」
登ろうと瓦礫をつかむが樹液で滑って埒が明かない。
ピッケルを手に取り登ろうと隙間へ差し込む。
しかし裏目に出た。
「あっ」
差し込み登ろうと力をこめた時点で異変を感じる。
あまりにも軽い…。
差し込まれた瓦礫は剥がれ、少年は体制を再び崩し尻餅をつく。
既に地盤は限界を迎え
一つの床は再び瓦礫の姿を取り戻すようにボロボロガラガラと音を立て始め
少年と共に向う 下へ 下へ。
思えば一瞬の出来事だったろう。
しかし少年にとっては酷く長い一瞬を過ごしながら
落ちていく。
少年は瓦礫と共に「うぉぉわぁあ!」と叫んだ。
激しい水しぶきを上げながら水路へ落ちる。
幸い生き埋めにはならず横の足場へ這い上がることが出来た。
「ぷはッ」
ゼーゼーと息を切らし身を乗り出しながら
「なんなんだよいったい…なんで木のツタが破裂すんだよぉぉ、痛てぇよぉ(泣)」
あまりの出来事に自然と愚痴が溢れる。
裾を上げると腕や足に擦り傷が出来ている。
ジクジクと痛みが続く。
傷口に樹液が張り付き止血されている代わりに痛むのだ。
「なんだ?ここ?」
望む形ではないものの目的の場所には来れた。
しかし場所が奇妙だ。
見上げると例の場所から一階層越えて落ちてきたようだ。
城
城の床
地下路
地下水路←今ココ
「上がれるの?これ…」
奇妙なのはそれだけではない。
灯りがある、それも松明の灯りだ。
廃墟部分はもちろん調べ尽くした、実は地下も見れる場所は見尽くしていた。
当然人の気配は一切しなかったし地下はもぬけの殻で無味乾燥、一度見たからこそ浸水した場所は無いのに水が流れ込む場所に惹かれたのだ。
少々不安はあるが前に進むしかない。
少し進むとすぐに気づく。
「手入れされてる?」
この遺跡の石材は黒色だ、超が付くほどの高級建築に使われる鉄橋石を混ぜて作られるレンガや接着剤は周りの空気に触れると結晶を伸ばして自身をより強固にする。
しかし10年ほど経つと平らな面がゆがんだり接着面からはみ出してくるので定期的に削る必要がある、何百年も経つこのような地下で原型を留めているのはあり得ないのである。
誰も近寄らない上にアンガットなどの盗賊が住んでいないのは前情報で確認済み。
だからこそこんな軽装の子供が一人で探索出来るし、廃墟でも堅牢さが保証されているからこそ誰からも注意されない。
「誰もいないんだよね?」
少年に様々な予想が立つ。
(国が使ってる通路?廃墟を使った秘密基地?)
何者かがこの場所を利用しているのを感じ始め
廃墟探索にしても素人が手を出すには危険すぎる。
しかし少年の心には不安を覆いつくす
期待・興奮・好奇心。
ここに来て引き返すなんて「ありえない」。
少しずつ慎重に歩く、観察しながら水路を進むと小さな穴や壁に掛けられた看板などがあるが
/2///掃/フ-///
//30//レ///
「よめない」
何年経過したかわからないが劣化がひどい。
「手入れはしてるけど使ってないのか?」
未知の場所を進み続け
「あっ…あった」
小さな声がこぼれる。
落ちてきた場所から4ー5分だろうか。
暗く長い水路脇を進んで見つけたそこにあるのは
光が漏れ出す扉。
声が聞こえるでもなく物音すらしない。
ただ普通の扉がそこにある。
なぜだろう心臓の音が大きい。
喉が渇く 汗が頬を伝う。
一人で見つけた遺跡の扉。
覆い隠せない不安がこみ上げるが扉を開く決意を固めるまでの時間は必要なかった。




