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イニシャル

 取り出したマネキンを畳の中心へ立たせまして、更に押し入れから服を取り出し、マネキンの横へと積み重ねます。そして一息つくために地へと腰掛けまして、マネキンを再度見つめていると、頬が緩むのです。そう、私の趣味というのは()()()()()()()()()なのです。きっとこれを聞くと、悍ましいは言い過ぎではないかと思われるかもしれません。ですが残念ながら、世間様の評価としましては()()()()とされているのです。勿論、性別、年齢という部分が大きいのですが。

 暫く眺めた後、いよいよ腰を上げ、服へと手を掛けまして、マネキンを着飾っていきます。まずは地元の女子高の制服から着せることにしました。

 昔、この女子高に思い人がおりまして、その人に告白したのですが、その人には、とっくに番いがおりました故、付き合うことはできませんでした。ですがどうしても、何か彼女との繋がりが欲しく、妹を出汁にして制服をいただいたのです。つまり、この手に持っております制服は、嘗ての思い人その人の制服なのです。自分でも頭のおかしい事だとは重々思っております。ですが、恋とは人をおかしくするもののようなのです。

 マネキンへ着せ終わり、再び地へと腰を据え観察しておりますと、前には気づけなかった事に気が付きました。何と、スカートの裾の所にNの文字が見えるのです。そう、彼女のイニシャルです。何故今まで気が付かなかったのでしょう。もう眺め続け4年にもなるというのに、一度も気が付かないだなんて。とても滑稽です。私は更に近づきイニシャルを確認します。それはもう真剣に。

「気付かなんだ」

 思わず口に出てしまうほどの衝撃でした。必ずです。必ずこの制服を着せた時には、ここの所を見ていたはずなのです。まさに灯台下暗しです。今日はこの感動でもう胃の痛みを忘れられそうです。

「何と、何と」

 イニシャルを発見してから大体4時間が経過したころです。さすがに腹が減ったので、自宅のアパート近くにできたというレストランへ足を運び、食事を済ませたのですが、私はとんでもない事に気が付いたのです。そう、金が無いことに。滑稽です。本日二度目の滑稽です。イニシャルを見つけた興奮で、金が無いことを忘れるだなんて。穴があったら入りたい。

「お客様。まもなく閉店の時刻ですので、お会計をお願いいたします」

「あ、ああ。間もなくいたしますとも」

 冷汗が止まりません。誰かに頼ろうにも、私にはそのような頼れる友人などおりません。携帯電話を開き電話帳を確認したところで、時間の無駄なのです。そう悩みに悩んで一人、人を思い出すのです。そう、彼を。私は急いで電話を掛けました。

「ああ、誰だい、こんな夜に」

 彼の不機嫌そうな声に少々たじろぎましたが、状況が状況ですので、意を決して言葉を紡ぎます。

「す、すまないねこんな夜に」

「何だ君か。何の用だい」

「実はバカしちゃってね。私の住んでいるアパート近くに出来たレストランに来てくれないだろうか」

 暫くの沈黙の後に彼は溜息を吐き口を開きました。

「君、金が無いんだろ。金が無いことを忘れたんだろ」

「その通りだ」

「本当バカをしたね。で、僕に立て替えて欲しいと」

「その通りだ」

「嫌だな、そういうの。僕は銀行じゃないんだよ」

「その通りだ」

「何で偉そうなんだい。おっしゃる通りです位言ったらどうなんだい」

「お、おっしゃる通りです」

 彼ははははと豪快に笑い、続けました。

「よ~く分かった。立て替えてやるからちょっと待ってな」

「ありがたい」

 金の確保が出来ました故、店員へ話を着け待っていますと、彼は物の4分で現れました。

「早かったね」

「ああ、君に用があったんで、すぐそこまで来てたんだよ」

「そうだったのかい。いやあ本当にすまない」

「良いって。ただ、その分の仕事をしてもらうからな」

「仕事? 」

 彼はそう言いますと手際良く会計を済ませ、外へと出て行ってしまいました。私は勿論慌てて追いかけました。

「ちょっとちょっと。用ってのは何なんだい」

「まあ乗れ」

 彼はとても高そうな外車のエンジンを吹かしながらそう言いました。私は、不穏な空気に今にも逃げ出したい気をグッと堪え、助手席へと腰を下ろしました。

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